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試験終わりの午後に

 それから1週間という期間を経て、真面目達は中間試験に入った。 とはいえ科目が多いため、日程を分配して行うので、試験の日は午前で終わる。 そして試験の最終日。 試験の終わりを告げるチャイムが鳴ったことで、全生徒はそれに解放される事となったのだった。


「っしゃぁ! 終わったぁ!」

「ねぇねぇ、これからファミレスでご飯にしない?」

「ようやく部活に行けるぜ・・・」


 試験からの解放でみんな思い思いに気持ちを露にしていた。 そんな中真面目はと言うと。


「お疲れ様一ノ瀬君。 この後はどうするの?」

「生徒会で書類を処理した後に、水泳部のみんなとプール清掃になるかな。」

「テストが終わっても忙しそうだね。」

「じっとしていられない性分なのかもね。」

「一ノ瀬君前世はマグロとかじゃないよね?」


 まさかと岬の言葉を適当にあしらった後に真面目は生徒会室へと足を運ぶことにしたのだった。


「会長。 これで渡されていた書類の分別は終わりました。」

「ご苦労だった一ノ瀬庶務。 細かいところは我々に任せるといい。」

「よろしいのですか?」

「君には水泳部の仕事があるだろう?」


 その言葉で真面目は、銘は自分の事を本当にしっかりと見ているのだなと感じとりながら、真面目は水泳部へと向かうのだった。


「お、ちょうど良いところに来たようだな。 今プールの水を根こそぎ抜いた後なので、これから底の掃除を行うところだったのだ。 幸運だな一ノ瀬君。」


 準備をした上でプールに向かうと、既にモップを持った駿河達がそこに立っていた。 なんだったら駿河を含めた数名は学校指定の水着に着替えている。


「あ、もしかしてこれ着替えてきた方が良かったですか?」

「心配することはないさ。 どうせ汚れたところで水で洗うのだから、どちらで来ようが関係無いよ。 はい、君の分のモップだ。」


 動きやすいようにと体操服とハーフパンツで来た真面目であったが、着替える必要はないと目黒が言って、真面目にモップを渡した。


「それではプールに降りていくぞ。 地面が通常よりもぬかるんでいるので、転ばないようにな。」


 そうして外についている梯子を降りてプールの底に足をおく。 すると冷たさと独特の感触が足の裏を襲い、全身にその感触が伝わった。


「うぅー。 やっぱりこの感触こそプール開き前の感じがするなぁ。」

「そうですね部長。 これがなきゃプールが開いたって言えないですもの。」

「今年も綺麗にするぞぉ!」


 駿河を始めとした生徒はやる気になってプールの底を洗っていた。


「やる気があることは良いことだねぇ。」

「目黒先輩はあそこに交わらないのですか?」

「私はああ言ったのはあまり好まないタイプだからね。 でもこうしてプールを綺麗にするのは嫌いじゃないよ。」

「そうですか。 ところで、プールを綺麗にすると言うことは、授業の一環として水泳があるってことですよね?」

「そうだよ。 だからそろそろ時期的にも日焼け止めは買っておいた方がいいだろうね。 元女子高生からの警告だ。」

「肝に命じておきます。」


 真面目はそろそろ強くなってくる日差しを手で隠しながら、初めての夏を乗りきらなければならないのだろうと思っていた。


「おーい、目黒も手伝ってくれ。 一斉に端から端まで磨くから。」

「そんな小学生みたいなことをしなくてもプールは綺麗になりますよ。 まあ、効率を考えればそれは言えなくもありませんが。」


 この先輩も結局何を考えているか分からなかったのが、この時の真面目の感想だった。


「ようやく終わったぁ・・・」


 みんなが上がってプールを見てみると、床も側面も苔など無い綺麗な状態になっていた。 1年近く使われていないお陰で綺麗になったのは一目瞭然とも言えた。


「これから水をこの中に入れるんですよね。」

「そうだぞ。」

「じゃあ水が張り終わったらいよいよプールに・・・」

「いや、水が張ったら水素を入れて今日は解散だ。」

「えぇー!? ここで泳げないんですか!?」

「微生物などで身体が蝕まれる可能性があるからな。 泳ぎたいと思うのならば、市民プールを利用してくれ。」


 変に常識的な駿河の意見を誰も咎めるものはいなかった。 正確には咎めようにも正論なので何も言えなかったのだ。

 そしてプールに大きなホースを使って水が放水された。


「では私はなにか買ってこようかな。 一ノ瀬君、梔子さん。 手伝って貰えませんか?」

「了解です。」

「ついていきます。」


 真面目と共についてきたのは梔子と呼ばれた男子生徒。 背丈は真面目と同じくらいだが、茶髪のたれ目で少し頼り無さそうな顔をしていた。


 目黒と一緒に買い物をしに歩いている間に、真面目はその梔子と対話をすることにした。


「梔子さん、だっけ? こうして話すのは初めてかな?」


 真面目がそう話し始めたが、梔子は少しだけ身体を震わせたので、真面目は怖がらせてしまったのかと思い、言葉を選んでからまた話すことにした。


「ごめんね急に。 別に驚かそうとしたんじゃないんだ。」

「い、いえ、こちらこそ、すみません。」


 その声は普通の男子高校生にしては声が高い感じがした。 もちろん喉仏が出ることで声変わりをすることがあるが、ごく稀に声変わりをほとんどしない人もいるという、そんな人なのだと真面目は思ったのだった。


「名前、改めて聞いてもいいかな?」

「はい。 私は梔子 乃午(くちなし のひる)と言います。 貴方の事は知っています。 選挙の時に壇上に上がっていた一ノ瀬さん、ですよね。」

「うんそうだよ。 まああれだけ大々的にやれば誰でも覚えるよね。」

「私にも、それが出来る、強い心があれば、いいなって思ってたんです。」


 その言葉を聞いて真面目は首をかしげた。


「水泳部に入ったのは、度胸を付けるためです。 みんなの前でも、緊張しないように、するために。」

「そうだったんだ。」

「それに私、運動はあまり得意じゃないんですが、水泳だけは好きだったので。」

「その気持ちがあれば、我が水泳部は大丈夫さ。 スパルタでもなければ緩くもないからね。 水泳好きが来るのが丁度いいくらいさ。」


 さすがに会話に混じりたくなったであろう目黒からそんな言葉で来てくれた。


「さて、買い物をしようか。 一ノ瀬君は棒アイス、梔子さんは私と一緒にスポーツドリンクの箱を買っていこう。」

「味はどうしますか?」

「バニラでいいよ。」


 そうして真面目達は目的のものを購入して、また道を歩いていく。 もちろんスポーツドリンクの箱は真面目が持ち、乃午はドライアイスの入ったアイスの箱入りの袋を持っていた。


「こんなに買ってしまって良かったんですか?」

「むしろこれくらい無いと満足しないだろうからね。 それにテスト終わりだから、余計にこういったものが欲しがると思うのさ。」


 部員の事を本当に良く見ているのだろう。 それだけの苦労人なのだろうなと思った。


「それにしても何で僕と梔子さんを連れ出したのですか? 買い出しなら2人も要らないような気がするんですが。」

「君たち2人とは友好を深めたいと思ったりしたのだが、案外気が合うようだね。」


 2人は改めて顔を合わせて、そうなのだろうかと思いながら待ちわびているであろう水泳部へと歩いていくのだった。

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