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1人増えたところで

「いや、浅倉さんが予約したのだったら、どのくらいなのかだけは聞いてもいいんじゃない?」

「それもそうか。 確認してくる。」


 そう言って列から離れてお店のカウンターまで確認をしに行った。 そして戻ってくると、手には何かの紙が握られていた。


「岬、それ・・・」

「整理券。 だけど私達は予約してたから、時間になれば優先的に入れてもらえる。」

「そうなのか。 予約様々だな。」


 そんな感じで5人は再び列に並び直す。


「それにしてもすごい人気のお店なんだね。 予約しててもこれだけいっぱいだなんて。」

「しかもどこのグループも女子がいるが、それでも男子が多いようにも見えるぜ。 これあれじゃねぇか? 自分達が男子になっちまったもんで、この手のお店に()()()()男子()()で入るのに抵抗があるから、俺達みたいなのを適当に誘って入ってる感じじゃね?」

「なるほど、だからやたらと人が多いわけ。 家族連れもほとんどいない。」


 案外考えている事は一緒なんだなとみんなが納得した瞬間だった。

 そして自分達の番に差し掛かろうかといった時に


「ん?」


 得流が何処かの方向を見ていた。


「どうかした? 得流。」

「ちょっと待っててくれる?」

「もう順番来ちゃうよ?」


 真面目の静止も聞かないでそこから移動してしまう。


「どうしたんだ? 近野のやつ? トイレか?」

「お手洗いなら、お店の中にもあるはずですが・・・?」


 みんなの疑問は得流が1人の男子を連れてきたことで払拭される。


「得流。 その人は? 知り合い?」

「彼女私のクラスメイト。 入りたそうにしてたから連れてきたの。」

「こ、近野さん・・・私は・・・」

「まあまあ。 一人増えたところで大したこと無いって。 それに折角来たのに、入らないのは勿体無くない?」


 その男子、薄紫髪でおかっぱ頭の彼は得流の行動に戸惑っていた。 そして一緒に入店することになってしまった。


「5名でご予約されております浅倉様。」

「はい、私です。 あの、1人増えるのは大丈夫ですか?」

「お一人増えた分の料金をお支払していただければ問題はありません。 それでは案内させていただきます。」


 そうして真面目達はそのままの流れでおかっぱ頭の彼も連れてお店の奥に入っていくことになった。


 席に行くまでにも既に大テーブルの上には様々なケーキやゼリー、フルーツが並べられていた。


「俺、男の時だったらあれを見ただけで胃もたれしてたかも知れねぇ。」


 真面目の隣で隆起がそんなことを溢す。 おそらくそれもある意味性別が変わったことによる変化だろう。 趣味嗜好も含めて、味の好みまで変わると言うのは別段珍しい事でもなさそうだ。 そして席に着いたところで、一緒に来てくれた店員が挨拶をする。


「本日はご来店ありがとうございます。 2時間コースでのご予約ですので、お時間お気を付け下さい。 また使用済みのお皿は重ねずに返却口へと置きになってから新しいお皿をご利用下さい。 ドリンクも同じ様に自由となっております。 それではごゆっくりお楽しみください。」


 そう言ってレシート受けにレシートを入れて店員が去っていった。


「とりあえず僕は後でいいからみんな取りに行っておいでよ。」

「俺も残ってるわ。 何が上手いか分かんないからな。」

「それじゃあ先に行ってこようか。」

「そう、ですね。 行きましょう。」

「わ、私も、もう少し、空いてから、行こうかと・・・」

「OK。 あれだったら適当に取ってくるからね。」


 そういって岬、得流、叶はスイーツの乗っているつくえに移動した。 そして残った3人はというと


「なんだかごめんね? 急に一緒にさせられちゃって。」

「い、いえ、いいんです。 こう言ったのに一人で入るにはかなり度胸がいりますから。」

「確かに男1人はきついよな。 見た目だけでも。」


 会話でまずは落ち着いてもらおうと、2人は彼に話しかけた。


「そう言えばまだ名前を聞いてなかったね。 近野さんのクラスメイトって言ってたけど、近野さんとは接点があるの?」

「あ、は、はい。 実は私、近野さんと同じ陸上部なんです。 近野さんは短距離で、私はハードル走をしています。 あ! な、名前でしたね! 名前は南須原 和奏(なすはら わかな)っていいます。」

