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日本舞踏公演会

 フロントの近くに小さなステージのようなものが設置されていて、その場所を前方にして、看護師の方々に連れてこられた、色んな老人が集まっていた。


「水瀬さん。 今日は日本舞踏の公演ですよ。 昨日の夜から楽しみにしていましたものね。 ゆっくり、席にお座り下さい。」


 足腰が強くないのか、支えられながら歩いてくる老人もいれば、逆に杖をカツカツと当てながらその場に現れる老人もいた。


「なぁ、あれなんであんなに音を鳴らしてんだ?」

「多分盲目障害なんだよ。 ほら、目が見えないから、音とか杖の先の感触とかで目が見えなくても先が見えるから、歩けるってこと。」


 そんな事を見ながら話していると、どんどんと集まってきて、老人のみんなは今か今かと待ち望んでいた。 すると後ろから車椅子で来られた人がやってきたので、真面目は少しずれて前に行けるように道をあけた。


「ありがとうねぇ。 今日の公演を楽しみしていたからねぇ。」

「いえいえ。 僕らも今回の公演は初めて見るので、色々と学ばせて貰おうと思ってまして。」

「あらーそうなのね。 一緒に見ましょうねぇ。」


 そう話をしていると、何処からともなく音楽が流れてきた。 辺りを見渡していると、ステージの裏から保存会の人たちが先程の服とは違う格好で現れた。


『今宵、明け行く朝焼けの間のお話しは、水面から昇り行く世界の始まり。 始まりとは、生きとし生けるもの全てに通ずる。 それは1つの活力として、目標に向かって生きることである。』


 その始まりと共に琴が奏で始めた。 真面目達が聞いている皇の琴さばきも、素人目で聞いてもすごい技術だと分かるが、今聞いている琴の音色は、それよりも更に洗練されたもので、周りを引き寄せるには十分だった。

 そして音楽が始まり琴の音色に合わせて残りの2人が舞踏を行っている。 1人は歌いながら踊っているのでなおのこと強調されるようだった。


 最初はまさしく夜明けのような曲調で流れていたが、それが時間が経つにつれて、曲調が少しずつ変わっていく。


「今はお昼頃ですかねぇ。」

「そうかもねぇ。 綺麗な音と躍りだよ。」


 隣で見ていた車椅子の老人と車椅子を引いてきた看護師の会話を聞いて、それを想像で補完が出来るようになっているのは、それだけの音楽の技術と躍りの見せ方があるのだろう。


 そして保存会の人たちが掃けたと思ったら今度は別の音楽が流れ始めて、今度から二ノ宮が登場する。


 その姿は女性の姿をしているので、二ノ宮は女形で躍りを続けている事にはなる。 ならされている音楽は保存会の人達が奏でていたものとは違い、どこか暗めでありつつも、妖艶な音色が奏でられていた。


「今は夜って事なのかな?」


 完全に推測ではなあるものの、舞台を見ていた。 後ろで琴を鳴らしているので、完全に1人で音楽に合わせて踊っていることにはなるが、それだけの度胸を身に付けるのに、果たして一年で出来るのだろうかと、真面目は感じていた。


 そして音楽が終わり、二ノ宮の踊りもピタリと止まったところで、拍手が会場に響き渡った。 そして踊りをしていたみんなが舞台へと上がってきた。


「本日は我々日本舞踏保存会と」

「州点高校から来ました日本舞踏クラブがお送り致しました。」


 全員頭を下げて登場人物を紹介していった。


「皆様いかがだったでしょうか? 今回は我々の1日を表現した舞踏をお送り致しました。」


 そう説明をした後に、介護施設の代表の方がマイクを持った。


「本日は来てくださって、ありがとうございます。 私達も、楽しい公演を、見て、元気が出てきました。 また、私達のために、見せてくださいね。」


 お互いにお礼を済ませると、今度は看護師の人がマイクを持った。


「日本舞踏保存会の皆様、州点高校の皆様。 本日は公演会を開催させていただきありがとうございました。 こちらから些細ながらもお食事をご用意させていただきましたので、差し支えなければ楽しんでいって下さい。」

「ありがとうございます。 それでは控え室にて着替えて着ますね」


 そう言って舞台から降りて、控え室へと入っていく。 真面目と沙羅もそれの後についていくように中に入っていった。


「基本的にはあのようにやっていくのですか?」

「今後は公演だけでなく、歴史文化博物館などのイベントに参加をして行く予定ではあります。 それでは着物を脱がしてください。 お客様を待たせるわけにはいかないので。」


 そうしてあれだけキツそうだった先輩達はその窮屈な服装から解放されて、制服へと戻った。


「着物の片付けば私に任せ、お料理を楽しんできて下さい。」


 大佐田からそう言われたので、真面目達は控え室から出ていつの間にか準備されていた料理の乗った机を見ていた。


「これだけの料理を出したことも凄いのですが、介護施設でこのような料理は大丈夫なのですか?」


 机に乗っているのは魚などはあるものの、やはり中心はお肉だし、味が濃いものもあったりもした。 老人介護としては胃に来るのではないのかと感じた真面目であったが、近くにいた看護師がその疑問に答えてくれた。


「たまの大きなイベントなどでは準備するのですよ? こうして集まることも滅多に無いですから。」


 そう説明を受けて、飽きが来ないようにしているんだと思ったのだった。

 真面目も食事を食べていると、ふと気になったことがあったので、皇に声をかけることにした。


「これって公演でやった後は必ず行われるのですか?」

「そうですね。 介護施設や幼稚園などはお昼までやったり、お時間がお昼になったりしますので、こうしてお昼をご馳走させて貰うことが多いのですよ。」

「だから料理が出ると言ったのですね。」

「伝えないでお弁当を持ってきたとなればお互いに失礼になりますから。」


 それなら納得をする真面目は、保存会や皇達の公演を思い出す。 曲も踊りも両方出来ているのは、それだけの練習量があってこそであり、見て貰う人に感動を伝えるのは、本当に難しいことだと思ったのだった。


「それでは本日はありがとうございました。 またご機会があればよろしくお願いいたします。」

「「お願いいたします。」」


 お昼も終わり、学校へ一度帰るために準備が大佐田のお陰で終わっており、もう一度ワゴン車に乗って学校へと帰るのだった。


「次は君達があれをやって貰うことになるね。」

「皇先輩達のようで出来ますかね?」

「出来るようにするために練習するのです。 次の公演に出るために、私達がいれる間に必ず覚えて貰います。」


 その言葉が冗談でないことを分かった真面目達は、自分達も皇や二ノ宮に追い付けるように練習をしなければと思ったのだった。

作者は高校時代に郷土芸能の保存クラブに入っていたことはありますが、本物の京楽と言うものは知りません。

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