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候補多数

 真面目は最初こそ困惑などが混じって、言葉の意味をすぐには飲み込めなかったが、我に返ってすぐに言葉を紡ごうと頭を動かした。


「せ、生徒会に、ですか? 自分が、ですか?」

「困惑するのも無理はないと思うが、私は君のような人材を求めていたのだよ。 なに、生徒会と言っても最初は庶務からだし、そこまで難しい仕事を振るつもりはない。 それにこれもすぐにとは言わない。 生徒会選挙及び立候補はGWが終わってからの予定だ。 無理強いをするような言い方になったのは謝る。」


 そう言って高柳は手を引っ込めて頭を下げる。 しかも高柳自身に非はないのに、だ。


「あ、頭を上げてください。 僕の方が整理が出来ていないだけなので。」

「そう言って貰えると助かる。 君がもし部活動に入ると言ってもその辺りも寛容に扱うことを約束しよう。」


 そう言う話ではないのだが、真剣な目を見れば、高柳の言っていることが本気なのは、こうして初めて喋った真面目ですら分かった。


「・・・考え、させてください。 すぐには答えは出そうにありません。」

「分かった。 良い返事を期待している。」


 そう言って高柳は言い伝えることは全て伝えたかのように去っていった。 その姿を見送った後に真面目は、詰まっていた息を吐き出すかのように大きく溜め息をついた。 極度の緊張と間違ったことを言わないかとのせめぎあいで一気に肩の力が抜けた。


「な、なんでいきなり生徒会長が僕に話しかけて来たんだろ・・・? 勧誘って言ってたけど、なにか勧誘されるようなことしたかな?」


 とりあえずはお叱りではなかったことを安堵しつつ、まだ時間があるので、そのままの流れで日本舞踊クラブへと足を運ぶことにしたのだった。



「生徒会長について、ですか。」


 琴を弾きながら真面目の質問を聞いた皇は、琴の音を止めること無く質問を返す。 因みに二ノ宮はその音に合わせて躍り続けている。


「彼女、高柳 銘は生徒会長になるに相応しい人物と、同級生からは言われていました。」

「それほどのカリスマ性があった、と言うことでしょうか?」

「それもありますが、彼女の人を導く言動と行動力、そしてその美貌。 今は男性になっているので美貌という表現はおかしくはなりますが、その全てが備わっていると言っても過言ではないのが高柳 銘という人物なのです。」

「まさになるべくしてなる人物って事ですね。」

「それは我々日本舞踊クラブも例外に漏れてはおりんせん。 そのクラブの存続の一つの要因としては、彼女の説得もあったのだ。 現在我々は2人しかいない。 だが伝統を遺すことは大事だということを、現在の校長先生に直接話をしに行ったのであります。 最初は「部」として残っていたのですが、今は「クラブ」とすることで、少人数でも活動出来るようにしてくれたんです。」


 二ノ宮も高柳の武勇伝を話す。 喋り方が独特なのは、そのキャラになりきっているからである。


「しかし何故彼女の話が?」

「あーっと実は・・・」


 そこで真面目は先程の経緯を二ノ宮と皇に話した。


「ほほぅ。 高柳生徒会長本人からの推薦。」

「そうなんですけど、正直いまいちピンと来ていないし、一応部活に入ろうとはしているので、悩んでいるんです。 勿論生徒会に入れば進学や就活へのアドバンテージにはなります。 ですがそんな目先の欲だけで入るのは流石に生徒会長に失礼になると思って、すぐには返事を返さなかったのです。」

「その判断は正しいでしょう。 生徒会長といえど答えを急かす人ではない。 そして学校の事を考えていると同時に生徒一人一人の意見も尊重している。 ただ上に立つだけの人ではないからね。」


