せっかくならば
真面目と岬は学校近くのファミレスで席を取った。 学生証を見せてから学割のメニュー表を貰いながら、どれにしようか悩んでいた。
「丁度お昼時。 とはいえ元々少食だったのに食べられるかどうか・・・」
「とりあえず頼みたいもの頼んだら? 食べられなかったら僕が食べるし。」
「真面目は食べれる人?」
「まあ、それなりには?」
「分かった。 じゃあシェアできるようにピザにしておこう。 あとはドリンクバーで問題ない。」
そんな風に注文を終えて、ドリンクバーでそれぞれの飲み物を取ってきた後で真面目は本題に入ろうと言葉を出す。
「それで僕に相談って?」
「今の現状の事で色々と。」
どこから言ったものかという感じで質問を返される真面目は、質問の答えになってないと、言わんばかりに頭を抱えた。
「そんなに困ったこと?」
「こうなったことを冷静には留めておけない。」
「ご両親にも話したんでしょ?」
「自分の境遇に近しい人間の方がいい答えが返ってくると思うから。」
その辺りの判断は間違ってはいない。 経験者の方が同じ悩みを抱えていることがあるかもしれないからだ。 特に同じ年齢になれば性転換してしまうこの世界ならばそれが一番の近道だろう。
「本当に僕でいいの? その、中学の友人とかは・・・」
「いない訳じゃないと思うけど、すぐには見つけられなかった。 それに異性の友人はいなかったから。」
その事に関しては真面目も同じだった。 あまり表立って何かを行う性格では無かったし、異性の友人を作るのは難しいとすら思っていたのだから。
「通学路であったのも、何かの縁だと思わない?」
「縁・・・か・・・」
そう言われると真面目も少し考える。 同じクラスとはいえ簡単には仲良くなれないだろうとは思っていたし、なによりきっかけとしては理由になりやすい。 それならば深く考えることも無いだろう。
「分かった。 僕も異性の友達はいなかったから、お互いに条件は同じだね。 利害の一致ってことかな?」
「利害だと意味合いが違う気がする。 だけど似たようなものだと思う。 これからよろしく一ノ瀬君。」
「こちらこそよろしく、浅倉さん。」
元々違う性別の2人が意気投合して友人関係になる、という奇妙な関係図が出来上がった瞬間である。
「お待たせ致しました。 マルゲリータになります。」
「あ、料理が来たよ。」
「そうだね。 熱いうちに食べちゃおう。」
運ばれてきた料理に2人は手を伸ばして熱いながらもピザを食べる。 ピザが美味しいのは普通の感想なのだが、何故か真面目はこの風景も美味しくなっている要因ではないかと勝手ながら想像していた。 まだ知り合って半日しか経っていないのに、居心地というものがいいと感じるのだ。 目の前の少年はピザをモソモソと食べているがそれもまた頬を緩ませる要因なのだろう。
そして2人で一皿分のピザを食べて(真面目が5切れ、岬が3切れ)、少し落ち着きを出していた。
「案外食べられるんだ。 この身体で。」
「僕はちょっと足りないかも。」
「追加で注文する?」
「いや、いいよ。 それよりもまだ浅倉さんの相談事について話をしてなかったような気がするんだけど。」
内容についてはまだなにも触れていないことを思い出した真面目はその事を岬に質問する。 そしてその岬は自分の入れてきたお茶を一気に飲み干すと席を立った。
「浅倉さん?」
「ここだとちょっと話しにくいかも。 場所を変えたい。」
そう言って真面目も残っていた飲み物を飲み干して会計を済ませて、少し歩いたところで小さいながらも公園があったので、そこのベンチに座ることにした。 昼過ぎだからか人は一人二人ほど通る程度だ。
「私の両親は、父も母も厳しい人。 厳しいと言っても優しさが無い訳じゃない。 丁寧に扱いすぎて、ちょっと怖いくらいなだけ。」
語り始めたのは岬の家庭事情。 だけど虐待を受けているわけではない事を補足として説明している。
「父も母もこう言ったことになるのは分かっていたけれど、どこか納得が出来ない様子だった。 ただ普通に接して欲しいだけだったけど、それでも分からないことは教えてくれないみたい。」
「分からない事って?」
