部活見学3
翌日の放課後。 昨日とは違い別の部活へと足を運ぶ事にした真面目。
「あと僕が気になっていたのは・・・」
そう言いながら足を止めたのは校舎の別館一階の一室。 あまりにも静かすぎるその場所に真面目が気になっているもう1つの部活があった。
「日本舞踊クラブ・・・なにをする部活なんだろう?」
真面目はそんなことを考えつつも扉を開けようとする。 だがその前に日本舞踊独特の音楽が真面目のいる廊下に響いてくる。
「・・・綺麗な音色だ・・・」
その流れてくる音楽に魅了されながらも真面目は扉を開ける。 そこにはジャージ姿でありながらも、笠を被り扇子を持ちながら、妖艶に踊る男子生徒の姿があった。 そしてその片隅では琴を鳴らしている女子生徒もいる。 どうやら音楽はその琴から鳴らしているようだった。
その姿に真面目はまた魅了されて、声をかけることなく、入り口近くに座り、そこで躍り終わるまで眺めていた。
そして躍りが終わると真面目は拍手を送っていた。
「おや、これはこれは。 お客様が来ているとは。 申し訳無いことをしたかな?」
「あの、こう言ってはなんですけど、僕が来るのが分かったタイミングで始めませんでした?」
「この廊下はほとんど使われませんからね。 足音は響くのですよ。」
クスクスと笑っている辺りは確信犯だろう。 だが実際に興味を惹かれたのは事実だ。 それも兼ねていたのかもしれない。
「では改めまして、ようこそ「日本舞踊クラブ」へ。 僕が副部長の二ノ宮 拓磨といいます。 そして彼女が部長の」
「皇 美晴留です。 本日はご見学頂きありがとうございますわ。」
自己紹介をされて真面目は頭を下げる。
「一ノ瀬 真面目といいます。 お二人の舞踏、本当に素晴らしいですね。 部長の皇先輩が琴を鳴らしているのですね。」
「私も練習以上に琴に触れていたものですから、日本舞踊との相性もよいのです。」
「だが彼女の真髄はそこではありませんよ? 彼女の立ち振舞いを見ていただけたでしょうか? 彼女が奏でる琴の音色も素晴らしいのですが、その奏でる姿はまさに様式美。 彼女なくしてこの部活は無いとも言える程なのですよ。」
二ノ宮の熱弁を聞いて、真面目は納得をする。 彼女なくしてこのクラブが無いのは確かなのかもしれない。
「自慢話ばかりでは面白くはないですね。 このクラブが創られた理由を説明しましょう。 とはいえそこまで深い意味ではないのですが。」
二ノ宮が話した後に話を皇に紡いだ。
「この学校の近くに「日本舞踊保存会」と言うものが発足しておりまして、日本舞踊を若い世代に引き継いでいこうと結束された人達の集いです。 そしてその礎として我が「日本舞踊クラブ」が出来たのです。」
「そうなのですか。 それは良い事ですね。」
「しかしそれも近年はかなり衰えているようで、我がクラブも年々部員が減少しているのです。 今では我々2人しかいない現状でもあったりするのです。」
「え!?」
「そう驚くことでもありませんよ。 元々部活動としての条件を満たしていませんが、その保存会の方のご厚意で残っているようなものですので。」
衝撃の事実に真面目は驚くしか出来なかったが、それを二ノ宮も皇もどうとも思っていないようだ。
「無くなってしまうのは寂しいことかもしれない。 だけどそれも時の流れだと言われればそれまでだと思いますね。 だからこそその最後の日まで全力で我々は繋ぎ止めるだけですので。」
その話している二ノ宮の声色は少しだけ、本当に少しだけ震えているように見えた。
「まぁ来て貰ったからには日本舞踊の楽しさを伝えなければいけませんね。 ではそもそもなぜ僕が女形をしているのか、と言うところですね。」
「いや、今のこのご時世に男性が女形をやるのは珍しくはないのでは? それに男子とは言え、今は見た目は女子ですし。」
