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入学式

春の恒例行事

 性転換してから土日を挟んだ月曜日。 いよいよ高校へと入学する時がやってきた。


「・・・変じゃない・・・よね。」


 真面目は自分の下着を着用し、そして改めて配られた学校の制服を着る。 但し着ているのは女性用。 つまりブレザーにスカートのタイプだ。 最初ということでスカート丈は長くしてある。 これに関して言えば敢えて真面目がそうしているのだ。


 そして階段を降りてリビングへと入る。 そこには既に準備を済ませている両親がそこにはいた。


「あら、ピッタリじゃない。」

「うむ。 様になっているぞ真面目。」

「ありがとう、父さん、母さん。」


 その後は誰が言うでもなくそのまま玄関へと歩み、家を出る。 真面目達の家は閑静な住宅街にあるので、学校へと繋がる大通りまででも人はそれなりに通るし、なにより真面目と同じ様な学生がわんさかいた。


「みんな同じ学校に行くのかしらね。」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないな。」


 真面目もその辺りは分からない。 なにしろ中学の友人ですら誰だか見分けが付くわけもなく、ただただ一緒の方向に歩いているだけなのだから。


「着いたわね。 綺麗な桜じゃない。」


 家から歩いて30分。 これから真面目が通う事になる高校「市立州点高校(しゅうてんこうこう)」の正門へと足を運んだ。 正門部分には入学式の看板札まであり、そこで新入生であろう学生が、写真を順番に撮っていた。


「我々は帰りにしようか。 時間も押し始めてるし。」

「そうね。 ええっと体育館はどこかしら。」


 入ってすぐのところの看板を見て、真面目達はそれに沿って校内を歩く。

 学校としてはそこそこ大きく、校舎が4階建てが2つある作りになっている。 他にも色々と見てみたい衝動に駆られる真面目であったが、今回は入学式で終わりなため、直接目にするのは明日以降になるだろう。


「体育館、ここみたいね。」


 そこには確かに体育館のような場所に他の生徒を連れた親子が中に入っていくのが見える。 そこに一ノ瀬一家も並ぶ。 そして10分程で受付に着いた。


「生徒さんのお名前をどうぞ。」

「一ノ瀬 真面目です。」

「・・・はい、一ノ瀬さんですね。 ではこちらをどうぞ。」


 そう言って真面目に渡されたのは生徒手帳。 両親にはパンフレットを配られた。


「席は椅子のところに名前が書いてありますので、そちらにお座りください。」


 そう言われて中に入って座席のところにかかっている名前を確認しつつそこに座る。 恐らくは名前順になっているものと想定はされるものの、やはりというべきか、かなり狭さを感じてしまう。


「それでは皆さんお集まりいただきありがとうございます。 新入生の皆様。市立州点高校へのご入学おめでとうございます。 入学式に伴い、校長先生の挨拶をお願い致します。」


 そして壇上へと上がった校長先生なのだが


「初めまして新入生諸君。 私がこの州点高校の校長である永島 満(ながしま みちる)です。」


 なんと現れたのは明らかに若い女性だった。 その状況に真面目も含めて、新入生全員が驚きを隠せずにざわめき始めた。


「そう驚くのも無理はないと思っていました。 だがこう言ってはなんですが、こんな見た目でも40近いおばさんなんです。 そしてこうして若い校長としてやっている理由としましては、昨今の「性転換事情」についてです。」


 その言葉に体育館にいた全員が静けさを表した。


「私にも今年中学生になる娘がいます。 だから後3年もすれば皆さんと同じ立場になります。 娘をこの学校に通わせたいとは思いません。 ですが少しでもこの現状を知る事が、今の日本の課題ではあります。 私よりも上の世代の人はこの現象に対し、「自分には関係無い事」、「後は下の世代が何とかするだろう」と半ば投げ槍になり、若者達の今後を見据えていません。 学校側がそれでどうするのかと。 そんなことをこの学校の教師時代に思いました。」


