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まだ終わらない遊園地

 入り口で真面目達は注意書を見ていた。


「ええっとなになに? 「ここから先は江戸時代から語り継がれる日本妖怪の百鬼夜行の様子を描いていくアトラクションであります。 呪われてしまっても我々の責任は負えませんので悪しからず。」か。」

「百鬼夜行。 それなら外の佇まいも納得。」

「い、行きましょう・・・後ろの人が、入れなくなるので・・・」


 そう言っている叶は既に真面目の裾を掴んでいた。


「それじゃあ行こうか。」


 そう言って真面目が歩き出そうとした瞬間に、上からやかんの作り物が落ちてくる。 しかもそのやかんには恐ろしい形相がかかれていた。


「うっ・・・!」

「な、なんでやかんが?」

「妖怪「ヤカンヅル」だね。 やかんを落とす妖怪。」

「最初のジャブからすごいのできたね。」


 真面目と岬はまだ余裕そうではあるものの、叶は既に真面目の裾を掴んでいるばかりで、会話にも入る余裕は無くなっていた。


「もしかしてあんな風なのが続くのかな?」

「それだったらいいね。」


 そうして3人は中に進んでいく。


 そこからは実際の日本妖怪の話と共に実体験をしていくアトラクションのようで、例えば人魂なら目の前を火の玉が飛んだり、ろくろ首なら後ろを向いた女性の作り物が急に首を伸ばしたりと、バラエティーにとんだ仕掛けをしてくるが、暗闇でしかも唐突に行われるため、心の準備が出来ておらずに驚いてしまうのだ。 人は警戒しているものには驚かないが、警戒心が薄いとそれも削がれてしまう。 そしてなにより、そう言ったものに耐性が無いものはなおのことである。


「ええっと、豊富さん、大丈夫・・・じゃないよね?」


 身体をガタガタと震わせている叶は半分満身創痍状態だった。 会話もまともに出来る状態ではない。


「仕方ない。 ここは叶の為にも早く出よう。」

「それもそうだね。 豊富さん。 もう少し頑張れる?」


 子供をあやすように真面目は語りかけたが、叶はそれでも首を縦に振った。

 少しずつ歩みを進めて行き、餓者髑髏の叫び声をBGMに暗闇の中を歩いていく。 そんな中で真面目は叶の歩幅に合わせて歩いてたのだが


「・・・ねあ浅倉さん。」

「なに?」

「なんで浅倉さんも僕の服を掴んでいるのかな?」


 いつの間にか岬にも服の裾を掴まれて、真面目は完全に下がれないで前に行くしか無くなっていた。


「さっきまで怖がってなかったよね?」

「別に怖いから掴んでるんじゃない。 暗闇だから離れないようにしてるだけ。」

「それはそうなんだろうけど・・・」


 どうも真面目は岬の裾を掴んでいる力が隣の叶と同じくらいに感じていた。

 さらに真面目の前に一つ目小僧が現れた時も、真面目には左右から力がかかるのが感じ取られた。


「2人とも、もうすぐ出口だから、そろそろ力を弱めて欲しいんだけどな。」

「油断は出来ない。 お化け屋敷とは最後が一番怖いものだから。」

「いや、そう言うものかもしれないけど・・・」


 真面目は前に注意を向けながら歩いていく。 すると外からの光が真面目にの前に現れた。


「ほら、もう出口・・・」


 そう言った瞬間に真面目の首筋に、冷たいものが舐めるように滑った。


「ふぁぁ!」


 真面目は最後の最後で、女子らしい悲鳴をあげてお化け屋敷を出ることになった。


「おう、どうだった・・・って、なんでそんなに疲れきってるんだ? お前。」


 3人が出てきた辺りで隆起が声をかけたのだが、3人の様子、特に真面目がすごい疲労困憊しているのを見て、疑問を持ったのだった。


「隆起君。 これだけは言っておくよ。」


 そう言って隆起に近付く真面目が言った言葉は


「男子だった頃よりも心臓が弱くなってると思うから気をつけて。」


 真面目の言っていることが分からないまま隆起をふくめた3人はお化け屋敷に入っていった。


「はぁ、最後の最後でやられた。 あんな仕掛けが用意されていたなんて。」

「まさかあかなめがいるとはね。 だからお化け屋敷は油断ならないって言ったのに。」

「その割に僕に必死にしがみついていたよね? 今の豊富さんみたいに。」


 叶は出てきたばかりなのにも関わらず、まだ真面目の腕を掴んでいた。 出口に近付くにつれて掴んでくる範囲が広がっていって、最終的にこうなっているのだ。


「豊富さん、豊富さん。 もうお化けはいないよ。」


 その言葉に叶は我に返り、すぐに真面目から離れるのだった。


「ご、ごめんなさい。 私、ああ言ったのは、本当に苦手で・・・」

「うん。 僕にしがみついてきた腕の強さから大体想像は出来てた。」


 真面目自身もあそこまでだとは思っていなかったので、こればっかりは流された自分を反省した。


「でもあれだよね。 普通だったらこういった状況は「両手に花」って言えるのに」

「性別が逆転してるからそれも言えたものじゃないってね。」


 そうこうしているうちに隆起達もお化け屋敷から出てくる。 3人は比較的平気そうだ。


「やぁ、お疲れ様。」

「おう。 なかなか楽しめたぜ。」

「それは良かったよ。」

「ここらで休憩にしましょ。 あっちにアイスの車があったから、それを買いに行きましょ。」


 得流の提案にみんな賛成して、アイスに舌鼓をうつことにした。 選んだフレーバーは真面目がブルーハワイ、岬がベリーミックス、隆起がチョコチップ、得流がレモンオレンジ、叶がチョコミント、和奏がホワイトサワーだった。


「身体が冷えた時に食べるアイスもまた美味しいわね。」

「あれだけ身の毛もよだつアトラクションに入ったのに、その感想は凄まじいよ。」

「それが得流のいいところではあるけれど、たまに周りが見えなくなるのが玉に瑕。」

「酷いよ岬。 見境くらいはあるって。」

「見境がある人間が、豊富が苦手なものを把握してないっておかしいだろ。 遊んでるのは近野だけじゃないんだからよ。」

「それに関しては本当にごめん。 あたいが楽しむことばかり考えてたから。」


 叶にそう話しかけるが、叶は黙々とチョコミントを頬張っているだけだった。


「あ、あれ? もしかして怒ってる?」

「いや、これは忘れたいだけかもしれないよ?」


 そしてアイスを食べ終えた辺りで、時刻を見れば午後3時を回ろうとしていた。 まだ日は高いものの、今は夜もやっている訳ではないため、バスの時間を考えると、あまり長くなりそうなものは乗れそうにない。


「多分次で最後だろうなぁ。 休みだからか、みんな最後に乗りたいものに向かって並んでやがるぜ。」


 隆起の言う通り、少し落ち着いてきたかと思えば、今は長蛇の列を作るまでに戻っていた。


「それなら最後は観覧車に乗って終わろうよ。 確かここのゴンドラって6人乗りが出来るって噂だし。」

「駄目だった時はジャンケンだね。」


 そうして遊園地最後のアトラクションは観覧車と決定し、真面目達は観覧車に並ぶ列に、並び始めるたのだった。

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