休日の変化
土曜日になり真面目は珍しくすぐに起きることなく布団の中でモゾモゾとしていた。 特にこれと言った理由はない。 そう言った日もあるということだ。
それも数分で終わり、身体を伸ばして階段を降りてシャワーを浴びる。 浴室から出て身体を拭いて服を着た後にドライヤーで髪を乾かして、今日は気分転換にと髪を右へサイドテールにしてまとめてからリビングに入る。
「おはよう父さん。」
「おはよう。 台所におかずがあるから、温め直して食べなさい。」
「父さんは?」
「もう食べたよ。」
今日は進の方が休みで、既に朝御飯は食べ終えているようで、朝のバラエティー番組を見ていた。 用意してくれている朝御飯を自分のテーブルに持ってきて真面目は朝食を食べる。
そして片付け終えた後に真面目は部屋に行き、スポーティーな服へと着替える。 一応としてトレーニングウェアを買っておいて正解だったと思う真面目ではあったものの、服だけ見ればかなりピッチリと肌に密着している様で、少し敏感になってしまう。
何故真面目がこのような格好をするのかと言えば、当然運動をしに行くためではあるが、どちらかと言えば体力づくりのためだ。
「父さん。 ちょっと外に出てくるね。」
「うん。 怪我だけは無いようにな。」
「分かった。 行ってきます。」
そうして外に出て歩いていく。 最初は運動をすることが大事だと思い、いきなりジョギングをするのではなく身体を慣らすために歩いていく。
20分程歩いたところで公園を見つける。 そこには運動部の朝練や同じ様にジョギングをしている人がいる大きな公園で、ここでなら誰にも憚れることなく運動が出来ると思い、真面目は一緒に持ってきていた縄跳びの結びを開くと、すぐに縄跳びを跳び始める。 始めはゆっくりと回していき、そして徐々に回転を速めていく。 ペースが乗ってきたところで、今度は後ろ跳びをする。 これも慣れてくれば、次は駆け足跳びだ。 とはいえその場で足踏みをするようにするだけなので、足に意外と来るのだ。
駆け足跳びの前と後ろ跳びを終えて、少し座って休憩を挟む。 そこまで運動のために動いたことのない真面目にとっては15分の縄跳びでもかなりの労力を使うことになる。 少し長めに休憩は取っておいている真面目である。
「・・・ふぅ・・・僕もまだまだかな。 まぁ元からそこまで体力がある訳じゃなかったし仕方ないんだけどさ。」
一人ぎこちないまま休憩も終わり、改めて縄跳びをする。 そして数回跳んだ辺りで異様さを感じた。 あまり気にしてなかったが、通りすぎる人、主に子供やジョギングの若い人からの視線があった。
何故だろうと思いながら縄跳びをしていると
「ねぇあのお姉ちゃん、身体もポヨンポヨンしてる。」
「こ、こら! 失礼でしょ、そんなことを言ったら。 ほらあっちに行くよ。」
「ポヨンポヨン?」
その言葉に引っ掛かりを感じたが、真面目はその意味をすぐ下に目線を落として分かった。
子供が言っていた「ポヨンポヨン」とは、真面目が跳ぶ度に揺れる胸の事であった。 ブラをしてトレーニングウェアを着ているとはいえ、これだけ動くのはさすがにどうかと思う。 そしてそう考えた時に視線の意味が理解できたのだ。
「うぅ・・・縄跳びは家でも出来るか。」
今後は走ってからにしようと真面目は思ったのだった。
そして公園をグルリと2週ほど走ったところで、自販機からエナジードリンクを購入してから帰ることにした。 「プシッ」という音ともに開いたペットボトルから真面目はすぐさま飲み始める。 喉を通る炭酸のシュワシュワ感が、運動した後の身体に染み渡る。
「・・・ぷはぁ・・・! あー、生き返る~。」
帰りながら飲んでいた真面目はそんな感嘆を洩らす。 1時間ほどしか運動という運動はしていないものの、それでもその程度でも達成感が生まれてくるのだ。 今後の事を考えれば最初はそれぐらいで構わないのだろう。
