身体測定
週末を控えた金曜日。 朝から校内はざわつきが起こっていた。
その理由は学校で一斉に行われる「身体測定」があったからだ。
「スゴいざわつきよう。 そんなになにが分かるって言うんだろ?」
「身体が変わってから初めての身体測定。 ざわつかないのは在校生だけ。」
真面目も岬も疑問には思いつつもそればかりは避けられないイベントとして、慌てる様子は無かった。
「どんな測定されるのかって知ってる?」
「普通の身体測定じゃないの?」
「・・・だよねぇ?」
二人は冷静で、何がみんなを、特に新入生を中心にざわついているのかが分からなかった。 なにか特別な測定をするわけでもないだろうと疑問にしか思えなかった。
そしてみんなが着替え終えたところでクラスごとに移動が始まる。 身体測定とはいえ全校生徒が一斉にやるためにはある程度は分断しなければならない。 なので複数の教室に分かれたうえで尚且つ男女も分かれている。 これは性転換が起きる前でも行われていたが、現在はより一層注意を払っているらしい。 具体的に言えば互いが間違えないようにするための工夫があるとか無いとか。
「よし、それじゃあ今から紙を配るからそれにしたがって身体測定の会場を回るように。 後自分の性別も間違えないようにな。」
古寺からの指示でクラス全員が貰った紙の内容を確認して移動する。 真面目及び1-Bの女子が最初に来たのは座高測定。 真面目は名簿順的に最初なので、そのままの流れで座高確認用の椅子に座る。
「はいそれじゃあそのままでね。 ・・・はい終わり。」
身体測定用紙に数字が書かれて次は体重測定だ。
「よく女子はここが一番嫌がるって話だよね。」
漫画でもアニメでも必ずと言って良い程に行われる身体測定で体重の話になると色々と騒ぎ出すのが通例ではある。 通例であるからこそ、絶対に逃れられないなにかがあるのだろうと思った。
前の人達を見てみてもすごく落ち着いていた。 特に騒ぐ様子もなければやいのやいのと押し付け合う様子もない。
「もしかして中身が男子だから・・・?」
男子は一部では全くそう言ったことに興味を示さない。 いや、示さないと言えば語弊があるかもしれないが、女子よりはあまり気にしていない様子だった。
そして真面目の番になり体重計に乗る。 真面目は体重計に書かれている数値を見て、これが女子の平均体重なのかと疑問に思った。 なので体重を量って記録をしている人に聞いてみることにした。
「あのー、僕のこの体重ってどうなんですか?」
「そうねぇ・・・あなたの身長ならちょっと太って感じるかもしれないけど、恐らくは胸の重さも入ってるから、それを差し引けば平均的よ。 ただ食事と運動はバランスよくね。」
つまるところ普通のようだ。 それに対してホッとしつつ、身長測定の場所へと並んでいく。 ここでも真面目は思ったことがあった。
それは大抵の女子が自分の身長よりも低いと言う所だった。 真面目が男子だった時代では大体同じくらい、もしくは真面目よりも高い男子はいた。 だが女子になって同学年の女子を見てみると、見下ろすような形の人が多く見られたのだ。
「デカ女と揶揄されないかだけが心配だ・・・」
そんな下らない自己否定をしながら身長の測定に入る。 今では機械がやってくれるため、台に乗り背筋を伸ばしていれば、レバーが勝手に降りて、頭頂部に当たって戻ってから、結果が写し出される。 それを記載して次に行くこととなる。
「女子の平均身長よりは高めだな。 やっぱり基準が分からない・・・ まあそもそも基準なんてものがあるのが不思議なのかもだけど。」
性別が変わった時になにかが作用して現在のようになっているのは確かなのだろうが、結局原因は分からずじまいなのは変わっていない。 そもそも人間の研究でそんなことが分かるのかと言われれば、恐らく今後もノーという答えしか生まれないだろう。 最先端科学にだって、非科学要素が交われば、それは解決の糸口を切られているようなもの。 分からないものは分からないと割り切るのが普通だろう。
次に真面目がたどり着いたのは視聴覚室。 ここでは視力検査と血圧検査。 あとは血液採取が行われていた。