「昔の身体と今の身体はなにが違うのか。 それを根本的には教えてくれなかった。 簡単には説明できないのは分かっているけれど、せめて保健体育で教わることの延長線上のような事でも良かったのに。」
そういったことは学校では教えてくれないだろう。 というよりも大人でも説明は難しい。 子供では理解の範疇を超えてしまうし、なにより言葉だけでは理解が出来ないからだ。
「だから私は入学式が始まるまでに独学とネットの調べだけでそれなりに知識は得たけれど、それでも限界はあるし、センシティブに引っ掛かって教えてはくれない。」
確かに真面目も最初こそ調べようとしたが、ネットの限界とまではいかなくても、正直それが本当の事なのか分からないとしか言い様の無い知識ばかりが募った。
「どうすればいいのかを父に聞こうにもはぐらかされる。 でも母も恐らく知らないこともある。 でもこれから生きるには不便になる部分もあると思う。」
「・・・結局のところ、なにがいいたいのかな?」
そう質問しつつも真面目の中では頼まれそうなことは大体の想像はついていた。 岬の言い分としては「自分は男として生きる必要がある」ということ、つまり
「だから一ノ瀬君。 私に「男」というものについて教えて欲しい。」
岬の答えが真面目に聞こえてくる。 分かってはいた事だが、やはり言葉にされると抵抗も少しだけ出てくるものだ。
「ええっと・・・浅倉さん・・・」
「ただ私もしても一方的に教わるのはズルいと思う。 そこで私からは「女」について知りたいことがあれば教える。 これはれっきとした等価交換になると思うのだけど、どう?」
どう?と言われてもといった表情を真面目は晒したが、岬本人は至って真剣で、真面目の顔を真っ直ぐ見据えている。 これだけ真剣な表情をされてしまっては、真面目も断りにくい部分が出てくる。
「教えるのはいいけど・・・その・・・女子にも個体差っていうのがあるように、男子にもそれは当てはまるから、完全には解答できないよ?」
真面目は女体化して急に育った胸を自分で触りながらそう言いきった。 どんな内容の質問をしてくるか分からないけれど、答えられる部分とそうでない部分は区別をしておきたかった。 それは目の前の少年になった少女のため。 そして今後の己のために。
「それは分かってるつもり。 答えたくない部分もあると思う。 姿は女子でも中身は男子だし。」
「・・・なんだか含みのある言い方に聞こえるけど?」
「それに私達は互いの事を知らない。 ならそれも踏まえて知っていくのは悪くないことだと思う。 折角の初めての異性友達。 青春っぽくない?」
岬は優しく微笑む。 その表情に真面目は戸惑いを感じたが、少し考えた後に、岬に向き直った。
「分かった。 僕で良ければ教えるよ。 だからそっちも困ったことがあったら言ってね。」
「交渉成立、だね。 それじゃあまずMEINを交換しよう。 友達としての証。」
岬はスマホを取り出してMEINの友達登録画面を見せる。 それを見て真面目もスマホを取り出して、互いのIDを交換した。
「へぇ、真面目はお菓子アイコンなんだ。 カップケーキなんて自分で作るの?」
「母さんがパティシエだからたまに試作に付き合わされる。 これはその時のやつ。 そっちはぬいぐるみなんだ。 これは・・・熊?」
「熊は熊でもホッキョクグマ。 昔からのお気に入り。」
これも互いの事を知る一歩だと、2人は画面を共有しあった。
「それじゃあ今日はこの辺で。 これから互いに学校生活を円満に出来るよう頑張ろう。」
「そんなに重たい任務なの? また明日。」
そうして2人はそれぞれの帰路へと歩いていく。 真面目は閑静な住宅方面なのに対して、岬はどちらかと言えばお金持ちの人間が住んでいそうな方面へと歩いていった。 それを見ながら真面目は何処かのお嬢様の可能性を感じていたが
(お嬢様が普通の高校に入学するわけ無いよね)
といった具合に頭から否定しつつ、まだ日の高いうちに家に帰って、自分のしたいことをしようと思ったのだった。
ある意味2人だけの秘密のような関係を描きたかったのでこのようにしました。
主軸としてはこんな感じです