生徒会の一員として
「さて、本日は校内全体の見回りを行おうと思う。」
週明けの月曜日の放課後、真面目は生徒会室へと足を運んで、少し書類を整理していた時にそう言い出したのは銘であった。 しかしその行動に少し違和感を持ったのは真面目だった。
「会長。 今は試験期間で部活動を行っている生徒はほとんどおりません。 見回りをするのは試験が終わってからでもよろしいのでは?」
「確かにより多くの生徒を見るためには終えてからの方が効率的ではあるだろう。 だが学校の事を見るには生徒の少ない今の方が多くを見れる。 だから今のうちに調べていくのさ。」
一理ある説明に真面目は納得していた。 人が多ければそこの部分に集中してしまうので、学校自体の悪い部分が見えなくなってしまう。 しかし人がいなければ、その分視野を学校全体に向かうので、見落としをしにくいのだ。
「今回は全員で行く。 こういった機会は多くないからな。」
「分かりました。」
「了解でーす。」
「デスクワークも疲れたから、丁度いいわねぇ。」
銘の意見には皆が同意したので、そのままの流れで生徒会室を出ようとした時に
「一ノ瀬君。 君にこれを授けよう。」
そう言って真面目が銘から渡されたのは「庶務」と書かれた腕章だった。
「生徒会として行動をする時はその腕章をつけるのが我が高校の通例だ。 もちろん学校でのトラブルを解決する時にも役立ててくれるとありがたい。」
「会長・・・ありがとうございます。 大切に使わせていただきます。」
「では一ノ瀬君が改めて庶務となったので、生徒会としての活動を開始する。」
そう宣言してから、生徒会室を出るのだった。
「まずはどちらに向かわれますか、会長。」
「今回は売店に行ってみようと思う。 前々から生徒会にも意見が募られていたからな。」
そう言ってすぐに生徒会一同は売店前へとやってくる。 今はがらんとしているが、ここが昼休みになれば戦場のような血気盛んな場所になるのは真面目も経験していた。
「さてと、まずはどこから改善していこうか。」
「経費上では売店からの支出に異常は見られませんし、提供料金も学生価格としては適正です。 種類も通常のものに加えて期間限定の品物も一部は出せているので、商品への生徒からの不満も個人的なものを含めなければ無いとの報告があります。」
「情報提供ご苦労金田書記。 そうなると一番の問題である出入り口での混戦状態になるところを直すのが目下の課題だ。 改善案はあるか? 思い浮かべたものでいい。」
「ならば丁度この中心部分にポールを立てて、入り口と出口を分けるのが良いかと思われます。 そうすれば日本人的心理に駆られて出入り口の混濁、もとい混雑緩和になるかと思われます。」
そう意見をしたのは海星ではあるが、誰も文句は言わず、むしろそれが正解だと言わんばかりに皆が頷いていた。
「やはりそれが最善手になるか。 よし。 まずは生徒会の備品で代用し、改善が見られるようならば本格的に導入することを相談しよう。 他にはあるか?」
「それなら。」
銘の意見に手を上げたのは真面目だった。
「最初に利用した時に思ったのですが、混雑するのは当然、商品が性格に見えなかったことから、正しい商品と金額を払うことが叶いませんでした。 なのでポールの配置と共に、売店での商品紹介をするのが良いかと思われます。 商品が分かれば値段も分かるので、より迅速にレジを通り抜けられると思います。」
真面目の意見に銘は考える。 そして結論を出した。
「食堂などと同じ展開にすると言うことか。 しかしそれならば商品の品揃えも把握できるし、売り切れなどの確認も用意になるだろう。 水上書記。」
「はいはい。 売店側と連携して商品を分かりやすいように展開できるようにしていきます。」
「うむ。 それでは次の場所へと向かう。」
売店前を後にして、次なる目的地へと足を運ぶことになったのだった。
「音楽室、ですか。」
「一ノ瀬庶務はまだ使った機会は無いのではないかな?」
「そうですね。 実際に入るのは今回が初めてかもしれません。」
1年生の授業の中には音楽と言う授業はなく、主に「雑学」の枠組みに入れられる。 しかし進級する時に座学の内容を選択すれば、本格的に授業を受けることも可能になる。 音楽室はそのためと州点高校の吹奏楽部が使用しているのみだ。
「ここは床の老朽化が試案に出されていたな。」
「確かに所々で危ない場所がありますね。 こことか軋んでるような気がします。」
「吹奏楽でも一部は重たいからな。 床に負荷がかかりやすい。 これ以上はグランドピアノ側から落ちるでしょう。」
床の場合は一部が軋めば、そこから重たい物を優先に落ちていくもの。 危険なのには変わり無い。
「床の補強も打診しよう。 そうなると数ヶ月程は音楽室が使えなくなるな。 グランドピアノは床の修繕が終わるまでは大ホールなどに移してもらおう。」
「会長。 吹奏楽部の楽器の手入れなどはどうしますか?」
「そちらは補填するのが難しい。 心苦しいがなるべく壊さないように使ってもらうよう申告するしかない。 吹奏楽の皆が粗っぽく使っていないのは知っているが、なおのこと、と言うことにしてもらわなければならないな。」
銘も少し溜め息のようなものをついていた。 彼女自身も全部を見回れないのは知っていた。 だからこそ心苦しいのだろう。
「次に行こう。 ここで立ち止まっている訳にもいかないからな。」
そして立ち直りも早い。 切り替えがしっかりと出来るって大事だなと真面目は思ったのだった。
「そろそろ下校時間になるので本日はここまでだ。 試験明けに先程提示した議題を参考に今後の案を出していくことになるだろう。」
結局見回った部分で議題として挙げられそうなのは主に3つ。
1つは当然売店の件。 これは前々から議題になっていたようなので、ここで本格的に手を打つようだ。
2つ目は体育館内の備品問題。 老朽化や錆びなどで正常に備品が機能していないと体育館を使う部活からの依頼の1つだった。 見てみた限りでは穴が開いていたり錆で折れかかっているポールなどが存在していたため、修繕をして欲しいとのお願いだった。
3つ目は部室の問題。 これは単純に防音対策を施して欲しいと言う案件だ。 いくら性別が逆転していても異性は異性。 隣からの声が気になる生徒がいるとの報告があったためだ。
「それでは本日の生徒会はここまで。」
「「お疲れ様でした。」」
そうして家に帰る真面目。 そろそろ始まる中間試験に向けて、これからまた勉強をしなければならない。 数は多くとも絞り込むことが出来ればそこまで難易度は高くない。 今のところは。
「試験が終わるまでは、こんな調子かな。」
色々と忙しいと思いながらも、それを受け入れている自分に少しだけ酔いしれながら帰る真面目であった。




