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限定スイーツ

 ゴールデンウィーク初日から大変なことに巻き込まれたと感じた真面目は、両親が帰ってきて夕飯を済ませた後はすぐに部屋に入り、学校から出された課題に取り組んでいた。 ゴールデンウィークだからと言って遊んでもいられない。 なにしろ休み明けにはテスト期間が入ってくるからだ。 遊んでばかりいるわけにもいかなくなってきた。


 そんなこんなで課題に熱心に取り組んでいると、不意に携帯が鳴る。


『やっほー一ノ瀬君。 明日は予定ある?』


 送り主は岬だったが、なんともテンションが高い。 目の前ではこんな高さは絶対に起きないことだろう。 そんな事を思いつつも真面目は、MILEを打つ


『こんばんは浅倉さん。 特にこれと言った予定はないよ。』


 そう簡潔に返してから再度課題に取り組む。 そして数分後にまた携帯が鳴る。


『一ノ瀬君文面くらい楽しくしてもいいと思うけど。

 予定がないなら明日の8時に「甘和味」に来てくれる?』


 失礼な一文が飛び交ってきたが、それよりも現地集合ということで、何かあるのだろうかと考えた真面目は、


『分かった。 そこに行けばいいんだね。』


 とだけ返してから課題をキリのいいところで終えて、そのままベッドで寝ることにしたのだった。


 翌朝いつもよりも早く起きた真面目はボンヤリしながらもシャワーを浴びてお出掛け用の服に着替える。 今まではスカートタイプが多かったので、暑くもなってきたということもあり、藍色のブラウスにショーパンスタイルにした。 因みに髪も長いと暑さを感じてしまうのでポニーテールを作ってからヘアゴムを3つくらい使って縛り上げた。


「ちょっと夏を先取りしすぎかな?」


 よくコーディネートの話になると季節の先取りをトレンドにすることも多い。 これくらいなら問題はないかなと真面目は思った。


 そしてリビングに降りると朝食を作っている壱与の姿があった。


「おはよう。 早いわね。」

「まぁね。 ちょっと呼ばれたからさ。」

「あら、岬ちゃんとデートかしら?」

「なんでそうなるのさ。 まあ浅倉さんに呼ばれたのは間違って無いけど。」

「それをデートと言わずに何て言うのよ。」


 そんなものは知らないと言わんばかりに真面目は朝御飯を食べて、外へと出掛けた。 時刻は7時半。 これから行こうとしている甘和味(かんわみ)は場所はそこまで歩くことはないものの、時間よりも先に行こうと思っているのはマナーだと思っているので早めに出たのであった。