「南須原さんだね。 僕は一ノ瀬 真面目。 B組だよ。」

「木山 隆起だ。 同じグラウンド使ってるから見かけたことがあるかもな。」


 お互いに自己紹介をしながら、取りに行ったみんなが帰ってくるまでも会話をすることにした。


「でもどうして一人でここに来たの? なにか理由が?」

「あ、それは、その・・・どんなお店か、気になって・・・」

「好奇心には勝てなかったって訳か。 近野が見つけてなかったら、あそこでずっと彷徨いてる不審者になってたぜ?」

「そ、その辺りは、反省してる、んです・・・」

「まあまあ。 こうして入れたんだから、楽しんで帰ろうよ。」

「ただいま。 凄い人集りだったから、ある程度個数を取ってきた。」

「あれは作っても作ってもすぐに無くなりそう。 大半が男子の姿をした女子だもの。」


 3人が会話をしていると、スイーツを取りに行っていた岬達が帰ってくる。


「あ、それじゃあ僕は軽食を取りに行ってくるよ。 先に食べてて。」

「俺も一旦なにか腹に入れたいわ。 ケーキ以外で。」


 そういいながら真面目と隆起は軽食コーナーへと行き、パンとスープを取りに行った。 戻ってくると岬達は楽しく会話をしていた。 和奏は少し戸惑ってはいるが。


「お帰り、早かったね。」

「ほとんど並んでなかったよ。 というか多分スイーツの方がメインだからあっち側には興味がないのかと言うくらいにあまりに余ってたよ。」

「まあスイーツバイキングだからねぇ。 甘いものを思う存分食べたいんだよ。 それにほら、女子だったら気にしていたお腹周りとかも気にしていたけど、男子になったら少し気にしなくなるっていうかさ。」

「男子の身体になったからって脂肪の燃焼率は変わらんぜ?」


 隆起はしれっと投下した爆弾に反応したのか、岬達は食べていたケーキを口に運ぶのを一瞬躊躇った後に、また口にいれたのだった。


「諦めたのか? あれは・・・」

「考えないようにしたんだよ。 きっと。」


 そして真面目と隆起もパンとスープでお腹を少し満たしたところで、適当に持ってきたケーキを取り分けて食べる。


「うん。 美味しい。 クリームが砂糖だけの甘さじゃないのはいいね。」

「俺はこのタルトが食い応えがあって好きだな。 確かにこんだけの種類があったらどれもこれも食べたくなるな。」

「それがスイーツバイキングの恐ろしい所。 女子達の憧れであり、魔の巣窟でもある。」

「浅倉さんここで何かあったの・・・?」


 そしてスイーツバイキングを楽しんでいるうちにあっという間に時間は過ぎていき、最後の15分くらいは雑談をしまくっていた。


「え? それじゃあ皆さんって名前でそうなった訳じゃないんですか?」

「実際にどうなのか分からないんだよね。 別に太ってた訳でも筋肉があったわけでもないのに、朝起きたらこの胸でさ。」

「あーあ、みんなにあたいのナイスバディ見せてあげたかったなぁ。」

「それなら写真に残ってる。 ナイスバディかは置いといて。」

「ちょっ、そういうのは「ご想像にお任せします」が定番じゃん。」

「互いに元の姿を見たらどういう反応になるか見てみたいけどな。」


 そんな感じで時間は過ぎて、退室時間となりみんなでお金を出しあってから、お店を後にした。


「ちょっと食いすぎたかも知れねぇ・・・腹がまじで重たいわ・・・」

「まあ家まで歩いて帰れば少しはお腹も空くでしょ。」

「夕飯食べる自信無いぞ・・・」


 隆起の愚痴を聞きながら歩いていて、真面目は和奏のところに近寄る。


「南須原さん。 良かったらMILE交換しない?」

「え? い、いいんですか?」

「これも何かの縁だと思ってさ。」

「ズルい、それなら私ともやる。」

「わ、私も、お願いします。」


 そうしてみんな和奏とMILEを交換してから、それぞれの帰路へと帰るのだった。

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