この結論は自分で決めたこと
「お久しぶりです、二ノ宮先輩、皇先輩。」
「お久しゅうございます一ノ瀬君。 琴の勉強はしっかり為さってきましたか?」
「ええ。 皇先輩からお借りした本のお陰で復習はバッチリです。」
真面目が訪れたのは日本舞踏クラブだ。 水泳部はゴールデンウィークの間も顔を何度か出しているので、一週間活動の無かったこちらのクラブに行くことにしたのだ。
「あ、これ、大阪のお土産です。 良かったら食べてください。」
「これはわざわざありがとう。」
「日本舞踏クラブらしいものを選んできてくれたんですね。」
そう対話を繰り返していると後ろのドアが開かれる。
「お待たせしました!」
「待ってはいませんよ砂城さん。 さて皆さん集まったところで練習を始めましょうか。」
そして日本舞踏クラブでの活動を始める。 とは言っても特にやることが多いわけではない。 真面目と紗羅はそもそも日本舞踏についてほとんど知らない。 そしてそんな2人をまだ講演会などに出すわけにもいかないため、まずはしっかりと身に付けてから公演会に向けての練習を取り決めるのだ。
「ここまで出来るのならば、簡単な曲を練習するのも良いでしょう。 まずはこちらからお願いします。」
「「桜」ですね。 琴の音楽では有名なものですね。 さ~く~ら~・・・あれ?」
「音がずれてしまいましたね。 前の弾き方に引っ張られているようです。 前のめりにならないようにゆっくりから始めて・・・」
「ここをこう動かして・・・その流れに沿ってこう・・・」
「うん。 良い動きでありんす。 この長期休みでなにかを掴んだのかな?」
「先輩達に遅れを取らないように練習を積んできただけです!」
2人がそれぞれしっかりと練習してきたお陰か、二ノ宮も皇も教えることは多くない。 むしろ新しい事を教えたい気持ちになっているようにも見えた。
そして休憩に入った際に、皇からこんな言葉が入った。
「私達の公演が実は既に決まっていて、今からちょうど来月に老人ホームにて公演を行います。 ですのでテスト期間が終わり次第、そちらの公演に向けた練習をしていく所存です。」
「おお! ようやく私達の晴れ舞台がお披露目出来るんですね?」
「君達の初陣はまだでやんす。 しばらくは我々のアシスタント、もといご説明等の不足分を補って貰う役割になりんす。」
「まあ、最初っから出来るなんて思っていなかったので、少し安心しました。」
その事にホッとしつつも、自分達の出番のためにはもっと練習を重ねなければと真面目は思っていたのだった。
「先に説明しておくと、我々の活動は秋から冬にかけてが一番活動としては多いです。 同好会の方々の都合も考慮はしておりますが、日本舞踏クラブは正式な部活動ではないため、活動範囲が限られているのです。 生徒会直々に広告を出して貰ってはおりますが、それでも呼ばれる回数は指折り程度であります。」
皇は真面目が持ってきたお土産(どら焼)を上品に食べながらそう説明した。
「じゃあ部活動として認めて貰えればそれだけ回数が増えるということですか?」
「そうとは限りませんよ。 いくら部員が増えても、実績は数多くないため、答えとしてはまだ指折りというところでしょうか。」
真面目の質問にも丁寧に皇は答える。 和を極みとも言える風貌であった。
「それじゃあこのクラブってどうなるんすか? 皇先輩が卒業したら、琴をやれるのは一ノ瀬しかいなくなると思うんですが?」
「一応僕も出来ないこともないですが、それでも皇先輩の教えがあったからこそ。 先輩の腕には遠く及びないのです。」
1つのクラブとしてもかなり危機的状況になっているのは確かなようで、有意義にもしていられないのではないかと、真面目は感じていた。
「まあ、その話は今はあなた達が気にする事ではありません。 今後の事は先輩である私達に任せ、改めて覚えて貰えれば、それだけで良いのです。 さぁ、休憩も終わりにして、終了時間まで練習を行いますよ。」
そうして休憩も終わった部室には、綺麗な、それでも不揃いな琴の音色が鳴り響いたのだった。
「それでは本日はここまでです。 気を付けてお帰りください。」
「失礼します! 先輩達も、お気をつけて!」
そう言って紗羅は敬礼をした後に真っ先に昇降口へと向かっていった。
「なんというか、表裏が激しい子ですね。」
「あれぐらい活気づいている方がクラブとしては良いのではないですか?」
「ははは。 それでは僕もこれで失礼します。」
そうして真面目も昇降口へと歩いていく。 明日は水泳部へと顔を出してお土産を渡しにいこうと思っていると、その途中に1人の女子高生が座り込んでいるのが見えたので、真面目は声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・何とか・・・」
その女子はお腹を押さえていた。
「腹痛ですか? 保健室に行きましょうか?」
「いや、大丈夫・・・」
「そうは言っても・・・」
「こちらの問題だから。」
「ならせめて何があったのかの説明を・・・」
「言っても関係のない君には意味ないよ。」
そう言いながらその女子は昇降口からお腹を押さえたままで出ていった。 その姿を見て真面目は、何も出来ない自分を呪ったのだった。
「助けようとしても、一般生徒じゃ助けるのは限界があるのかも・・・」
初めての相手に話すことでも無かったのかもしれない。 でもあれだけお腹を押さえた状態の心配を跳ね返されたのはショックも大きかったのだろう。
「・・・僕は・・・」
真面目は帰りながら曇天になり始めている天気で寒さ感じる空気を受けながら、とにかく考えた。
家に帰り炊飯器を起動させながら真面目はニュースを見ていた。 もちろん両親が帰ってこない時の事もあるので、その場合は連絡が入った上で冷凍食品か近くのコンビニで済ませるのが定番だが、多少遅くなる程度では真面目はそう言ったことはおきない。
『続いての特集は、未だに減ることのない性転換関係によるいじめについて、学校側の対策も講じておりますが、浸透している学校はあまり多くはないのが実態のようで・・・』
真面目にとってタイムリーな話だったのでそのニュースに食い入るように見ていた。
「真面目、ご飯出来たわよ。」
テレビを見ていて数分後の事だったのに、あまりにも集中していたせいか、両親が帰ってきていることに気が付いていなかった。
「あ、ごめん。 全く気が付かなかった。」
「それだけあのニュースの内容が気になったようだね。」
進の言葉に真面目も思うところがあったので、そのまま夕飯を終えて、部屋に戻って眠る前に思ったことを、明日しようと改めて思いながら眠ることにした。
次の日の放課後、水泳部に行く前に真面目は部室ではなく別の場所に来ていた。 そこには生徒会室と書かれている。 真面目はその扉をノックする。
「どうぞ。」
中から生徒会長、高柳 銘の声がしてその扉を開ける。
「やぁ君か。 来てくれて嬉しいよ。」
銘の喜びを遮ることなく真面目は他の生徒会メンバーの前を通りながら、銘の前に立ち、真面目は銘にこう言葉を放った。
「生徒会長。 僕を生徒会に入れてはくれませんか?」




