知りたいことは
真面目は自分の部屋に案内すると、一度岬達を前に止めて、自分の部屋を改めて確認をする。 そして部屋を確認し終えてから扉を開ける。
「どうぞ。 特に面白くはない部屋だけど。」
部屋に入れると、確かにそこには本棚にベッド、クローゼットと何処にでもあるような部屋でしかなかった。
「なんかもっとこう、ゴテゴテした部屋だと思ってたんだけどな。」
「だから言ったじゃん。 面白くはないって。」
「わ、私は、綺麗にしているんだなって、思いますよ。」
「一ノ瀬君の性格が現れていますね。」
「褒め言葉として受け止めておくよ。」
そしてみんなが座ったのを確認してから真面目は岬に聞きたいことを聞いてみた。
「それで結局何を相談しに来たのさ? 出掛ける訳じゃなくて僕の家にわざわざ来るなんて。」
真面目は岬に聞いてみる。 理由が分からずじまいでは来た理由も岬の友人を呼んだ理由も疑問に残ってしまうのだ。
「前に一ノ瀬君と話したでしょ? 男子の身体的特徴や思考を教える代わりに、女子の身体的特徴や思考を教えるって。」
「そうだね。」
「その話をしたら一緒に聞きたくなったっていうこと。 外で話すよりは聞かれない場所のほうがいいと思って。」
岬の理由を話した時に、真面目もそれはそうかもと思った。 大衆の視線や耳があるなかでそんな話をおいそれとするものではないと思うし、話しにくいことなどいくらでもあるだろう。 だからこの場を用意して貰ったと言えるのだろう。
ようやく理由を理解して真面目は肩を竦めたのだった。
「そういうことならちゃんと言ってくれれば良かったのに。」
「本当に、すみません。 一ノ瀬君に、迷惑になるような、事を頼んでしまって。」
「ああ、ごめん。 別に怒ってる訳じゃないんだよ。 ちゃんとした理由が知りたかっただけだから」
今の言葉に語弊があったことを反省して、謝った叶に謝り返すのだった。
「ところで・・・」
そして真面目はベッドの下でモゾモゾとしている得流の姿が見えた。
「近野は一体何をしているの?」
「んー? いやぁ、男子の部屋にはありそうだなぁって思ってさ。」
「ありそうってなにが?」
「エロ本。」
直球な回答に得流以外全員がずっこけるような仕草をした。
「いやぁ、男子はよくベッドの下に隠すって言うからさ。 本当にあるのかなって。」
「え、得流ちゃん。 流石に失礼だよ。 そんなことをするのは。」
「叶さんの言う通りです。 真面目君がそのような物を持っているとは思えません。」
「ちぇー。 なら仕方ないや。 あそこの漫画読んでもいい?」
「別にいいけど、ちゃんと読んだら戻してね?」
得流はやることに飽きたのかすぐに棚にある漫画に目を付けて漫画を読み始めた。
「あービックリした。 そんなことをするなんて思わなかったからさ。」
「一ノ瀬君。 本当にそのような本は・・・」
「ないない。 興味がないと言えば嘘にはなるけど、そんなのに手を出すまでじゃないよ。」
そんな様子に岬と叶はホッとしたのだった。 その意味に真面目は首を傾げた。 そんな時に得流が漫画を広げて真面目に見せてきた。
「うん? どうしたの?」
「男子ってやっぱりこういうのを見て興奮したりするんでしょ?」
得流が読んでいたのは異世界バトル物。 その中でも剣と剣が交じりあう珍しいシーンだ。 どのシーンがと得流が指差したのはその漫画では珍しい女戦士のパンチラシーン。 強気な剣士の可愛い部分見えている。
「まあ人によるかもしれないけど・・・どうしてそんなことを?」
「いやぁ、男子と女子だとこういったものの感覚は違うって岬から聞いたからさ。 実際どうなんだろうなって思って。」
にへへと笑っている得流である。 しかしどうだと答えられるようなものでもない。 だからこそ真面目は「人による」と言ったのだ。 真面目だって元は1人の思春期の男子。 嫌いではないものの、簡単には「そうだ」とも言えない。
「話をするには丁度いい。 今回このような場を用意したのはこういった話をしたかったから。」
「え? まさか人の趣味嗜好に干渉しようって話?」
「そうは言ってない。 でも少しは変わるかもしれない。」
言っている意味はよく分からない。 だけど知りたい事ならば教えるだけ教えようと思っただけだ。
