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お見舞いの品は

 真面目が目が覚めると、既に8時を回っていた。 いつもの真面目では二度寝しない限りは起きないであろう時間に起きていた。 頭にひんやりとした感覚があるので触ってみると冷えピタを貼られているのが分かった。


「ああ、だから身体が言うことを聞かなかったんだ。」


 そこまででようやく真面目は自分が「風邪を引いた」事を認識した。 真面目自身は決して鈍い方ではないのだが、こう言った自分の体調の変化には鈍い節がある。 他人を思いやるあまり自分のなにかは後回しになっているのだと、両親は性格的に知っているのだ。


「頭痛い・・・いつ以来だろ?・・・ボンヤリする・・・」


 思い返そうとするも頭痛がそれを阻んでまともな思考に行かせてくれない。 どこまで酷い頭痛なのだろうかと頭の中で考えても仕方がないと思い、今回ばかりはゆっくりすることにした。


「そういえば、この一ヶ月で珍しく自分から動いていた気がする・・・」


 中学までの自分からは想像もし得ないことだろうと思いつつ、真面目は今日をどう過ごすか考えていた。 すると部屋のドアが開かれた。


「真面目、起きれてる?」

「母さん・・・ 自分でも良く倒れなかったと誉めてやりたいかも。」

「そういうのは健康な人が言う台詞だし、今のあんたじゃ説得力は無いわよ。」


 確かにそうだと脱力する真面目。 その傍らには卵粥と薬があった。


「白粥よりは食べやすいでしょ? 食べたらまた寝なさい? どうせ動けないんだから。」

「・・・お見通しってやつ?」

「放っておくと知らず知らずのうちに動いてるからねあんたは。 私は買い物行ってくるから、器はそこに置いておくこと。」


 そう言って部屋を出た壱与を見送りつつ、真面目はまだ器の熱い卵粥を食べる。 昨日の夕飯からまともに食べていなかった事もあってか、するすると入っていく。 これを見越して栄養価の高い卵粥にしたのだろうと思った。

 そしてそんな食事中にふと携帯がなる。 相手は岬からだった。


『やっほー テスト勉強してる?』


 そんな簡素な一言であったが、真面目は今の現状としてはあまり望ましくないので、返す言葉もあまり多くないようにした。


『実は昨日から頭が痛くて寝込んでる。 今はお粥食べてから薬を飲んで寝る予定。』


 そう書いて卵粥を食べ終えて薬を飲み、恐らく昼過ぎまでは帰ってこないであろう母を待ちながら眠ることにしたのだった。


 ―――――――――――――――――――


「・・・」


 岬はひたすらに目の前の教科書とノートをにらめっこしながら勉強をしていた。 勉強自体は嫌いではないし、成績も悪くはないので、今は復習のための勉強中である。


「・・・」


 朝早くからやっているお陰か、頭はスッキリしているし、そこまで難しい問題に取り組んでいる訳ではないのでノートに書いている事もするする分かってくる。


「・・・」


 時計を見る。 真面目に連絡したのが8時半すぎ、今が10時半程なので2時間程は勉強している計算になる。 そこまでは特にいつも通りである、あるが・・・


「・・・やっぱり心配。」


 真面目から「体調を崩した」と連絡があった時、あまり返信を繰り返すと迷惑がかかるし休めないだろうなと感じたため、そこから返信はしていない。 だが頭の片隅では昨日の時点で少しだけ様子がおかしかった真面目を心配していたのだ。


「丁度お昼時。 お見舞いに行っても大丈夫。」


 そう結論付けた岬は、勉強用具を片付けて出掛ける準備をして、家を出ようとした。


「岬? どこか出掛けるの?」


 母である湊に声をかけられる。 やましい理由があって出るわけでもないので、普通に返すことにした。


「うん。 そんなに長くは出掛けないから。」

「分かったわ。 遅くなるようなら連絡してね。」


 そう言って湊と奥でなにかをしている父の姿を確認してから、岬は家を出た。


「お見舞いしに行くのになにも連絡がないのはさすがに驚くよね。」


 そう思った岬はMILEで「お見舞いに行くよ」とだけ打ってから近くのスーパーへと足を運ぶ。 返信は返ってこないことを想定しているので気にならない。


 そしてスーパーの中に入り、店内bgmを聴きながらまずはどんなものが風邪にいいかを確認する。


「うーん、食べやすさを考慮するなら桃とかの缶詰めがいいとは思うし、あとは栄養を考えると食べやすいのは汁物とかってあるけど、さすがに台所を使わせて貰うわけにはいかないかな。 あとはアイスとかゼリーとか?」


 その辺りで一度確認のためにお店を回ることにした。


「大事なのはお腹にいいものかな。 あ、でも体調が崩れてるだけで食欲が無いとは限らないか。 うむむ。 難しい。」


 そう思った岬は、とりあえず果物かゼリー辺りがいいかと考えて、缶詰めコーナーへと足を運ぶ。 そこには果物や焼き鳥、トマト缶など様々な缶詰めが用意されていた。


 そして岬は適当な果物の缶詰めを手にとって、なにを買おうか考えていた。


「定番は桃の缶詰めだと思う。 だけどパイナップルやさくらんぼもあるし、それらを全部入れたフルーツミックスもある。 砂糖漬けの缶詰めとは意外とあるのが難点。」


 ひとしきり悩んで入るものの、結局手に取っていたのは黄桃とミカンの缶詰めだった。


「満足感なら黄桃だけど、食べやすさならミカン・・・ どちらの方がいいのだろう。」

「真面目はミカンの方が好きだから、ミカンを持っていってあげると喜ぶわ。」

「なるほど、それならこちらを・・・」


 岬は自分の問いに答える人がいたので振り返るとそこには壱与の姿があった。


「壱与さん。 こんにちは。」

「やあやあ岬ちゃん。 買い物かな?」


 あれだけ答えておいてその白々しさは無いのではと岬は思ったが、口を紡いだ。 そして壱与のかごの中身を確認した。


「一ノ瀬君・・・真面目君は食欲はある感じですか?」

「ああそうね。 頭痛が酷くなった程度だったからね。 今頃は寝てるでしょ。」


 その言葉に岬はホッと安心した。 その様子に壱与はニヤニヤしていた。


「そうだ、せっかくだから一緒に来ない? その缶詰め買うなら丁度やりたかった事もあるしね。」

「いいんでしょうか? お邪魔しても?」

「あの子も1人じゃ寂しいでしょうしね。」


 そう言って岬が持っていたミカンの缶詰めを壱与のかごに入れた後に、そのままの流れでレジへと向かう。 改めてかごを確認してみれば、ヨーグルトやらアイスの他にも、菓子パンやジュースもあったり、野菜や即席麺、即席味噌汁なんかも入っていた。


「本当に食欲はあるんですね。」

「真面目は体調を崩してもちゃんと食べる子だったからね。 食欲不振の時の方がよっぽど心配よ私は。」

「そんな時もあったんですか?」

「無かったとは言えなかったわね。 その時って何が原因だったかしら? 失恋・・・は無いわね。 友達と喧嘩した時だったかしら?」


 そんな岬の知らない真面目の話をしながら、そのままの流れで家に行くことになった岬。


「自分で言うのもなんですが、本当に行ってもいいんでしょうか?」

「ちょっとしたサプライズってことでいいんじゃない?」


 そう言って壱与は岬を連れていくのだった。

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