 そして予定よりも早く着いた甘和味の前には既に何人か並んでいる姿があった。


「うわっ。 なにこれ。 なんで並んでるんだろ?」

「ビックリした? このお店にこんなに並んでいるなんてさ。」


 その声に振り替えると岬がいた。 少し暑くなってきたにも変わらず上も下もウインドブレイカーという、本当に最低限の格好で現れた。


「一ノ瀬君涼しそうだね。」

「そう言う浅倉さんは暑そうだけど大丈夫?」

「ん。 心配ない。 これでも中はインナーだから。」


 何が大丈夫なのだろうかと思いつつも、後ろではどんどん列が作られていくので、とりあえず急いで列に並ぶことにした。 真面目達のところで既に10人以上は並んでいた。


「それでこれはなんの行列?」

「ここの和菓子は美味しいって地元では有名だよね?」

「僕も食べたことがあるよ。 母さんが和菓子のインスピレーションを取り入れたいって言って買ってきたんだ。」


 そう真面目は答えるが本質はライバルとして味を知っておきたかったのかもしれない。


「それでゴールデンウィーク限定の和菓子が出るの。 お一人様2つまで買えるんだ。 それで一ノ瀬君を呼んだわけ。」

「なるほどねぇ。」


 ようは数要員として呼ばれたのねと思った真面目である。 とは言え朝早く来たのに買えませんでしたとなるよりはましだろうかと頭を切り替えた。


「それにしてもなんか多いね。 そんなにここって有名になってたっけ?」

「ううん。 テレビとかにも取り上げられてない筈だから、ここまで多いのは珍しい。」

「なにか大々的にやってたとか?」

「うーん、確かにチラシとか配ってたりああやってお店の看板に宣伝してたりはあったけど、それだけでこれだけの集客効果は、どうなんだろ?」

「案外そう言ったのは近隣ネットワークの方が強かったりするかもね。」


 そんな会話をしている間にも真面目達の後ろにはどんどん列が出来上がっていく。


「そういえばこの店の開店って何時?」

「一応9時。」

「予定よりも早く来て正解だったね。 見てよあの列。」


 開店30分前で既に最後尾の看板が見えるか見えないかくらいまでに伸びきっていた。 あと10分でも遅れていたら更に後ろに並んでいたことになるだろう。


「私の判断は正しかった。」

「そうだね。 浅倉さんの言う通りだったね。」


 むふんと得意気な姿の岬を真面目は後ろから頷いて反応して見せた。

 そして開店10分前になり、店員がメガホンを持って現れる。


『皆様大変長らくお待たせいたしました。 当店限定の「うぐいすあん饅頭」まもなく販売いたします。 先頭のお客様から先に入店になりますので、押さないでゆっくりと移動してください。』


 そう言われたので前から店内に入っていく。 真面目達はギリギリ入ることは出来なかったが確実に購入は出来るだろう。

 そう思った次の瞬間、真面目は後ろから誰かに押されてしまい、岬を寄りかかるような形になってしまう。


「ごめん浅倉さん。 怪我はしてない?」

「・・・う、うん・・・怪我はない・・・」


 現在岬の後頭部には真面目の胸が当てられていて、その間にすっぽりとはまってしまいそうになっていて、岬は心臓の鼓動が速くなり、不自然に前屈みになっていた。


「・・・あ。 ご、ごめん浅倉さん。 すぐに離れるから・・・」


 真面目も状況が理解できたようで、すぐに岬から半歩下がる。 そして順番になったのを確認して店内へと入っていくのだった。


「ありがとうございました。」


 そうして限定スイーツをゲットした2人は他の客の邪魔になっては行けないとそそくさと別の場所へと移動するのだった。


「よかったねちゃんと買えて。」

「ミッションコンプリート。」


 2人の手にはそれぞれ二個ずつのうぐいすあん饅頭が入っている。 並んで待った買いはあるというものである。


「それじゃあ・・・はい、浅倉さん。」

「ありがとう一ノ瀬君。 家に置いてくるよ。」

「僕もこれで家に帰るよ。」

「待って、これだけのために出したのはさすがに申し訳ない。 置いてきたらすぐに戻ってくるから待ってて。」

「ちょっと待って。 浅倉さんの家ってここからどのくらいなの?」

「大体15分。 だから30分くらいで戻ってくるから。」


 そんなに待たされるのかと言おうと思ったが、岬は既に走っていってしまった。


「あぁ・・・まぁ行っちゃったものは仕方ない。 戻ってくるまで待ってよう。」


 そうして待つこと20分程。


「はぁ・・・はぁ・・・お待たせ。」

「もしかして急いできた?」

「さすがにこれ以上待たせるのはよくないと思ってさ。」


 そういう気遣いは出来るんだと思いつつも、岬の手に持っていた袋が目に入った。 それは先ほどまで饅頭の入っていた袋だった。


「うん? 持って帰ったんじゃなかったの?」

「これは一ノ瀬君の分。 一緒に買ってくれたお礼。」


 真面目はここで思ったのは、確かに1人二個ずつ買ったのなら一個は余る計算になる。 その分をくれたと言うことになるのだ。


「そっか。 それじゃあ・・・」


 そう言って手を差し出した真面目だったが、それより先に岬は紙袋から饅頭を取り出した。


「一ノ瀬君。 口を開けて。」

「え? あー・・・」


 言われた通りに真面目は口を開ける。 そして饅頭の端を咥えられる。 さらにその反対側に岬も饅頭を咥えたのだった。


「・・・!?」


 その行為に真面目は驚き、岬はその一口を囓り取る。


「うん。 美味しい。 さ、それを食べたらついてきて。 もう少し見て回りたいところがあるから。」


 そう言う岬を見ながら真面目は、饅頭を一口食べるが、味の感想などを考えている余裕など無くなっていたのだった。

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