初の生徒会の仕事
「一ノ瀬君には今日から庶務の仕事に入ってもらう。 試験勉強で忙しいとは思うが、生徒会の仕事に慣れるためにも勤しんでもらいたい。」
そう言われた真面目は今は「庶務」のネームプレートの掲げてある席に座っている。
州点高校は現在中間試験の勉強期間中の為、部活動は行えない。 但し生徒会に関しては休みがないため、このようにして役員が集まっているのもおかしい話ではない。 もちろん彼らにも勉強は残ってはいるが。
そしてそんな真面目の前にはこれでもかと山積みにされた書類があった。
「ふぁぁ。 凄い案件の量ですねぇ。」
「これを見てビビらないなんて、一ノ瀬君は肝が据わっているねぇ。」
松丸が楽しそうに真面目を見ていた。 隣に座っている海星も鼻を鳴らしてはいるものの、機嫌が悪くてではない。
「まずは仕分け作業から入ってもらう訳だが、案件を分けるのは大きく3つ。 学校関係、その中での部活動に関する案件、そしてそれ以外の案件で分けて貰う。 ちなみにそこにある書類は今日で終わらせる必要はない。 どのみち今日で終わる分量ではないからな。」
「それじゃあ会長のあの山積みになった書類は・・・」
真面目は銘の左右に積まれている紙の量を見て質問をする。
「仕分けた上で会長から見て右側がまだ手を付けていない案件だ。 左は既に終わっているのだが・・・水上、いつまでそこにある書類を置いておくつもりだ?」
「だってぇ、こんな量を昨日今日で纏めるなんて無理ですよぉ。 修正箇所とか大事な部分とか見なきゃいけないんだからぁ。」
「それが書記の仕事だろ。 俺だって会長の補助をしなければなならないし、金田だって学校全体の経費を計算しているんだ。 みんな余裕がない中でもやっているんだ。 生徒会らしく自覚を持って励んでくれ。」
「はいはーい。 花井先輩は怖いんだから。」
(それはあなたが不真面目だからでは?)
真面目はそう思いながらも書類を一つ一つ目を通しながら書類を仕分けしている。 それを横目に海星も銘が印鑑を捺した書類を分類別に仕分けしていた。
「一ノ瀬君。」
「なんですか金田先輩? 集中したいのでお話は手短にお願い致します。」
「本当に名前通りで面白いね。 作業しながらでいいから話をしようじゃないか。 君がこの生徒会に来た理由を教えてくれないかな?」
「それは生徒会長から推薦を受けたから、という理由では駄目だと言うことですか?」
「君のように勘のいい少年は我々生徒会では歓迎するよ。」
笑いながら計算機を叩いている松丸。 仕事はこなしているようだった。
「理由としては・・・帰ろうとした時に1人の男子生徒、女子生徒になるのですが、その生徒が何故か蹲っていたので声をかけたんです。 そしたら「君には関係ない」と言われてしまって。 それで思ったんです。 どんな理由であれ誰にも、目の前の人間に話せない事情があったのに、それを聞けなかった自分の無力さを嘆いたからです。」
その言葉で役員全員を黙らせるには充分な言霊だった。
「だから生徒会に入ることで、少しでも相手を思いやれる生徒になろうと。 力になってあげようと思ったんです。」
「なるほど。 生徒会という名目があれば、情報を聞き出せると思ったわけだ。」
「有り体に言えばその通りです花井先輩。 不純だと思いますか?」
真面目の想いを聞いた役員からの反応はどうかと待っていると、不意に銘が大声で笑い始めた。
「あははははははは!」
「め、銘会長?」
「いやぁすまない水上。 あまりにも純粋な言葉でな。 笑ってすまなかった一ノ瀬君。」
「いえ・・・」
流石に笑われるとまでは思っていなかった真面目は、面を食らってしまった。
「しかしそうか。 我が高校でも少なからずはあったか。」
「やはり問題になっているんですか?」
「由々しき事態ではあるがな。 完全に取り除くことは無理だが、減らす事は出来る。 他の高校がどのようにしているかというところも気にはなるが、我々は我々なりに動いてはいるものの、それでも見張る目は限界がある、というわけだ。」
海星の言葉に真面目もその姿勢に押し潰されそうになった。
「その件はまた改めて議題にしよう。 どうせこの膨大な書類を処理しなければならないからな。」
そう言って銘はテキパキと書類を確認してそのままの流れで次をの書類を整理する。
「凄いですね、あの量を淡々とこなしているなんて。」
「まあ、会長が培ってきたやり方だがな。 さあ、我々も負けてられないぞ。」
海星に活を入れられた真面目は、目の前の書類をせっせと確認していった。 たまに似たような書類だったり、良く分からない内容の書類は一度外して、分かりやすい内容ならば仕分けする。
「一ノ瀬、その資料はそこじゃない。 それはこっちだ。」
「え? でもこの内容ならこっちの方が・・・」
「いや、これはこの議題が主体だからこちらで構わん。 二度手間だろうが、もし2つの議題があるようなら聞いておけ。 答えられる範囲で答えていく。」
隣の海星もほとんど同じ作業をしているにも関わらず真面目の方を見てくれていると考えると、自分の手が止まっていることに気が付いて、すぐに作業を取り掛かり直したのだった。
「みんなお疲れ。 今日はここまでにしよう。」
銘のその言葉に皆の肩の緊張が解けて、一気に身体が溶けるように椅子にもたれかかる。
「ようやく終わったぁ。 でもこれから勉強なんて嫌よぉ。」
「水上、そんなことを言わないでよ。 僕も嫌になってくるんじゃないか。」
2人は同じ学年なだけに、試験の内容が似ている。 なので大体そうだと言われれば答えられるのだが、これだけの仕事量の後に勉強をするとなると、かなり気力をすり減らすのだ。
「2人とも帰る準備をするんだ。 会長が心置きなく帰れるようにするためにな。 一ノ瀬もだ。 残りは明日にでも取っておけ。」
「あ、は、はい。」
「それでは本日の生徒会活動はこれにて終了。 解散。」
そうして解散の合図を受けて、学校から出る。 真面目はその帰り道を見て、隣に元々はいた筈の存在を、いないと分かっていながらも、確認したくなった。
「・・・なにを考えているんだか。」
そんなわけ無いと自分に言い聞かせながら帰っていると、不意に携帯が鳴る。 時刻を見れば5時を回っている。 MILEの差出人は壱与からである。
『今日は試作を食べて貰うから、寄り道せずに帰ってきなさいね。』
そんな帰ってくることを心配するかのような連絡に、呆れたような笑いが出てくる。
「丁度甘いものが欲しいと思っていたし、帰りに買っていかなくてもいいか。」
そう言いながら家まで日が暮れる前に帰れるように、早歩きになっていたのだった。
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ここは高柳家の銘の自室。 銘は自分の試験勉強を行いながら、読みきれなかった書類に目を通していた。
「ふふっ。 一ノ瀬 真面目君。 君を生徒会に引き入れて正解だった。 君がいれば、どこの高校も出来ていない高校生活を送れる学校を作り出すことが出来る気がするんだ。」
そう独り言を呟きながら銘は夜遅くまで勉強と資料確認を繰り返していたのだった。




