足りない物を買ってきて
そして五時間目が終わり、担任が教室に入ってきて、すぐにクラス全員に紙が配布される。 そこには「入部届」の文字が書かれていた。
「これが正式に入部届として認められるのは来週からだが、向こうにも申請期間がある。 早く出すことに越したことはないので、既に決まっている者は早急に出してあげるように。 ああそれと、掛け持ちで部活をやる際には担任を通じて入部届を貰うようにすること。」
そうして担任の古寺は教室を去る。 その前に真面目が担任に声をかける。
「先生。 それならば僕にもう一枚入部届を下さい。」
「早速来るのか。 ではもう一枚渡そう。」
「ありがとうございます。」
そう言って真面目は二枚目の入部届を手にするのだった。
本日はこれと言ったガイダンスも無いので本来ならばこのまま部活へと勤しむ事となる。
「入部届を二つも貰うなんて。 前に言ってた二つに入るの?」
「僕の中で決めたことだからね。 優先順位とかも後々考えるよ。 浅倉さんはもう茶道部に?」
「うん。 部員からも是非欲しいって言われた。」
元々茶道をやっている岬を入れたいと言う気持ちは、茶道部からすれば当然の事だろう。 むしろ「絶対に手放してやるものかという意気込みすら感じる。
「僕も二つ選んだけど、やっぱり身体は一つしかないから、今日は水泳部に行くことにするよ。 そろそろ移動しようか。」
「そうだね。 待たせるのも悪いし。」
そうして二人はそれぞれ別の場所へと移動するのだった。
真面目がついた水泳部の部室には駿河、目黒を筆頭とした在校生組と、入り口近くで立っている新入生らしき生徒達が対面していた。
「それでは新入生諸君! 本日から君達も水泳部の一員として、我々と共に全国を目指していこう!」
「「おおー!」」
新入生も在校生もヤル気満々なノリで進んでいく。 その様子に真面目はスゴい熱気だと肩を竦めた。 そんな真面目の様子を見た目黒は安堵した様子を見せていた。 どうやら自分一人ではこの人数は纏めきれないと悟ったのだろう。
「では早速行くぞ! まずはランニングからだ! まだ縄跳びは個数分用意できていないので縄跳び練習は本日は無しだ!」
「あ、あの! 前に見学に来た時に必要だと思ったので、家にあった自前の縄跳びを持ってきますが・・・」
「素晴らしい! 意識の高さを評価しよう! だが今回は事前に言っていなかったので無くても大丈夫だ。 さあ行くぞ!」
「「はい!」」
そうしてすぐに部室を去っていった水泳部員と新入生。 そして残されたのは目黒と真面目のみになった。 その行動力に2人は溜め息をついたのだった。
「全く、入部届もまともに確認しないで行ってしまうのだから。」
「ははは・・・ とりあえず入部届を纏めるの手伝いましょうか?」
「一緒にやってくれるかい? 熱血思考は悪いことではないがもう少し落ち着きがあっても良いと思うんだよ私は。 君も入部するのだろう? 申し訳ないが、マネージャー仕事も一緒にやってくれると助かるのだが。」
「あ、ええっと、そのー・・・実は僕もう一つ文化部の方にも入る予定なんです。 なので流石に毎日は来れないので・・・」
その言葉に目黒は驚くものの、その事に対しては別に怒る様子も焦る様子も無かった。
「そうか。 私は止める気はない。 君が決めたことだ。 とやかく言う必要も無いだろう。 まあヘルパーの1人として考えておくよ。」
「すみません。 部員も増えて大変だと思うのに。」
「本当に名前の通りの人物だね君は。 もう少し気崩した方が、過ごしやすくなると思うよ。」
変なアドバイスを貰いながらも真面目と目黒で入部届を精査して、その後にランニングに混じることにした。 そしてある程度部活が終わった後で帰ろうかと思っていた時にMILEの通知が届く。 差出人は壱与からだった。
『まだ家に帰ってないなら、中力粉とキャベツ半玉を買ってきてくれない? 場所はどこでも良いから。』
どうやら冷蔵庫の不足分を買ってきて欲しいとのお願いだった。 それくらいなら真面目にとってもお安いご用だが、恐らく家にいても同じ様に連絡してきたことだろう。
『分かった。 他に必要なものがあったら、買う前に言ってよね。』
それだけ返して真面目は大通りにあるお店で買い物を済ませようと思った。
そして家に帰る前に近くのスーパーで買い物を始めようとした真面目の携帯に再び通知が来る。
『それならついでにシーフードミックスも買ってきてくれない? 冷凍のもので良いから。』
やっぱり買う前に聞いておいて良かったと真面目は安堵し、「了解」とだけ返してから、真面目はかごを取り、中力粉を取り、キャベツは半玉よりも1玉の方が安かったのでそちらを取って、冷凍コーナーからシーフードミックス(いか、エビ、貝が入ったもの)をかごに入れてレジを通す。 そしてレジ袋の有無を聞かれて断ろうと思ったが、シーフードミックスが溶けてしまうと真面目の持っている鞄が濡れかねないので、3つが入る程度の大きさの袋で妥当して、そのままスーパーを出て帰ろうかと思った時に、ふと100円ショップが目に入った。
「・・・縄跳びって家に無かったよね?」
思い返せばその様な物を持っていない、というよりも中学で使わなかったのと小さくなったため捨ててしまったというのが真面目にはあった。 しかし今後水泳部に入るからには縄跳びは必需品になるだろうと思い、100円ショップにも入り、縄跳びが売っているであろう場所に行く。 するとそこにはちゃんとした縄跳びが売られていた。
「あ、大人用なんてものもあるんだ。」
真面目は普通の女子の身長よりも高い。 なので縄幅が狭いと屈みながらやらなければいけなくなるので、そうなるよりはちゃんとした姿勢でやりたかったのだ。
そして真面目は大人用の縄跳びを手に取ってレジへと行く。 そして縄跳びを買ってから改めて家に帰ることにした。
「ただいま。」
「お帰り真面目。 買ってきてくれた?」
「ちゃんと買ってきたよ。 キャベツは半玉よりも安かったから一玉にしたよ。」
「ありがとう。 レシートも置いていきなさい。 後でお金も返すから。」
そう言われて真面目は財布からレシートを取り出してから部屋に行って、鞄を置いて、部屋着に着替えてリビングに戻る。
「真面目。 あんた本当に無駄無く買ってくるわね。 もう少し使ったって母さんは怒らないわよ?」
「別に欲しいものもなかったし、今は余計なものを買いたくないから。」
「名前通りにし過ぎたかしらね? 相変わらずというかなんというか。」
そんなことを言いながら壱与は夕飯を用意する。 その事に真面目は不思議に思った。
「あれ? 今日使う訳じゃないの?」
「夕飯自体は考えていたのよ。 明日のご飯が無かっただけ。」
そう言うことなのかと真面目は肩を落とした。 そして夕飯を終えて部屋に戻り、珍しく宿題があったためその宿題をやっていると携帯が鳴り始める。 差出人は隆起だった。 その内容は今期のアニメの感想などだった。 こちらは宿題をしながらではあるもののその返事を適度にしつつもしっかりと終えることが出来た。
そして宿題が終わり、後は寝るだけになった真面目はしばらく隆起とMINEでやり取りをしていたが、そろそろ区切りをつけるために「おやすみ」の言葉を打ってから就寝した真面目であった。




