最後に見る景色
「ここの観覧車って人気なの? かなりの人が並んでいるけれど。」
「ここの観覧車は有名だよ。 町を一望出来るしかなりの高さまで行けるからね。 それにやっぱり大きいのがなによりの要因じゃないかな。」
説明を受けながら真面目達は列の前に前にと足を運ぶ。 並んでいるのが家族連れが多いためか、 列の長さに反して列が少なくなっていっているのはかなり早い。
「でも乗るのはまだまだ先っぽいな。 あれ見ろよ。 45分待ちだとよ。」
「私達より後にきた人達は、もっと並ぶだろうね。 シャトルバスが無くならないといいけど。」
「それは多分心配しなくてもいいと思うけど・・・」
そして観覧車の搭乗口が近付くにつれて、日も傾き始めて、空の色が青から赤へと変わろうとしていた。
「もう、夕方、ですね。」
「なんかあっという間に感じられたな。 楽しい時間が過ぎると言うのは、やっぱ虚しいものだな。」
「それだけ楽しめたって考え方もあるよ? いいことじゃない。」
「うん。 今日は楽しかった。」
皆の気持ちが思い思いあるなかで、真面目達が乗る順番が迫ってくる。
「6名様、乗車ご案内します。 それではゆっくりと空からの景色をお楽しみください。」
真面目達の番になり、ようやくゴンドラに乗ることが出来た。 ゆったりと、でも確実に真面目達を乗せたゴンドラは昇っていく。
「ここに来るまでも結構な坂道だったから、頂上はもっと高いかもね。」
それは思っていたが、その想いを秘めながら真面目達が乗ったゴンドラドンドンと上へと上がっていく。
「・・・そろそろじゃないか?」
そう言って隆起は遊園地とは逆の方向を見てみると、そこに広がっていたのは
今までは見ることが出来なかったであろう、街の景色だった。
「うわぁ。 これが俺達の街なのか。」
「こうしてみると、私達の方が小さく見えるね。」
「僕達もそんな街の一人なんだろうね。」
夕日を背景にしながら真面目達が乗っているゴンドラは下りへと入っていった。
「これで俺達の休みも終わりだな。」
「まだまだ高校生活は始まったばかりでしょ。 これからだよ。 これから。」
「私も、楽しめれば、それで、良いと、思います。」
「僕達これから別々の道に行くの?」
「気持ちが早すぎる。」
完全に打ち切り漫画のような雰囲気になってしまっていたので、真面目と岬がそれを止めにかかる。 そうでもしなければなんというか本当にそうなってしまう可能性があったからだ。
「いや、なんかこうしてさ、干渉に浸りたくなっちまってさ。」
「干渉に浸る前に哀愁の方が漂ってたんだけど。」
「終わりが寂しいのは変わらないってことで、いいんじゃない? ほら、そろそろ終わりだし。」
そうしてゴンドラから降りた真面目達は、最後の最後で、観覧車を背にして写真を撮って、それから出口へと向かうことにした。
「いやぁ、それにしても楽しんだよねぇ。 明日から学校だなんて思いたくな~い。」
そう言っている得流の表情は、あまり嫌だとは思っていない様子だった。
「来週から、雨が降る、そうですので、皆さんも、気をつけてください。」
「雨かぁ。 この身体で一番不便だと思ってるんだよね。」
「そりゃ一ノ瀬君は大きいもの。 守る範囲も大きくなるというもの。」
はぁ、と溜め息をつく真面目。 彼にとって雨の降る日が憂鬱なのは、守る範囲が広がって、守らなければならない箇所が増えるからである。 もちろんそう言った傘を既に購入しているので、問題がないといえば無いのだが、人から見られる視線はやはり感じ取ってしまうのだ。
「そこはまぁ、仕方ないと思うしかないぜ。」
「こういう時ばっかりは隆起君が羨ましく感じる。」
「おう止めてくれや。 これでも最初にこの身体になった時、ちょっとガッカリしたんだからな。」
「女子も女子なりに気は使うわよ? 運動する時揺らすと擦れて痛いし。」
「得流。 公共の場でそんな会話は控えて。」
岬にそう注意されて得流は喋るのを止めた。 いくら今のシャトルバス待場に人がいないからといって、デリカシーには気を付けてもらいたいと思う岬だった。
そしてシャトルバスも乗り終わり、真面目達は電車に乗る準備をする。 のだがここで叶がある提案をした。
「せっかくなので、歩いて帰りませんか? 学校も近いので、皆さんの通学路になるかと思いますが・・・あ、別に嫌ならいいんですけど・・・」
そう萎縮した叶であったが、この場の誰一人としてそれに反対するものはいなかった。
「帰るまでが遊園地。 なら、帰りが遅くなっても文句は言われない。」
「それ普通は遠足でしょ?」
真面目と岬の漫才もこのメンバーなら大分見慣れてきたもので、これと言った理由はないものの、あの二人の仲の良さには入れずにいるのだった。
「みんなどうしたの?」
「早く行こう。」
そう呼ばれたので、隆起達も後ろから歩いていくことにした。
「あの二人、自覚あると思うか?」
「どうでしょう? でも普通の人よりは距離が近いと思いますよ。」
「私、邪魔だった、かな?」
「そこは大丈夫でしょ和奏。 あの二人が気にしてないんだから。」
そんな4人の会話は前を歩く2人には聞こえてはいなかったのだった。
「もうここからだと見えなくなるものだね。 遊園地。」
「暗くなってきてるのもあるからな。 学校の反対側ってだけでこれだけ距離があるように感じるんだからよ。」
そう歩きながら会話をしていると、学校に近付いた辺りで、叶と和奏が残りの4人とは逆の道を歩いていく。
「あ、2人はそっちなんだ。」
「はい。 そうなんですよ。」
「それでは、また、明日、です。 今日は楽しかった、です。」
そう言いながら叶と和奏と別れて、真面目達はその道を歩いていく。 そして得流と岬、真面目と隆起で道が分かれるのだった。
「それじゃあ俺達もこの辺りで、だな。」
「そうだね。 また明日学校でね。」
「そっちもまた明日。」
「また明日。」
そしてさらに真面目と隆起は分かれて、家に帰る頃にはすっかりと日が落ちているのだった。
「ただいまぁ。」
「お帰り真面目。 遊園地は楽しめた?」
「うん。 滅茶苦茶楽しんできたよ。」
「そう。 その話は夕飯の時に聞こうと思うけど、まずは身体を洗ってきなさい。 どろどろでしょうし。」
「山奥に行ってたわけじゃないんだよ?」
リビングを開けた途端に、壱与から今日のことを聞かれながらも、先に汗を流したかったので、そのままの流れで部屋に戻って、シャワーを浴びてから、再度リビングに入り夕飯を食べるために席に付く。 既に帰ってきていた進もいるので、家族3人での夕飯になったのだった。
そしてそんな楽しい一日が終わりかけようとしていたそのときにMILEが鳴る。 何事かと開いてみると、そこには今日撮った写真が貼られていた。
『どう? 旅の思い出達。』
『すごい撮ってたんだな。』
『皆さん、楽しそうです。』
『うん。 今日は楽しかった。』
真面目もそれを感じながら、明日からまた始まる学校に備えて、疲れを癒すために、布団の中に入り、 すぐに夢の中に微睡むのだった。
遊園地編は終わりです。
次回からはまた学校生活へと戻ります




