買い物に付き合って
「真面目。 買い物に行くわよ。」
真面目が朝起きて朝食を取っていると壱与からそんな提案をされる。
真面目の家は食材を買いに行く時は決まっていたりする。 なので買い物に行くと言われて疑問を持った。
「あれ? まだ時期じゃないよね?」
「そうね。」
「冷蔵庫の食材無くなった?」
「後3日位は持つわよ。」
「特売なものでもあった?」
「特に無かったわ。」
「・・・え? じゃあなんで?」
「気分かしらね。」
気分てと思ったが、そんなことを言ったら面倒なことになるので真面目は止めておいた。
「一緒に来たらあんたの好きなものを買って良いからさ。」
「完全に餌で釣ろうとする子供みたいな事言ってるんだけど。」
「どうする? ついてくる?」
「予定もないし行くよ。 荷物持ちは必要でしょ?」
「今は娘になってるから、あんまり頼みたくは無いんだけどねぇ。」
「身体を鍛える一環として荷物もちするよ。」
壱与と真面目の2人でああ言えばこう言う合戦をしているもののお互いに譲る気もなければ、止める様子もない。 そうなった時はどちらかが諦め、もとい先に行動して中断するのが通例だ。 ちなみにこの戦いには進も含めて勝者はいない。
一ノ瀬家には車を常駐させていない。 元々駐車場の無い家として購入したが、どこかに出掛けるにしても基本は公共交通機関を利用している。
前に真面目が「車は買わないの」と質問したら両親揃って「管理が面倒」と返ってきた。 面倒な事は避けたいと思っている両親であった。
「買い物の時くらいは使えるようにしないの?」
「昔から言ってるでしょ? 運転をするのが嫌なんじゃなくて、車の手入れとか掃除とかをしたくないの。 ただでさえ仕事があるのにそっちまで気は回せないわよ。」
「気になったんだけど父さんも母さんも免許は持ってるの?」
「普通の車を乗るくらいはね。 でも社用で使った程度よ。 プライベートじゃ乗らなかったわ。」
歩きながら真面目は思った。 自分ももしかしたらクルマを持たない人生を送るのでは?と。
そうこうしているうちに最寄りのショッピングモールへと到着する。 前回真面目が来た時は岬達と来ていたが、今回は母との入店だ。
「それで買い物はなにするのさ?」
「そうねぇ・・・」
そう言いながら壱与は考える。 そして思い出したように手を鳴らす。
「そうよ。 あなたの服を買おうと思ってたのよ。」
「あれ? 買い物は?」
「別に食材なんて最後で良いのよ。」
前に真面目が言ったようなことを言っているので、あ、遺伝だなと感じたのだった。
そして服が売っているところに到着して、まず始めにやってきたのは女性用シャツの場所だった。
「女性用でもこんなにあるんだね。 大きさってどうしたら良いんだろ?」
「あれなら一段階大きいものを選びなさい。 それなら入るだろうから。」
アドバイスを貰いつつ自分にあった色を選択して、次にやってきたのはスカートのブースだった。
「次はもっと攻めたのにする?」
「上だけでも大変なのに下はさすがに・・・」
「良いじゃない。 見せつけちゃいなさいよ。 そんなダイナマイトボディ。」
「そんなに見せつけたくないんだけど・・・」
んー、となりながら自分の身体を見てみる。 確かにダイナマイトボディと言われればそうだろうし、目を惹かれるのは実際に感じたことはあったが、それを自ら見せつける程ナルシストではないので、真面目はスカート丈に関しては、せめて膝程度までで留めた。
「勿体無いわねぇ。 折角いい身体してるのに。」
「おっさんみたいなこと言わないでよ母さん。」
ため息をつきながらも真面目はそれなりのものを選び、壱与に渡して購入をする。 この店も学生キャンペーンをしているため、値段も全体の3割引で提供されるのだ。
「いい時代になったものよねぇ。」
「喜んでばかりもいられないんじゃない? いつかそれが普通になるかもしれないし。」
「そうなる前に買うだけよ。」
未来の事は考えないのが壱与のやり方だ。 未来よりも今を生きたいらしい。
次に向かったのは100円ショップ。 店舗程広くはないが、それでも品揃えは負けてない。 そして壱与はそそくさと店内へと入りあるものを手に取った。
「これよこれ。 やっぱり浸けるための容器はこっちじゃないと。」
