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公演についての話と当日

「そろそろ本格的に公演会の日程が近付いてきて参りました。」


 日本舞踏クラブでの練習前、皇からそんな言葉が発表された。


「今回の公演は近くの老人介護施設での公演となり、比較的交流の頻度がある場所となります。 向こうもどのような催しが来るのかは大体見当がつけられておりますが、それでも粗相の無いようにお願いしますね。 一ノ瀬君、砂城さん。」


 そう言われた二人は当然と言わんばかりに頷く。 失敗や粗相はクラブの沽券に関わる。 一つ一つ丁寧にやることが大事なのだと、二人も知っているからだ。


「とはいえ今回は自分と皇部長の公演を二人はサポートする形になる。 具体的には舞台のセッティングや我々の着物の着付け等だ。 そしてそれらから君達にも公演を見て貰って、勉強をして貰いたい。」

「了解です。」

「裏方かぁ。 まあ最初だし仕方ないよな。」


 沙羅も自分が外で見せられる程の練習をしていないのは理解しているので、不満はありそうなものの、それ以上文句はなかった。


 ちなみに日程としては週末の日曜日となっており、それの仕上げとして二ノ宮も皇も公演用演目の最終調整をしていた。 その間は流石にあれこれと聞くわけにもいかなかったので、真面目も沙羅も自分なりに出来ることを見つけて、邪魔になることがないように練習を重ねた。


「そう言えばなんで最近来なかった。 公演が近いのを忘れていて部活に来れなかったなんて言わないよな?」


 沙羅はここ数日の真面目の部活への欠席率について聞いてきた。 沙羅自身も必ず部活に出席していた訳ではないが、それでも真面目との出席状況が合わないことに疑問を持っていた。


「僕だって色々とやっているからさ。 ここに必ず来れる訳じゃない。 生徒会に水泳部、そしてここだからどれかには出席するように心掛けてはいるけれど、優先順位はどうしても下がっちゃうんだよ。」


 高圧的な態度をされつつも、簡潔にそう答えた。


「砂城さん。 君が言いたいことも分かるがね、彼は君が思っている以上に行く手数多なのだよ。 ここで留めておくのは、勿体無いだろう?」


 二ノ宮は沙羅がなにかを言いたそうにしていたのを宥めるように諭す。 皇も敢えて口にはしていないものの、真面目はこんなところで才能を潰すような人間でないことは内心分かっていた。 だが、せっかく来てくれる部員としては、手放したくないのも部長としては思っているのだろう。 煩わしくは思ってはいないので、強く口には出さないのだ。


「当日は一度学校で集まります。 準備はこちらで済ませますので、一ノ瀬君と砂城さんは特になにかを持ってくることはありません。 飲み物や料理などはあちらが用意してくれますので。」

「へぇ、ほぼ手ぶらで行っていいんですね。 それなら専念できます。」

「・・・料理?」

「口を少し滑らせてしまいましたね。 その事については・・・当日お話ししますよ。」


 皇の意味を含んだであろう台詞に、真面目は首を傾げたのだった。


 そして本番に向けての練習が終わり、いよいよ公演となる日曜日になった。 公演は午前中に行われるということで、真面目はいつも通りの時間に起きて、学校へと向かい、そして正門で待機した。 時刻は8時40分。 集合は9時となっているのだが、荷物の移動やらなにやらで遅れる可能性、もしくは移動のために早く来ることを想定しての時間であった。


