和風巡り
岬からお礼としてもらった饅頭を食べ終えた真面目は、岬の行く場所までついていくことになった。 岬の歯形のついた饅頭を食べたことになるが、直接触れたわけでも付けたわけでもないのでこれは間接キスでもない、ノーカウントだと真面目は頭の中で割り切っていた。
「それで今度はどこに連れていくつもりさ?」
「一ノ瀬君はこの辺りの事は詳しい方?」
岬に質問されるが、真面目は余り出歩いていた記憶はない。 仮に出たとしても近場で済ませることが大半だった。 だから詳しいかと言われるとそうではないと言うのが正しいだろう。
「ううん、そこまでは。」
「そっか。 ならこれから行く場所も喜んでもらえるかも。」
どこに連れていかれるのかと言う不安もあるが、それだけに好奇心も生まれては来ていたので、文句を言うこと無くついていくことにした。
そして歩くこと10分。
「ほら、ここだよ。」
「・・・わぁ・・・!」
岬に連れてこられた場所を見て真面目は、ただただ感銘を受けるのだった。
そこは1つの商店街なのではあるが、右も左も建物の雰囲気がまるでタイムスリップしたかのような場所だった。
「凄い・・・! 日本風の街並みがこんなにも近くにあったなんて・・・!」
「喜んでもらえて何より。 でももっと喜んで貰えるようになるのはこれからだと思うよ。」
そしてそのままの流れで街並みを歩いていく。 真面目にとっても目移りしそうな位に色んなものが目に入る。
「おー。 本当にザ・和風って感じになるよね。 あ、あの店凄い! あのコンビニの佇まいが和風になってるよ。」
真面目は目を輝かせて、遊園地にいる子供のように周りを見回していた。
「ここには叶ともよく来るんだ。」
「豊富さんレトロ好きだからこう言うのも好きそうだよね。 あ、そういえば昨日ショッピングモールで編み物の本を買ってたよ。」
「それはまた新しい編み物が見れるかもしれないね。」
そうして歩いていると岬はあるお店に入っていった。 そこは装飾の施されたアクセサリーのあるお店だった。
「髪飾りや耳飾りもちゃんと和風な作りになってるね。」
作り物に感心していると岬が椿のついた髪飾りを持ってきていた。
「どうかな? 一ノ瀬君。」
「君がつけるんじゃないよね? 僕が付けるんだよね?」
「他にいないでしょ。 付けるのは自由だから付けてみて。」
そう言われて真面目は前髪を少しかきあげて、そこに椿の髪飾りを付けてみる。
「似合ってるよ一ノ瀬君。」
「ありがとう。 こう言った髪飾りなら付けていってもおかしくはないかな?」
「そういった人も今は多いよ。 むしろ付けていくべき。」
そう言われたら弱い真面目であるので、もっと店内を見ることにした。
「やっぱり和風なだけに、松竹梅関係も多いよね。」
「日本の伝統的な植物だからね。 ほらこっちは猪鹿蝶だし。」
「あ、花札が売ってる。」
そして色々と見て回ること30分程で店を見て回り買ったのは、真面目が付けていた椿の髪飾りと、竹の形をしたブレスレット、そして花札を買ったのだった。
「花札はあんまりやったこと無いけど、面白そうではあるよね。」
「ルールを覚えてやってみようか。」
そう言いながら再度歩いていく真面目達。 続いて目に止まったのはコーヒーショップだった。
「こういった雰囲気ならコーヒーよりも抹茶とかのイメージがあるんだけどね。」
「抹茶とコーヒーのそれぞれの苦味を絶妙に合わせたコーヒーもあるって。 行ってみる?」
「行ってみようか。」
そうして店に入り、和の雰囲気の店内を楽しんでいた。
「いいね、こう言った雰囲気。 なんかちょっとした別次元に来たみたいでさ。」
「一ノ瀬君は表現が寛大だね。」
「いらっしゃいませ。 ご注文は?」
「ええっと、それじゃあ僕は抹茶オレフラペチーノのグランデで。」
「私はカフェモカフラペチーノのトールで。」
「かしこまりました。 お値段1530円になります。」
「私が出すよ。」
「ちょうどお預かり致します。 それでは番号札をお持ちになってお待ちください。」