「確かにその通りではそうなのかもしれませんね。 しかしそれだけで判断をされないよう見た目も含めて言動にも注意を払っていたりもする。 例えば我々も舞踊を見せる機会がある時は喋り方は女性のように振る舞っているのです。」
そしてその後は日本舞踊の歴史について語ってくれたり、皇から琴を習ったりと、保存会のように真面目に至極丁寧に教えてくれた。 だからこそ真面目は今のこの状態を何とか残したいと心から願い始めた。 しかし今の自分ではそれは叶わないのは分かっていることでもあった。
「本日はありがとうございました。」
「こちらこそ楽しんで貰えたのならなによりであります。」
「もし差し支えなければ来週も来てくださると嬉しく御座いますよ。」
そう言われてから真面目は部屋を後にする。 その後に出た教室を振り返りながら見て、そんなに簡単なことではないなと思いながら、昇降口へと歩いていくのだった。
「ん。 一ノ瀬君。」
昇降口へと向かう途中で岬に会う。 声をかけられたので真面目はそちらの方向へと顔を向けた。
「あ、浅倉さん。 そっちも部活見学は終わり?」
「うん。 私もこれから帰るところ。 一ノ瀬君も帰り?」
「そうだよ。 折角だから一緒に帰る?」
「私も一ノ瀬君が行っていた部活について知りたい。 それに聞いておきたいこともあるから。」
「聞いておきたいこと?」
「歩きながら話そ。」
そう言って2人は歩き始める。 話の焦点となったのはやはりそれぞれが行った部活についてだろう。
「昨日も今日も茶道部にいったの?」
「そう。 他の部活に興味がない訳じゃないけど、やっぱり行きたい部活は決まってるから。」
「そっか。 それなら良かった。」
「一ノ瀬君は?」
「気になってる所はどっちも行ってみたんだけど・・・」
真面目は今日の日本舞踊クラブの現状の事を思いだし、話すことを躊躇った。
「一ノ瀬君?」
そこではっと我に返る。 今はそんなことを考えている場合では無いことを思い出したのと、折角の話をしてくれているのに会話をしないで悩むのは違うと思ったからだ。
「ごめんごめん。 大丈夫。」
「そう? ならいいんだけど。」
目の前の会話相手にはさすがに余計な心配をさせるわけにはいかない。 そしてそんなことを話していると多分また考えてしまうので、話題を変えることにした。
「そうだ。 僕に聞きたいことがあるって言ってたけど、それはなんなのかな?」
「うーんと、一ノ瀬君。 明日の土曜日って予定はある?」
「土曜日? 特にこれといっては無いよ?」
「なら一ノ瀬君の家に行くことって大丈夫かな?」
「え?」
真面目はいきなりそのような事を言われたのですっとんきょうな声を上げてしまった。 それもそうだ。 真面目は今の今まで友人すら家に招待していないのである。 それが初めての招待が異性になるとは誰が思うだろうか。
「ええっと、聞いてみないと分からないから、夜になってもいい?」
「構わないよ。 壱与さんにも説明しないといけないだろうから、そこはしっかりと確認をしてからでいい。」
そこに関しての理解は分かってくれるようで、真面目は内心ホッとした。 そしてそうなった後で別の疑問が真面目の中に浮かんだ。
「んー。 でもなんで家に来る必要があるの? 前みたいにアーケード街に行ったりするのじゃ駄目なの?」
わざわざ真面目の家を指定したのに理由があるのだろうと思うが、それにしたって分からなかったので聞いてみた。 すると岬は
「うーん。 それは・・・当日になるまでの内緒ってことで。」
とてつもなく気になることを言ってはきたものの、多分答えてはくれないだろうなと思いながら真面目と岬は分かれ、それぞれの帰路にたったのだった。