「それで何が知りたいの?」
「あの、男子って、どう言った時に、ドキドキするのかなって。」
叶の言葉に「ふむ」と顎に手を当てる真面目。 ならばとまずは手を差し伸べる。
「まずは握手してみて。」
そう言われて叶は握手をする。 叶は首を傾げた。
「それなら逆の手で握ってみて。」
そう言って今度は逆の手で握る叶。 握った後に真面目は今度は手同士を絡めて、いわゆる「恋人繋ぎ」をしてみる。
「どうかな?」
「な、なんだろう。 凄く、心臓の鼓動が速くなってる。」
「じゃあ・・・」
そうして真面目は叶を抱き寄せる。
「ひゃっ!?」
驚いた叶だったが、その後すぐにどこか安らいだような表情になっていた。
「あ・・・」
「どうかな?」
「・・・うん。 なんだか、温かい気持ちになってる。」
分かってくれたようだと思いながら叶を離した真面目。 そしてそのまま座ったところで岬を見ると、何故か少しだけ不機嫌そうにしているのを見て、何故そわな表情をするのか理解が出来なかった。
そんな時に扉からノックの音が聞こえた。
「盛り上がってるかしら? 手が塞がってるから開けてくれない?」
壱与がそう言うと真面目は部屋の扉を開ける。 そして部屋に入ってくる壱与。 その手にはお盆に飲み物やお菓子が乗っていた。
「真面目。 机を出してくれるかしら?」
「分かった。」
自分の机の後ろから小さな机を出して展開をした。
「何故折り畳み式の机があるの?」
「勉強机の上だと乗りきらないからね。 勉強中とかは別の机に置いて貰ってるんだよ。」
そして壱与は持ってきたお盆を上に乗せる。
「飲み物を牛乳にしたけど、駄目だったら言ってね。 別の飲み物を持ってくるから。」
「大丈夫です。 昔から飲んではいますので。」
「それなら良かった。」
「母さん。 もしかしてこのレーズンサンド、さっき作った?」
「そうよ。 人が増えたからね。 作るの自体はそんなに難しくもなかったから、すぐに出来たわよ。」
「凄い! 一ノ瀬のお母さんが作ったんですか!?」
「そういえばお母さんが買っていた洋菓子も喜んでくれましたよ。」
「それは良かったわ。 じゃあおばさんは下にいるから、若い人達でごゆっくり。」
そう言って部屋から去っていった。 そしてすぐにレーズンサンドを食べた得流が反応した。
「すごっ! 本当に美味しい! 一ノ瀬はこんなのをいつも食べてるの!?」
「いつもじゃないよ? でも試作品とかは食べたりはするかな?」
「いいなぁそういうの。」
そんな感じで話していると、あっという間に時間が過ぎ去っていって、気がつけばお昼を過ぎていた。 それが分かったのは得流からお腹がなったからだった。
「あっはっは。 男子になってからお腹が空きやすくてさ。」
「得流は元々運動神経が抜群でしたから、中学の時は部活でも助っ人として引っ張りだこでした。 その分勉強はからっきしみたいでしたが。」
「それは言わないでよ岬。 恥ずかしいじゃん。」
その素振りからは羞恥心は全く感じてはいなかった。 本人としては多分気にしていないのだろう。
「うーんここからだと歩くことにはなるけれど、ショッピングモールまで行って食事でもしにいく? この辺りだとファミレスは遠いんだよね。」
「それもいいかもね。 早速行こう。」
そう言ってみんなで部屋を出て家を出ていこうとした時に、壱与がリビングから顔を出した。
「あら? どこか出掛けるの?」
「お昼ごはんを食べに行こうと思ってさ。」
「そういうことなら食べていきなさいな。 スパゲッティ位なら余分に茹でたからすぐに用意できるわよ。」
「そう? それなら食べていったほうが良いかもね。 みんなそれでもいい?」
「勿論! ご馳走になります!」
「すみません、お菓子だけでなくお昼までいただいてしまって。」
そう言ってリビングへと入り、みんなでお昼をいただいた後に改めて出ることにしたのだが、真面目は壱与からメモ用紙と一万円札を貰う。
「ショッピングモールに行くなら買い物頼まれて欲しいんだけど。」
「分かった。 それくらいなら。」
「よろしくね。 そのメモ用紙にかかれている商品以外にもお金があまりそうだったら好きなの買って良いからね。」
そう言われた後に真面目は家を出て、ショッピングモールへと歩いていくのだった。