 永島校長の言葉に、新入生もその両親も真剣に聞いていた。


「私が校長をやる2代前は70歳を越えるお方でした。 しかし理解はしていても行動には移すことは少なかった為、制度が代わりその次の校長は学校の中でも古株だった人が一度なり、私に座を引き継がれていきました。 私は娘のため、自分のため、なによりこれから来るであろう貴方達のような新入生の為に! 性転換しようが関係の無い学校生活を送って貰えるように、皆様共々と尽力を尽くしていきたいと思っております! 以上になります。 ご清聴ありがとうございました。」


 その締め括りに、誰からか拍手がなり、その後に波になるように拍手が飛び交った。


「永島校長先生、ありがとうございました。 それでは新入生の皆様は体育館を退場すると同時に先生に従って教室を回っていってください。 今後必要になってくる教材等が置かれていますので、各員一冊ずつ取っていってください。 保護者の皆様は今後の流れを説明いたしますので、今しばらくお待ちください。」


 そうしてぞろぞろと動くのも通路が詰まって動けなくなるので、ある程度人数を絞ってから行くことになった。 そして真面目の順番になる。


「それじゃあ行ってくる。」

「行ってらっしゃい真面目。」

「これが終わったら正門に集合になるな。 」


 そう言って真面目と両親は一時の別れを告げる。


 そして連れてこられた教室には様々な教材が並んでいた。 現国、古文、数学、化学・・・高校生が学ぶのに十分な程の教材だ。 他に目立った教材というのは見えていない。


「それではこの鞄に1人一冊ずつ取ってください。」


 そう言って渡された鞄に真面目はサクサクと教材を入れて次の教室に行くために待機していた。


 そして連れてこられたのは視聴覚室。 そこには数名の女性教員がそこにいて、真面目にとって、いや、ここに集まった女子(男子)生徒にとって天国と地獄が入り交じる世界が待っていた。


「それでは1人ずつこちらに入ってくださいね。」


 白いカーテンの向こう側でなにをされているのかが分かるだけに、ある意味行き地獄と化している。 男子だった頃は色々とドキドキな部分も、女子になれば逆の意味でドキドキが加速する。


「では次の方。」


 真面目の番になり、女性教員の言われるがままに衣服やらなにやらを捲られたりする。 そして魔の時間が終わりを向かえて、入ってきた所とは逆のところから出て、渡されたのは替えの制服に夏用の制服、体操服とジャージ、そして学校指定の水着だった。


 真面目は確信した。 この学校には水泳の授業がある、と。


 色んな意味で疲れを感じた真面目は最後に写真を撮る為の部屋に行く。


「では撮りますよー 3、2、1・・・はい。」


 写真を撮られたものを見ると、そこには緊張か恥ずかしさか、微妙に表情筋が硬くなっている真面目(女子)の姿があった。 この顔で3年間は過ごさなければいけないのかという失念と、この表情がどれだけ変わるかの好奇心の2つが今の真面目には存在していた。


 そしてそれを生徒手帳に張り付ける際に、隣に元の自分の顔があった。 前髪は目元が見えるか見えないかくらいまで垂れて、あまり明るい感じではない。 そんな自分の顔を改めてみて、真面目は本当にこれが自分なのかと、先程の写真を貼って、部屋を後にしたのだった。


「あ、来たわよお父さん。」

「どうだった真面目。 ・・・随分と疲れているようだけど。」

「まぁ・・・色々あったからさ・・・」


 真面目にとっては結構精神疲労が凄いものだったと言えるだろう。 本来ならば思春期真っ盛りの時期。 異性の身体は気にならない筈もない。 そんな感じで真面目は気疲れが発生していたのだった。


「まぁまぁ、それも終わったんだし。 ほら、看板のとなりに立って。」


 壱与は朝撮れなかった記念撮影をするために真面目を看板のとなりに立たせる。 真面目としては先程撮られたばかりなので勘弁して欲しい部分も少なからずあったが、記念撮影というのであれば文句も言えない。


「撮るわよー はい、チーズ。」


「カシャリ」と音が鳴って、写真を撮られた後に一家は帰路へと進んだ。


「高校で友達、出来ると良いわね。」

「それ・・・どっちの話?」


 そんな他愛ない話をしながら、これから起こる学校生活に、顔には見せなくても胸を踊らせている真面目だった。

新しい学校生活の様子は次回からになります。

本格的なのはもう少し先になると思いますが

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