そうしてしばらく待っていると店員が注文した飲み物を持ってきてくれた。 そして2人は店内でそれを満喫していた。
「・・・ん! 確かに抹茶の苦さの中にコーヒーの独特の味わいがあって美味しい。」
「それはよかった。」
「浅倉さんはコーヒーの方でよかったの?」
「家で結構抹茶とか飲む機会が多いから、たまにはコーヒーの方も飲まないとね。」
「あぁ、確か茶道をやってるんだっけ?」
「茶道部の次期部長候補だってさ。」
「さすがに早すぎない? というか茶道部って実績とかはどうするのさ?」
「体験会の主催だったりが主なんだって。 あとは老人ホームとかでのお茶会とか。」
「なるほど。 日本舞踊クラブも多分老人ホームには出し物で行くのかも。」
「同じ老人ホームで日程が被ったりして。」
「まさか。」
2人はそんな他愛ない会話をしながら笑いあっている。 端から見れば男女の会話。 だがその実は見た目と性別は正反対。 それが今のこの世界の高校生なのだ。
そしてその場所でゆっくりとした後で2人は更に奥まで歩いていく。
「次は何を見る?」
「そうだなぁ・・・」
「そこのお二人様。 是非こちらを見に来てください!」
真面目達が次に行く場所に迷っていると、不意に呼び止められたので何事かと見てみると、そこはフォトスタジオだった。
「写真屋さん?」
「はい。 昔は七五三やお祝い事などのお写真を撮らせていただいたのですがこの場所の雰囲気も兼ねて、最近では雰囲気に合わせたセットでの写真を撮らせて貰ってるんです。」
「商魂逞しい。」
「でも今の時代にあった商売の仕方だよね。 折角だからやっていこうか。」
「はい! それではカップル1組様ご案内です!」
「カッ・・・!?」
店員の一言に真面目は困惑したが、岬と店員は中に入っていってしまったので、すぐに後を追いかけたのだった。
「それではこちらの中から選んで下さいね。」
「へぇ、明治時代の服から大正ロマンの服まで作り込みが凄いですね。」
「これも着物屋さんの協力のもとで作ってもらったら、とても好評なんですよ。 歴史を感じると言うことで。」
何を着ようかと思いつつも真面目は先程の言葉を思い出していた。 カップルという言葉が何気に刺さっていた。
「あ、僕これにしようかな。」
そんな気持ちを払拭するかのように服を選んでみることにした。 選んだのは大正ロマンの服にはなるが、胸元が少し大変なことになりそうではあったので、店員に着付けは手伝って貰うことにして、一度岬と分かれてから着替え終わると2人が改めて対面する。
「浅倉さんは、少年探偵団にしたんだね。」
「うん。 一番あいそうだったからね。」
「はーい! それでは並んでくださいねー!」
そして2人は並んで写真を撮られることになった。 何枚か撮られた後に2人は着替え直して、その写真を見せてもらうことになった。
「うわぁ、こうやって見ると綺麗なものですね。」
「素材が良かったからですよ。 そう言えばお二人は高校生ですか?」
「あ、はい。 高校生です。」
「そうでしたか。 それなら学生割りとカップル割でお値段お一人様2000円になりますね。」
「っ!」
カップルという言葉にまた反応してしまう。 否定をしようかと思ったのだが、あんまりガッカリさせるのも良くないのでそのまま通すことにした。
フォトスタジオから出た後で岬の表情を改めて見るが、どう思っているのかよく分からなかった。
「一ノ瀬君楽しめた?」
「え? ああ、うん。 楽しかったよ?」
「それならよかった。 一ノ瀬君の家はここからまっすぐ行けば帰れる筈だから。」
「そうなんだ。 それじゃあここまでだね。」
「うん。 それじゃあまたね。」
「うん、また。」
そうして2人はそれぞれの帰路へと帰るのだった。
そしてその帰り道、岬は真面目と撮った写真を見ながら頬を染めていた。
「カップル・・・か・・・」
真面目の前では平然を装ってはいたものの、やはりその心の内は色々と考えていた。 彼女の中で真面目はどう見えているのか、それは彼女の心の中しか分からないことである。




