その人は警戒心強く
遊園地で楽しく遊んだ次の日は生憎の雨。 真面目は登校の際に使用する傘をさしながら通学路を歩いていた。 そんな時に携帯が鳴る。 MILEの通知で、差出人は岬だった。
『一ノ瀬君。 今日はいつもの場所で待ってなくて大丈夫。 一ノ瀬君の事だから先に言っておかないと待っていそうな気がするから。』
確かにそう言ってもらえれば、真面目としても雨の中で待つ必要は無くなる。
真面目はいつも岬と合流する場所を素通りして、そのまま学校へと向かっていく。 傘を指していたとは言え、足元は限界がある。 昇降口へ行く頃には靴は既にずぶ濡れだ。 靴下まではギリギリ浸透はしていないが、スカートの裾や制服は半分くらい濡れてしまっていた。
「タオルを持ってきてもこれじゃあ意味がないや。」
身体全体を拭いてみるも、完全には拭ききれずに、溜め息をついた真面目は、仕方無いと言わんばかりに、廊下に水滴が落ちないように徹底して歩いていく。 そして教室に入りかけたときに、ふと隣の生徒からなにかが落ちるのが見えた。 見るとハンカチのようで落とした本人は気が付いていない様子だ。
真面目は当然それを拾って、その人物まで駆け寄る。
「ハンカチ落としたよ。 あなたのでしょ?」
落としたのが男子、つまり元女子な為言葉を選んで渡した。 するとその男子は振り返り、声をかけられたことに驚いた後に、威嚇する猫のような目で真面目を見た後に
「・・・どうも。」
その一言で終わらせてハンカチを取った後にそのまま行ってしまう。
「・・・随分無愛想な人だったなぁ・・・?」
返事が良くなかったことにたいしては特に怒りはしなかったものの、あまりいい気分にはならなかった。
「・・・むぅ。」
先程の対応に自分らしくもなく不満が溜まっている。 こちらが向こうを知らないように、向こうもこちらの素性を知らない。 しかしそれでもどんな理由があれど、愛想くらいは振り撒いても良かったのではないかと真面目は感じてしまった。
そんな感じで1人教室で突っ伏していると、遅れてきた岬が教室に入ってくる。 遅れるといってもHRまではまだまだ時間はあるが。
「おはよう一ノ瀬君。 ・・・どうしたの? 寝不足?」
「違うよ。」
「雨で落ち込んでる気分?」
「雨のせいじゃないかな。」
「・・・もしかして「あの日」?」
「あの日って・・・確かにもうそろそろ1ヶ月・・・ って、それも違うよ。」
謎の三段活用での会話で、真面目は気力を取り戻す。
「それで? 本当にどうしたの?」
「んー。 ちょっと人に対して良くなかったのかなって言うのか。 無愛想に返されたからちょっと落ち込んでるって言うか。」
「なるほど。 一ノ瀬君はガラスのハートの持ち主だ、と。」
「心が繊細なのは認めるけど・・・」
そして授業が始まる鈴がなり、今日も1日が始まるのだった。
「その方は根津さんですね。」
そんな今朝のことを昼休みにみんなに話した真面目は、その言葉を和奏から聞いたのだった。
「同じクラスの人?」
「はい。 根津 安保ちゃんと、言うのですが、彼女は男性、今では女性と、話すことを、警戒してるんです。」
「警戒って、なにを警戒しているのさ?」
隣で聞きながらおにぎりをもさもさと食べる得流が聞いてきた。
「簡単に言えば、「男は、羊の毛皮を被った、狼。 こちらが油断していると、瞬間的に飲まれる」と、言っていました。」
「そんなの昔の話じゃないの? 今なんて特にそう言ったのは厳しいんだし。 高校生なんて尚更でしょ。」
「その根津さんの家族が問題なのでは?」
話を最後まで聞いた真面目は、考え方が古いと答えて、岬は環境に何かあったのではと思った。
「ま、そんなに関わらないんなら別に良くねぇか? それ以上恨まれないようにすればよ。」
隆起が弁当の唐揚げを頬張ってそう断言した。 そればっかりは真面目も納得で、自分がたまたまそうなってしまっただけだろうと思うのだった。
そう、この時までは。
「なんですか? 一度ならず二度までも。 なにが目的なんですか?」
「ストーカーに対する答えとしては百点なんだろうけど、僕は別に普通に今朝と同じことをしただけだよね?」
放課後になり、生徒会に向かおうとしていた真面目だったが、まさか同じ人物が今朝と同じようにハンカチを落としたとは思わなかったのもそうなのだが、何故それだけでここまで敵意を剥き出しにされなければならなかったのだろうか。
「では聞き方を変えましょうか。 なにか見返りでも求めるつもりですか? こんなことで貰えると思っているとは浅はかですね。」
「むしろなんでそんな悪化したかのような考え方が出来るのかぎ僕には理解できない・・・」
真面目はこの時点でまともに会話も成立しなくなるのは、なんとなく目に見えていたので、ここは真面目が引き下がることで穏便に済ませようと思ったのだった。
「とにかくハンカチを落としたからそれを拾っただけ。 君が落としてるのもこの目で確かめてるから返すだけ。 それ以上はなにもしないしいらない。 これでなにもなし。 オーケー?」
「・・・」
ハンカチを返したにも関わらず、目の前の男子、安保は睨むのを止めない。 睨まれたままと言うのも気分が悪いので、我慢できずに聞き返した。
「・・・何?」
「あなたみたいな人が生徒会の人間だなんて思いたくはありませんね。」
その言葉は流石に真面目も「カチン」と来た。 というよりも和奏から聞いた時以上に目の前の人物に対して、怒りを覚え始めた。
「あなたのことはクラスメイトから聞いたけど、一体あなたの中で異性をどう見てるつもりなの?」
「やっぱりあたしのことを気にしてたんだ。 ・・・別に男、今は女かもしれないけど、大抵女を泣かせるのは男だし、優しくしてても結局は都合が悪くなれば女を軽んじる。 そんな生物がいるのが気にくわないの。 この身体になった時は、絶望したわよ。」
安保の言葉を聞いて、家族かかなにかで見限られたのだろう。 両親か、兄弟か。 とにかく男に対する猜疑心か酷いのだろうと感じ取った。 しかしこのままでは生徒会室に行けずに埒が明かないと思っていると
「ここにいたのか一ノ瀬庶務。」
階段から降りてくる生徒会長の高柳 銘だった。
「会長・・・すみません、生徒会室に向かおうと思っていたのですが」
「一部始終は見ていたよ。 そう言うわけだから、ここは私に免じて、彼の好意を受け取ってはくれないだろうか?」
そう銘に迫られた安保は、その存在感と威圧感に負け、ハンカチを持ってその場を去ったのだった。
「そう落ち込むな一ノ瀬庶務。 学校や世間には色んな人間がいる。 生徒会とは嫌われ役だ。 気を張っていけ。 私としても彼女の言葉には少し耳を疑ったしな。」
流石に生徒会長の思う節を言ってしまうとは、これは大変なことになりそうだと思いつつ、真面目は生徒会室で仕事を全うしようと、心に少しの傷を残しながらそう思ったのだった。
今後この新キャラを話の中に組み込むかは正直不明です。
こういう感じの人もいるよ、程度にしか考えてなかったので。




