どこならいいのだろう
今日の朝のHRは席替えの席を朝のうちに決定し、帰りのHRで移動すると言う形をとっていた。 その場で交換するのも良いのだろうが、持ち物の移動やらで、朝からそれをさせるのは気が引けると言う担任の意見から朝のHRの時点で場所の指定だけ行うために、番号のかいた紙を2つ折りにして、適当な箱の中に入れてそこから引いていく形をとった。
「それじゃ取った紙は無くさないように持っておくこと。 改めて作ることはしないから、気を付けること。」
そして岬から順番に番号の書かれた紙を取っていく。 見るのは全員が取り終わってからと言うことで、2つ折りのままだ。 そして最後のクラスメイトが取り終わったところで開封してみる。
「37番かぁ。 浅倉さんは?」
「24。 順当に考えれば真ん中の後ろの方。」
「僕もその考えなら窓際かな。 前列だろうけど。」
そんな会話でHRが終わり、授業が始まった。 とはいえそこは普通の授業なので、なんら変わらない風景のまま授業は進んでいく。
お昼時になり、昨日の雨が続いたせいか空は曇天である。 しかも登校してきた時に、アスファルトはともかく普通の芝生などが乾いていなかったので、今日も今日とて別館1階の階段下で昼食を済ませようと思ったその通行際、例の売店が見えたのだが、初めて利用した時よりも穏やかな雰囲気だった。
それもそのはず、生徒会で提案した案件を取り入れたシステムになっているため、混雑や争奪戦が起きていないのだ。 皆左から丁寧に並び、売店で購入を済ませてから右側から出ていく。 まだまだ人の列は出来ているものの、その辺りも改善していく価値があるだろうと真面目は思っていた。
みんなも既に集まっていたようで、弁当を先に食べていた。
「あれ? 僕が最後?」
「私は終わってからすぐに教室を出た。 だから一番乗り。」
最後に来た真面目に対して、どや顔とグッドサインを出す岬。 別に競争などはしていないのだから、その辺りはあまり意味がない気がすると思ったが、あえてなにも言わないことにした。 言わぬが花というものだろうと感じた。
「それでこの辺りで食べるのも大分慣れてきたな。」
「そうだね。 ここが一番落ち着くしね。」
うんうんと頷いている得流と隆起。 この二人も最初に比べると本当に仲が良くなったなと思っていた。
そんな時に真面目が持っていた2つ折りの紙が落ちたのだった。
「真面目、それなんだ?」
「ああ、これ? 僕たちのクラス、帰りのHRで席替えをするんだ。 これはその時の座席表を書いた紙。」
「席替えかぁ。 あたいたちのクラスもまだだったなぁ。」
席替えの頻度がどのくらいかは学校にもよるだろうが、少なくとも真面目達が通う学校では、このくらいのようだ。
「どの辺りが来ると、皆さんは嬉しいですか?」
叶がサンドイッチを小さい一口で齧った後にそんなことを聞いてきた。
「俺は後ろの方だな。 寝てても基本的に怒られないし。」
「ちゃんと授業は受けてるよね?」
「心配性なやつめ。 ちゃんと受けてるって。」
真面目が心配すると、隆起は母親似言うように真面目に返事をした。
「あたいは真ん中くらい。 寝るのはそうなんだけど、あたいとしては後ろ過ぎると遠くて見えないからさ。」
「得流、目悪かったっけ?」
「そうじゃないんだけど、一番後ろよりはって感じかな。」
てっきり隆起と同じで後ろがいいかと思ったが、得流には得流なりの理由があったらしい。
「一ノ瀬、さんは、どうですか?」
「僕は割とどこでもいいかな。 そんなに席に気にしてないし。」
「そう言ってるやつが、一番いい席取れたりするんだよな。」
「その気持ちはわかる。」
真面目の回答に、隆起と岬が同調した。 感性としては割と似ている部分がこの二人にはあるのかもしれない。
そしてお昼も終わって午後の授業を受けて、帰りのHRになった。 担任が持ってきた紙を広げると、クラスメイトはみんな前に集まって自分の席と位置を確認する。
「ふんふん。 俺はあそこだな。」
「げぇ。 なんでよりによってそこなんだよ。」
「あ、やったよ。 席が近い。」
思い思いに席替えについて語り合っている。 そんな中で真面目と岬も自分の番号と席を照らし合わせていた。
「37番は・・・やっぱり窓際だ。 しかも最前列。 浅倉さんは?」
「私はちょうど真ん中。 色んな意味で。」
「その場所浅倉さんにとってはどう?」
「可もなく不可もなし。 そっちは?」
「太陽の暖かさで下手すると寝るかもしれないけど、それくらいは許してもらいたいかな。 あと黒板が横になっちゃうから見えにくいかも。」
「よし、確認が済んだら席を移動しろ。 机の中身は出しておけよ。」
そうして行われた席替えで真面目は窓際に位置付く。 朝日から夕日まで全てを手に入れられるような場所が、しばらくは真面目の席になる。
「やぁ。 こうして喋るのは初めてかな?」
声をかけてきた隣の男子はかなりクールな表情で真面目を見た。 クールなのは表情だけでなく、ストレートの青のセミロングはどこか性別を問わないような顔立ちを見せていた。
「そうだね。 直接的には初めましてかな。 ええっとどう呼んだらいいかな?」
「鎧塚 刃真里。 中学の頃は縮められてロマリーなんて呼ばれたこともあったかな。」
「流石にそれはハードルが高すぎるかな。 仲良くなるまでは鎧塚さんで通すよ。」
「じゃあボクも一ノ瀬君で呼ばせてもらうよ。」
「あれ? 一人称ボクなんだ。」
「まあね。 親戚が男ばっかだったからね。 男らしさは出てると思う。」
「そこらの下手な男子よりも男っぽく見える。 産まれてくる性別を間違えたんじゃない?」
「こうして違和感がないのが1番だよ。」
「よし、全員移動したな。 これにてHRは終わる。 隣や後ろと仲良くするのは明日からだぞ。 本日はここまで。」
「起立! 礼!」
そして部活動へと向かおうとする真面目であったが、ふと真面目は刃真里の事が気になり、声を再びかけることにした。
「そう言えば鎧塚さんって、何部?」
「ボク? ボクはバドミントン部だよ。 男女混合のね。」
「そっか。 そっちも頑張ってね。」
そうして真面目は今日は天気もいいので、水泳部へと向かうことにしたのだった。
今回は短めです。
席替えの内容ってなかなかいい案が思い浮かばないものです(笑)




