明日からの予定は
「明日からゴールデンウィークとなりますが、自分達が学生であること、そして性別が変わっていることを自覚した上で、学生らしい休みを過ごしてください。」
ゴールデンウィークが始まる前日の帰りのHRも終わり、1-Bのクラスメイトはそそくさと出ていった。 勿論この後部活に行く人もいるとは思うが。
「一ノ瀬君、今日はどっちに行くの?」
「今日は日本舞踊クラブの方に行くよ。 まだ向こうでのゴールデンウィークの活動を聞いていないしね。」
水泳部での予定は聞いたので、真面目はもう1つの日本舞踊クラブの予定を聞きに行くことにしたのだ。 予定が被ってしまわないように配慮をしなければならないからだ。
「それじゃあ今日は一緒に帰らない? 終わる時間は一緒だろうと思うし。」
岬が理由もなくそんなことを言うことはないと思っているので、真面目は静かに頷き返したのだった。
「ゴールデンウィークは特に活動は行いませんよ。」
皇から言われたのはそんな言葉だった。
「行わないって・・・それじゃあこのクラブの存在意義が無くなるじゃないですか!」
声をあげたのは二ノ宮と一緒に踊っていた紗羅だった。 しかしそんな言葉を皇は涼しい声で返答する。
「落ち着いて下さい。 我々日本舞踊クラブの目的は伝統を残すことにあります。 しかしそれは保存会の皆様のご協力があっての事。 一学生である我々だけでは、出来ることに限界があるのですよ。 これは部長である私の判断となります。 それに世に知らすことは出来なくても、個々でならば伝えることは出来ますでしょう?」
その皇の言葉にどう思ったのか分からないが、紗羅からの反論は無くなった。
「そう思ってくれるだけでも我々の存在意義があると言うものだよ砂城さん。 さ、続きをしようか。」
「・・・分かりました。」
そう言ってしぶしぶといった様子で練習を再開させる。 その表情はどこか納得いってない様子ではあったが。
「皇先輩。 僕も先輩の決定を覆す気はありませんが、部活をするのならば協力は惜しみませんよ。」
「いえ、本来ならば私も尽力したいとは思っているのです。 出来ないのはこちらの都合があるだけなのです。 それが無ければと思うのですが・・・」
「先輩の都合って・・・それは二ノ宮先輩には」
「去年のうちに伝えてあります。 去年も入ってきたのは彼一人でしたから。」
どうやら皇には複雑な家庭事情があるようだと思った真面目は、それ以上は深掘りすること無く、皇から琴の扱いを習っていたのだった。
そして部活動も終わり、真面目は昇降口へと向かう。 するとそれと同時に岬も現れた。
「やあ一ノ瀬君。 そちらも部活終わりかな?」
「そんなところだよ。 まあ適当に歩いていこうか。」
真面目と岬は靴を履き替えてそのままの流れで正門へと向かう。
「そういえば茶道部ってゴールデンウィークはどうするかって聞いてる?」
「特に活動はしないってさ。 そもそも文芸部は休みに部活をしないんだって。」
「ふーん。 理由でもあるのかな?」
「実績を残す場面が少ないからだとかなんだとか。」
「部活側がそんなことを言っていいの・・・?」
内容の良し悪しはあれど、学校から部費が出ているのに消極的ではないだろうかと真面目は考えたが、一年の真面目達にはまだ先の話になることだろう。
「そうそう。 明日からゴールデンウィークが始まるじゃない。」
「言っておくけど明日は無理だよ。 午前中は水泳部に参加するから。」
「なら仕方がない。 また別の日にしよう。」
流石に部活終わりの人間を連れ出すのは良くないと考えたのか岬はそのまま歩いていく。
「部活はいつやるの?」
「基本的には学校以外だと土曜日はやるみたい。 だけど長期休みの時は考えるってさ。」
「水泳部なら夏が本番。 夏休みとかは多くなりそうだね。」
「そうだろうね。 それまでには部員全員分の競泳用水着が届くのかな?」
「レギュラーにならないとそうとも限らないかもよ。」
今年の夏は忙しくなりそうだと真面目は思っていたのだった。
「ただいま。」
「お帰り真面目。 今日は野菜カレーにしたぞ。 我ながらうまく出来たと思うのだが。」
「僕は子供じゃないよ。 でも楽しみ。 着替えてくるよ。」
そう言って部屋に戻り、部屋着に着替え直してからリビングへと入る。 カレーの匂いが鼻腔をくすぐる。 匂いだけでお腹が空いてくる。 そして皿にご飯をよそっている進の姿を見て真面目は不思議そうにする。
「あれ? 母さんは帰りが遅くなるの?」
「ああ、そう連絡があってね。 なんでも店の装飾をもう少し拘りたいから先に食べていいとのことだ。」
「そっか。 ゴールデンウィークはかきいれ時だもんね。 父さんの方は大丈夫なの?」
「店の装飾は若い人に任せてるよ。 おじさんのコーディネートじゃ客寄せには向いてないからね。」
やれやれと肩を竦める父を見ながらカレーを口にする。 何てことの無い野菜カレー。 なにか特別なこだわりがあるわけではないが、安心する味と言うものはあって、しっかりと味わったのだった。
『明日からゴールデンウィークという人も多いと思われますが、それにともないより一層の性犯罪への取り締まりを強化していく方針を全警察官へと言い渡されました。』
真面目が見ているニュース番組でゴールデンウィークでの話が持ちきりになっている。 ただ楽しむだけの話題ではないが。
「大変だよね。 こういう時代になってから見た目だけで性別が判断できなくなってきたんだもの。」
「それだけ苦労する人がいるからこそ、真面目達のような若い人達が道を踏み外さないように出来ていると思うけど。」
「それでも踏み外す人間はいるけどね。」
『続いてはゴールデンウィークに是非とも行きたいレジャー施設の紹介をしたいと思います。 現場の山中さん?』
『はい、現場の山中です。 私が今いるのは・・・』
そんなことを言いながらニュース番組を見ていると
「ただいまぁ! いやぁ最後の所がなかなか終わらなくてねぇ。 おっ。 今日はカレーですか。」
「お帰り壱与さん。 準備はしておくのでお風呂に入ってきて下さいな。」
「はいはーい。 あ、カレーは大盛りでお願いしまーす。」
そう言ってリビングを出る壱与を見て
「母さん、全然残業してきたって雰囲気無いんだけど。」
「それだけ楽しいということだろうね。 それよりも真面目。 携帯が鳴っているぞ。 こっちはやっておくから、そっちの連絡を返してあげなさい。」
真面目は携帯を見ると確かにMINEの連絡通知が来ていた。
『今回のゴールデンウィーク、もし良かったらみんなで集まって遊んだりしたいんだけれど、どうかな?』
連絡をしてきたのは岬からだった。 その連絡を受けてみんながいいねのスタンプが押されていた。
『それならさ、この店にみんなで行かない?』
そう言って得流からなにかのURLが送られてきたのでそれを見ていくと、あるお店の情報が出てきた。
そのお店ではスイーツバイキングが行われているようだった。
『この店学生グループで行くと割引してくれるんだってさ。 折角だからどうかな?』
その提案に反対する人はいなかった。
『いいじゃん! 行こうぜ行こうぜ!』
『それなら、日程を決めないといけませんね。』
『運動部に入ってる人達の事も考えないとね。』
『その辺りはまた明日以降に決めようよ。』
そんなこんなでやり取りをしているうちに寝る時間帯までMILEで語り合っていたため、真面目は明日の部活のために寝ることにしたのだった。