そして真面目は家に帰ってリビングを確認すると、進は電話中だった。 邪魔しても悪いのでリビングをそっと閉めて部屋に行って、部屋着を取ってきてからシャワーを浴びる。
そして改めてリビングに行くと電話は終わっていた。
「仕事の人?」
「ああ。 新しく出た漫画の新刊か無くなりそうだから在庫の追加を頼んできたよ。 店長への報告は義務化されているが、私がいなくても彼等なら頑張れるのだがね。」
「頼ってくれているなら良いんじゃない? 大人だって間違えたら一大事だし。」
「それもそうなのだがね・・・」
心残りがあるといった具合に悩んでいる進だったが、真面目としてはそれじゃあ駄目なのかなと感じてしまうようだ。
そして真面目は改めて部屋に戻り今度は皇から貰った琴についての本を読んでみることにした。
「音を鳴らすだけ琴が成立する訳じゃないのか。 音自体は固定で、前に話していた柱ってもので音程を調整するんだ。 それに弾く力にもちゃんと理由があるんだ。 そもそも音程が分からないからそこから・・・」
そうして本を読んでいると、不意に下から声がかかる。
「真面目。 ご飯できたぞ。」
進から声がかかり時計を見てみると丁度正午を指していた。 帰ってきてからずっと読んでいたため時間の感覚が分からなかったのである。
そうして下に降りると既にお昼ごはんが用意されていた。 男二人(片方は女子)なのでかなり簡易的なご飯になっていた。
「軽いもので済ませたんだが、足りないなら食パン位はあるぞ。」
「大丈夫だよ。 多分足りるから。」
そう言いながら真面目は目の前のホットドッグを齧る。 焼かれたソーセージにケチャップの味が交わり、そこにパンの柔らかさがやってくる。
「さっきまではなにをしていたんだ?」
「部活で借りた本を読んでたんだ。 今後は絶対に必要になるってことでね。」
「そうか。 勉強熱心だな真面目は。」
「やることがないだけだよ。」
そんな会話をして昼御飯を終えると、真面目と進は2人でお昼の番組を見ていた。 ほとんどが再放送ではあるものの、それでも面白いものは面白いのだ。 ついつい入り浸っているうちに日が傾き始めて夕焼け空に変貌していた。
「おっと、夕飯の準備をしないとな。 真面目、前に買ってきてくれたキャベツの残りがまだ残ってただろ。」
「うん。 でもほとんど芯だけだと思ったけど?」
「炒めてしまえば同じさ。 豚肉と人参を出して置いてくれ。」
そう説明をしながら真面目は冷蔵庫から言われた材料を取り出す。 出し終えた後真面目はご飯を炊飯器に入れて炊く準備が出来ればまた時間が空く。 そして真面目はまたなにかないかと彷徨いていると、進から声がかかった。
「それにしても真面目が朝から運動をしに行くとはな。」
「確かに僕もそれには驚いているんだよね。 部活のためとはいえ体力づくりをしようなんてさ。」
「高校に入ってから色々と変わったようだな。」
「嬉しい変化だと思うよ。」
「父さんの台詞を取るんじゃないよ。」
笑いながら談笑していると、玄関が開けられるのが分かった。 壱与が帰ってきたようだ。
「ただいまぁ。 いやあ疲れたよぉ。」
「お帰り母さん。」
「お帰り壱与さん。 ご飯が炊けたらおかずを作るね。」
「ありがとう。 先にお風呂入っちゃうわ。」
そうしてリビングから壱与が出たタイミングで炊飯器から音が鳴る。 そうして2人は動き、料理を作り始める。 進は野菜を切り、真面目は調味料を作る。 そして進は熱したフライパンに野菜を炒めて、火が通ってきた辺りで豚肉も入れて、調味料を入れて一気に炒める。 そして真面目は皿を用意した後に、炊飯器のご飯をよそってテーブルに置く。
そしておかずの皿を置けば夕飯の準備は完了だ。
「さっぱりしたわ。 あら回鍋肉を作ってくれたんだ。」
みんなが席についたところで夕飯を取って、静かな夜を過ごしたのだった。