そして真面目の後ろから次々とクラスメイトがやってくる。 真面目が一番前なので当たり前と言えば当たり前なのだが。
視力検査台について真面目は左右の視力は「A」と判断された。 これから視力が落ちることも無いと真面目の中でも確信している。
次に血圧計に手を入れる。 急に締め付けられる感覚は女子になっても変わりはないようだ。
そして血液採取になる。 そこでまずは腕にアルコールが塗られるのだが、その後に握り拳を作っても、血管が浮かび上がりにくかったのだ。 その後何度か挑戦をしてようやく採取される。 その時に見た血液の色は綺麗な赤ではなかったのを見て、真面目は不安になったのだった。
「次の場所は・・・大ホールか。」
大ホールまでは視聴覚室より歩く。 そこですれ違う生徒の事を少し観察することにした。
校則には髪色に関して禁止をするようなことはしていない。 というのも性別が変わった時点で髪色や長さが一気に変わるので、それで元に戻せと言われても理不尽というものだ。
黒は勿論、白、赤、黄色。 中にはパステルカラーな生徒もいたりした。 そこまでいくと、染めたのか元からなのか既に分からなくなってくる。 背丈や見た目も人それぞれで、ちゃんと個性があるのを認められている証拠でもあるだろう。
そして大ホールについて最初にやるのは心拍数検査だ。 カーテンの奥でやっているんだろうとすぐに分かった。
真面目の番になり、カーテンをめくると女性の人が白衣と聴診器を持って待っていた。
「それじゃあ服を捲って。」
そう言われたので真面目は体操服をめくり、脇辺りまで肌を出す。 ここで真面目は男子の時には感じなかった恥ずかしさが込み上げてきた。 見られているのは同性であるはずなのに、何故か恥ずかしいと思えてきたのだ。
さらに聴診器を当てられて、その鉄の冷たさに身体が反応した。 何度か繰り返された内に終わったのだが、そのままの流れでスリーサイズも測られる事になった。 ブラは外すまではならなかったのが唯一の救いだったのかもしれない。 メジャーをスルスルと回されて手際よく測られた後に
「もう下ろして良いですよ」
と言われたので、慌てて真面目は体操服を下ろした。
今度は聴覚検査のために個室に入り、ヘッドフォンを付けて、聞こえた回数だけスイッチを押す。 それが終われば心電図へと移る。 また体操服をめくる事になり、心電図用の機械を繋がれて、冷たさと恥ずかしさに耐えながら心電図を終えて、ようやく教室に戻って体操服を着替え直した。
誰もいない教室に少しくつろぎながら自分の身体測定の結果を見ていた。
「一ノ瀬。 どんな感じだった?」
真面目の次の名簿の女子(男子)に声をかけられて、どうせ教室内だからと真面目は診断結果を見せた。 情報交換と言わんばかりにその女子も自分のを見せてきた。
「一ノ瀬・・・これ本当か?」
「身体測定で嘘なんてつかないでしょ。」
「でも・・・はぁ・・・」
そう言うと診断書を返し終わって、その男子の目線が下に向いているのがなんとなく分かった。
「あ、一ノ瀬君。 先に帰ってきてたんだ。」
「お帰り浅倉さん。 女子の方が時間がかかると思ってたんだけどね。」
「そうなんだよね。」
そう言ってすぐに席に着いた。 流石に女子の診断結果を聞くわけにはいかないと思ったのだろうか、岬は前を向いて次の授業の準備をするのだった。
「それで結局どうだったの?」
「え? このタイミングで?」
そう聞かれたのは昼休みのお昼ごはんを食べている時だった。
「てっきり気にしていないのかと思ったんだけど。」
「あの場で聞くのも露骨かなって思って。 私の方も見せるから。」
「それのなにが楽しいんだろ・・・」
そう言いつつも真面目は岬と診断書を交換した。 そしてその結果を見て岬は少しだけ驚いていた。 そして納得をした。
「なるほど。 それは目を引くよね。」
「どこを見ていってるのかは分かったけど、なんか嫌だなあ。」
キャラクター達の細かな設定は考えてはいませんが「大体こんなものだろう」程度には浮かんでたりします。