 そうして待つこと5分。 現れたのは沙羅。 鞄は持っているものの、とても軽そうにしていた。


「おはよう砂城さん。」

「・・・あぁ。」


 真面目は挨拶をしたものの、沙羅は軽く挨拶をするだけだった。 とはいえ真面目も沙羅のこの態度には慣れたし、それ以上は踏み込まない。


「二人ともお早い到着ではないですか。」


 次に現れたのは二ノ宮。 彼の手元もほとんどなにも持っていない。 荷物番では無いようだった。


「おはようございます。 ・・・ところで荷物は?」

「あぁ、君達に全部運んで貰うつもりはないよ。 それに衣装や琴は本来は部長の家族の備品だからね。 あまり乱暴に扱われなくないのでありますよ。」


 そう二ノ宮が説明した辺りで、一台のワゴン車が到着して、3人の前に止まった。 そして運転席から初老の人物が現れた。


「おはようございます皆様。 どうぞこちらへお乗りくださいませ。 美晴留様も既に乗車なされています。」


 そう言われた後に二ノ宮は躊躇い無く乗る。 真面目と沙羅は驚きつつも同じように乗車する。


「驚いて貰えたかな? 私の家である皇家は、大きくはないものの資産家ではあります。 この程度の手配は出来ますので。」


 助手席に乗っている皇は、バックミラーならみんなに顔を見せて、そう説明してくれる。


 そしてワゴン車が出発して、学校から大通りへと出た。


「皇先輩。 その運転手の方は?」

「紹介しますわ。 皇家の副執事長の大佐田 智海(おおさだ ちかい)ですわ。」

「大佐田でございます。 以後お見知りおきを。」


 運転しながら大佐田は軽く会釈をして、目的地である老人介護施設へと到着していた。


「荷物はどれですか? 運びますよ。」

「荷台に積んであるものを。 縦長のものは私の琴になるので、そちらは触らなくて大丈夫です。」


 アタッシュケース3つをそれぞれ分担して運び、そして老人介護施設へと踏み入れる。 そしてアタッシュケースを置いて靴を脱いだ後にスロープでアタッシュケースを引っ張っていき、看護師と入り口で鉢合わせる。


「いらっしゃいませ、日本舞踏クラブの皆様。 保存会の方々も既にお見えになっています。 どうぞこちらの部屋へ。」


 そう案内されて中に入ると、真面目達の他に、3人の初老の男女がそこにはいた。


「うむ。 来てくれたか。」

「冬以来となります。 お久しぶりです。」


 リーダーであろう男性老人と最初の挨拶を交わす皇。


「躍りの方は大丈夫かえ? しなやかさは失っておらんか?」

「おかげさまでキレを忘れずにおられます。 今後とも御指南をよろしくお願いいたします。」


 また別の男性老人と躍りについて語る二ノ宮。


「おや、あんた達は見ない顔だね。 ひょっとして新しく入った子達かい?」

「あ、はい。 日本舞踏クラブに入りました、一ノ瀬 真面目と言います。」

「じ、自分は砂城 沙羅と申します。 以後お見知りおきを?」


 一方で女性老人は真面目と沙羅を見てやんわりと対話する。 真面目はそのままだったが、沙羅は何故かいつもの調子ではない様子になっていた。


「さあ、州点高校の皆さんが来てくれたんだ。 早速着替えるとするかの。 ほれ、お主達はもうひとつ向こうの扉じゃ。」


 そう指し示されて移動をした後に、真面目達が持ってきたアタッシュケースを開いていく。 中には昔の人が着ていたような着物一式が入っている。


「先輩、これ、どうやって着せる・・・」


 真面目がそう言った瞬間に、皇も二ノ宮もその場で制服を脱ぎ始める。 脱ぐとは言っても、制服は上を脱いで動きやすいTシャツスタイルだし、下も体育用のハーフパンツを付けている。 ここに着物を羽織るということだ。


「着物などは着る時に崩れては行けません。 一ノ瀬様と砂城様には、それぞれの着物を綺麗に着せるのが最初のお手伝いでございます。 片方の袖を伸ばして貰いながら、腕を入れて貰うのです。」


 大佐田の指示に従いながら着物を着せる真面目と沙羅。 着せ終わる頃には1つの達成感が存在していた。


「化粧の方は保存会の方と行いますから、一ノ瀬君と砂城さんは、一度会場の様子を見てきてください。」


 真面目と沙羅は特にこの場にいる必要が無いと言われたので、状況を確認するために、控え室を出るのだった。

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