「今度はなにを作るの?」
「時期が時期だし、梅干しでも作ってみようかと思ってね。」
「珍しいね。 母さんがフルーツ以外で浸けるなんて。」
「梅だってやり方1つで立派なフルーツよ? 新しい試みなのは間違いないけど。」
そう言いながらレジへと向かう壱与を見送りながら真面目は適当にふらついていると、ふと目に止まったのはシュシュだった。 色は黒で大きさもそこまでではないタイプのものだった。
「リボンで結ぶよりはシュシュでまとめた方が・・・でもロングヘアーのままにしておくのも捨てがたいし・・・」
「別に良いじゃない。 気分で髪型を変えたって。」
「うわぁ! あ、買い物は終わったんだ。」
「まあ容器だけだしね。 それでそれで? 買うの? そのシュシュ。」
「検討中。 また必要そうなら買うよ。」
「素直じゃないわねぇ。」
ほっといてほしかったが、仕方の無いことだと諦めた真面目であった。
「随分とおしゃれなものにしてきたわねぇ。」
「別にラーメンでも良かったんだけど、なんか目に入っちゃって。」
食材の買い物をする前に訪れたフードコートは休日ということもあって混んでいた。 席を取れたのもたまたま食事を終えた二人組が片付けをしたためそのまま譲って貰っただけだ。 頼んだ料理は真面目が海鮮スープスパゲッティ。 壱与はBLTバケットサンドだった。
「別に身体が女子だからって無理する必要ないのよ?」
「無理はしてないし。 これでも大盛にして貰ってるから。」
「ふーん。 あんたがそれでいいならいいけどさ。」
そうして2人の食事は静かに始まり、静かに終わりを向かえる。 家では特に喋らないなんて事はないものの、やはり外だからか多くは語らなかった。
「さてと、今日は何が安いかしら。」
「まだ昼間だから値引きシールは早いと思うんだけどね。」
「別に私は値引きじゃなくても構わないわよ。 さぁて何を買おうかしら。」
今の世の中の専業主婦ならほとんど言わないであろう台詞を平然と言える辺り、頑張ったんだろうなとウキウキな壱与の背中を見ていた。
そこからは基本的に壱与の匙加減で買い物は決まる。 例えば魚を選ぶ時も
「切り身は鯖と鮭どっちにしようかしら。 ・・・さばの味噌煮食べたいからこっちね。」
とか
「豚肉はバラにして、鳥はむね肉にしましょうか。 安いし。」
と言った具合だ。 こだわりがないのかと言われると違うのだが、食材の目利きは関係無いようだ。
「お惣菜も買っていこうかしら。 真面目、何が食べたい?」
「うーん、そうだなぁ・・・ あ、エビフライ入れてよ。」
「分かったわ。 後あんたの好きなレバーの炒め物も入れておくわね。」
そう言って壱与は手慣れた様子で惣菜を入れていくのを見ながら真面目はパンコーナーへとやってくる。 いつもは壱与か進が朝食を作ってくれるし、真面目自身も自分の分位なら作れる。 なので惣菜パンや菓子パンはなかなか買わなかった。 しかし高校生になりお弁当の作り忘れや両親が忙しい時なんかはたまにお世話になり始めている。
「食パンは6枚切りで、後はそうだなぁ・・・」
そう言いながらパンを物色していると、隣で同じ様に悩む女子がいた。 その様子を見た真面目はその人物に声をかけた。
「あれ? 隆起君?」
「ん? おー真面目か。 お前も買い物中か?」
「母さんのね。 いつもお昼はここで買ってるの?」
「まあな。 購買部は争奪戦だから、体力使うんだよ。 運動は出来るって言っても、他の人達を押し退けて取るのは気が引けるんでな。」
「確かにあの波には紛れ混み無くないよね。」
「つー訳で俺はここで買ってるって訳。 んじゃな。」
そうして隆起はいくつかの惣菜パンを手に去っていった。 真面目も菓子パンを数個取って壱与の所に戻ったあと、レジを通して買い物は終了する。
「ふぅ。 大分買ったんじゃない?」
「それでも半月分よ。 それに野菜はほとんど買ってないし。」
「なんでさ?」
「新鮮一番。 冷蔵庫にあっても最悪腐らせるのはちょっとねぇ。」
言ってることは分かるのでそのまま荷物を持ちながら帰る真面目と壱与。
「今日の夕飯は?」
「折角鯖を買ったから、味噌煮にするわよ。 今から煮込めば夕飯には間に合うでしょ。」
そうして会話をしながら買い物を終えた親子の姿があった。