 自分の判断が間違っていなかったことを教えて貰い、安心はしたものの、いざどうするかだけは考えなければならない。 問題はまだ解決していないのだから。


「すみません。 今日はこの辺りでお暇させていただきます。」

「うん。 今日も来てくれてありがとうね。」

「色々と考えたいんやね。 ゆっくり考えて、自分が思う道を選んだ方がいいわ。 それじゃあね。」


 そうして教室を後にしてそのまま昇降口へと歩き、帰るために傘を取る。 雨は昼間程は振っておらず、帰るのには随分と楽に感じた。


「どう取るかなぁ・・・」


 帰り道すがら、真面目には今日までで様々な選択肢に直面した。


 一つは運動部として水泳部へと入部すること。 体力作りには真面目はハードな運動は得意ではないので、水泳部位が合っていると思っている。 それに夏だけの活動ではないため、季節外れでも泳げるのは何気にありがたい。 ただ思うところがあるとするならば、自分の四肢についてだろう。 自分でも分かる程にスタイルが良いので、それが公に晒されるとなると、不安も少なからずあったりする。


 一つは日本舞踊クラブへの入部。 日本芸能を遺すと言う心意気を買うならば、その一員になれることは一つの誇りとも言えるだろう。 しかし部活動としての活動をするために奮闘することが先になるだろう。


 一つは生徒会へと入ること。 生徒会長直々に推薦してくれたこと、そして進学、就活に有利に働くことは間違いない。 生徒会として学校を見て回るのも悪くはないとも思っている。 だからこそ責任感は強まるし、簡単に頷くことが出来なかった。 


 生徒会の選挙はGWの後と言われたので、そちらには猶予がある。 だが、部活に関しては早急に決めなければならないだろう。


「ただいま」


 そうして帰ってきて部屋に鞄を置いた後にシャワーへと入る。 考えをまとめるために身体をすっきりさせようと思った。


 そして部屋着に着替えてリビングに入ると既に進が夕飯の下ごしらえをしていた。


「あ、おかえりなさい父さん。」

「ただいま真面目。 少しだけ手伝ってくれるか?」

「うん。 なにをすれば良い?」

「レタスを数枚千切ってくれないか?」

「分かった。 他に入れるものある?」

「いや、鶏肉の酒蒸しを乗せるからそのままで良いぞ。」

「分かった。」


 そう言って冷蔵庫からレタスを取り出して皿に乗せる。 そこに食べやすく切った酒蒸しが乗り、それに胡麻ドレッシングがかけられて夕飯は作られる。


「ねぇ父さん。 話を聞いて貰っても良い?」

「どうした? 真面目。」


 まだ壱与が帰ってきていないので夕飯には手を付けずにテレビを見ている進と真面目は、会話を始めた。


「もし自分がこの身体で部活に入るとするなら運動部? それとも文化部?」

「どうしてそんな質問をするんだ?」

「入りたい部活はあるんだけれど、どっちにしようか迷っててさ。」

「それは真面目が自分で決めるのが一番さ。 他人に左右されるのは、今の時代では遅れを取るぞ。」

「そんな話をしている訳じゃないんだけど・・・」


 聞きたかった答えではなかったが、確かに自分で決めると言うことは考えとして間違っていない。 それだけは分かった。


 部屋に戻り再度自分がどうするかを考えてみる。 自分が部活に一心に取り組むかそれとも最初の数ヶ月入り、バイトを入れる人もいるだろう。 そして生徒会にも入ることで得はあるというのを考えるとどんどんどつぽにはまっているような気がしてきている真面目は気が付けば朝を迎えていた。 どうやら考えている内に寝落ちをしてしまったようだ。 宿題が無かったのは救いだとも言えるだろう。


 そして同じ様に登校をしている中で、いつもの場所で岬と合流した。


「おはよう一ノ瀬君。 ・・・なんだか気分が優れないみたいだけど?」

「あ、うん。 部活をどうしようかって考えていたらいつの間にか朝になっててね。 でもちゃんと決めれるようにしたよ。」


 今日の午後は部活動の仮入部の申請をする。 そこで来週から部活動を開始する。 そこから本格的に始まるのだ。


「どうするか決めたの?」

「放課後に楽しみにしててよ。」


 そんな真面目の表情は、一つの覚悟を決めている様子だった。

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