なんの話?
夕方になり真面目は少しだけ楽になった身体を起こして、階段を下りてリビングに入った。
「あら、体調はもういいの?」
「とりあえずね。 まだちょっと痛いけど、明日も休めばなんとかなるっぽい。」
「岬ちゃんが来たからかしら?」
「そんな訳じゃないけど?」
岬の時と同様に余計なことを言う前に話を止めておくことにした。 自分でもどう言った感情なのかが整理できないのだ。
「ふーん。 あ、ヨーグルトで作ったゼリーがそろそろ固まってる筈だから、あれだったら食べなさい。」
「夕飯前だけどいいの?」
「そるなら夕飯後のデザートにでも取っておきなさいな。」
そうすることにした真面目はテレビの前に座って、この時間帯にやっている再放送を見ることにした。 父も残業が無ければそろそろ帰ってくる時間の筈なので。
「それにしても随分と岬ちゃんと仲がよろしいようじゃない。」
「まあ席も近いし、話しやすいからね。」
「そうよねぇ、家に招待するくらいだもんねぇ。」
「・・・母さん、まだ浅倉さんとは1ヶ月しか会ってないんだからね。 そんな風に期待されても困るんだけど。」
「あら、別に私はなにも言ってないわよ?」
その言葉に真面目は自分で墓穴を掘ってしまった感覚に陥った。 自分でも流石に言い過ぎたと思ったのだが、別にそれ以上の事はなにも言っていないので、気にすることも無いだろうと思った。
そんな時に玄関のドアが開かれた。
「ただいま。 帰ったよ2人とも。」
「おかえりなさい。 夕飯はもう少し先よ。」
「分かったよ。 真面目、具合は良くなったか?」
「うん。 明日も休めば元に戻るよ。」
「それは良かった。 父さんは風呂に入ってくるよ。」
そう言ってリビングから離れた進を見送りながら真面目は、夕飯の準備を手伝った。
「今日はジャガイモ尽くしだなぁ。」
「安かったから買ってきちゃったのよ。」
今日の一ノ瀬家の夕飯はコロッケにポテトサラダ、ポトフとジャガイモ主体の料理となっていた。
「これは明日は肉じゃがにでもしてみようかな。」
「父さんが料理するなら手伝うよ。」
「あら、私の時は手伝ってくれないのに、進さんの時は手伝うのね。」
「・・・僕も作ったってことにしておけば多少味が悪くても父さんの責任は少なくなるでしょ?」
「そんなことまで考えなくていいぞ真面目。 何はともあれ食べようか。」
そうして一ノ瀬家の夕飯が始まる。 3人ともテレビの音を頼りに静かに食べている。 マナーが悪いと言う意味で喋らないのではなく、ただ単に食べる時は集中したいだけなのだ。
食べ終わるとすぐに食器を片付けて、岬と作ったと言われているヨーグルトゼリーを壱与は出してきた。
「おや、今日はデザートもあるのか。 新作でも浮かんだかい?」
進はそう喋るのは、食後のデザートが出るのは、決まって壱与の新作の試食が多いからだ。 もちろん今回のようにそうでない時もあるのだが。
「違うわよ。 今日は岬ちゃんが真面目のとこが心配で来てくれたから、そのついでに一緒に作っただけ。」
「岬ちゃん・・・ということは女の子なんだよね。 こういった世界になってしまってなんだか複雑な気分になってるよ。 性別が逆転してるのに相手が女の子なんだもの。」
その事に関しては真面目も正直どう答えるべきか悩んでいる。 友人と言った名目では既に片付けられないのだから。
「しかしその岬君にも会ってみたいものだ。 真面目にしては珍しい異性の友人だものな。」
「そうなのよ。 もう最初に来た時は私も驚いたわよ。」
「そんな様子全っ然見られなかったけどね。」
「内心では本当に驚いたわよ? だって友人を滅多に連れてこなかったあの真面目が、異性の友人を連れてきたんだもの。 驚かない方が自然じゃないわ。」
どうやら表情には出さないようにしていたらしい。 実に壱与らしい配慮とも言えるだろう。
「またいつ会えるかしらね、岬ちゃん。」
「そうだね。 今度は僕も会ってみたいな。」
「2人して・・・ でもなんだろう。 近い内に会えそうな気がするんだよねぇ。」
「おやおや? なにか予定でもあるのかしら?」
「そう言うのじゃないんだけど・・・」
ニヤケが止まらない壱与の事はこれ以上話しても、自分がなにを言うか分からないので、ヨーグルトゼリーの器を取った。
「あら、それを選ぶのね。」
「なにさ。 どれだって変わらないでしょ?」
「まあねぇ。 でもその器、岬ちゃんが触れたものなのよ? その器に岬ちゃんが入れたの。」
「・・・なにが言いたいの?」
「いやぁ、以心伝心かしらって思ってね。」
訳の分からないことをと思いつつ、真面目はヨーグルトゼリー(ミカン入り)を口にした。
「まあでも、交流をする際には注意するんだぞ。 その辺りは近年厳しくなってきているからな。」
進は真面目にそう語りかけた。
性転換が行われるようになった近年。 未成年による不純異性交流に対して厳重に取り締まるようになった。 具体的に言えば年齢提示は義務化され、2人での異性同士のお泊まり等も出来なくなった。 結婚なんて言うのは言語道断である。
ただやはりそれでも不純異性交流をするものは少なからずいる。 それも未成年同士によるものが多い。
なので未成年の不純異性交流を行ったもの、及びそれに加担した周囲の人間にそれ相応の罰が与えられるようになった。
考えてもみてほしい。 そう言った行為で産まれた子供の事を。 そしてそれから産まれたのが女ではなく男だということを。 情報量の多さに誰もがショートすること間違いなしだろう。
「別にそんなことをするつもりはないよ。 ちゃんと成人になってから考える。」
「あらあら、もう付き合う前提なのかしら?」
「母さん? 僕は別に誰と付き合おうが関係無いでしょ? 僕は僕なりに生きるんだから。」
「そうね。 あんたはあんたなりに生きなさいな。」
最後の最後で普通の言葉を飛ばされた真面目は、結局壱与の手のひらで踊らされていただけなのかと思いながら、残りのゼリーを平らげて、お風呂に入る準備をした。
「身体は拭いて貰ったけど、お風呂はまだだったからね。 お湯で身体をさっぱりさせないと。」
そう言いながら真面目は着ていた服を脱いで、浴室に入ってシャワーを浴びる。 その時にふと岬に触れられた背中部分を見てみる。 特になにか変わった様子はないものの、やはりというべきか。 あの時触られたのだと感じてはいた。
「・・・まあ、触られたのは背中だけだから、まだいいか。」
今度何かのお礼をしなければなと思いつつ、真面目は身体を洗っていったのだった。
「いやぁ久しぶりのシャワーでさっぱりしたぁ。」
ずっと汗まみれだったせいで、かなり不愉快感を感じていたが、解放されてからは、気持ちも落ち着いた。
「まあでも明日も休めばいいか。 治りかけが一番身体に負荷をかけるって言うし。」
そうして真面目はベッドに横たわる・・・前にシーツを取り替えてから、改めて今夜は眠ることにしたのだった。




