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部活見学2

「・・・済まない。 新入生を前にして取り乱してしまった。」

「いえいえ、僕のことは気にしないでください。 今回の事を明日以降に持ち越さなければ良いだけの話だと思うので。」

「・・・本当に申し訳ない。」


 そう言って頭を下げる副部長。 そして同時に隣にいる部長の女子生徒も、後ろの部員も頭を下げた。 真面目が悪いわけではないのに、少し居心地が悪く感じた。


「そ、それで水泳部の方々は普段はなにをされてるんですか? まだ泳ぐ季節ではないですし、プールの方はまだ汚れてて使えないですよね?」


 真面目が思ったのは水泳部の部活動についての事だ。 この部室に入る前に見たプールの光景は苔むした緑色をしていた。 掃除をするのはもう少し先になることだろう。


「確かに本格的に泳ぐのは夏前からになる。 だからと言ってなにもしていないわけではない。 水泳にだって基礎体力は必要だ。 陸上部と一緒にランニングをしていたりするぞ。 っとと、紹介が遅れたな。 自分がこの水泳部の部長の駿河 秀晶 (するが ひでき)だ。 よろしく。」

「よ、よろしくお願い致します。」


 ようやく聞けた名前に少したじろきながらも、真面目は駿河と握手をする。


「こんな部員が多いが、水泳部としてはかなり真剣に取り組んでいる。 そのお陰で全国出場まで果たせる実力を持っている。 私は副部長の目黒 夏海(めぐろ なつみ)。 今日は来てくれて感謝するよ。」

「あ、僕は一ノ瀬 真面目と言います。」

「真面目君とは珍しい名前だな。 そんな名前は初めてかもしれないな。」

「他人の名前にケチはつけるなよ部長。 私は名前通りの振る舞いをしていると思っているよ。」


 水泳部の部長と副部長は感心をしていた。 他の部員も珍しい名前にどう呼ぶかを悩んでいるようだ。


「それにしても真面目君は、随分とたくましい物を持っているね。」


 駿河の目にしたのは真面目の胸だった。 確かに水着を着る上では重要なステータスにはなるだろう。


「露骨に見てやるな。 相手の性別が見た目通りならセクハラで訴えられる。 それにあれがあってもちゃんと泳げるさ。」


 真面目としても泳げないのに来たりはしない。 だがやはり選手として泳ぐのを目指すのならば身体作りは必須科目だろう。


「ではここで問題だ真面目君。 水泳において一番大切なことはなんだと思う?」

「え? ええっと・・・」


 急な問題を投げ掛けられながらも、考えた後で答えを言ってみる。


「水の中でも速く泳げなければならないのなら、手足の筋肉を増やすことかなと。」

「確かに速さを競う上では大事になろう。 だがしっかりとした筋力を付けなければ逆に沈んでいってしまうのだ。」

「なので我々が必要なのは肺活量、スタミナが重要になってくる。」

「スタミナ、ですか。」


 そこで真面目は考える。 長距離ランナーなどは最後の最後まで走ることを維持するのにスタミナを鍛えて、息切れを起こしにくいように訓練されている。 それは水泳に置いても同じ、いや、それ以上に必要になることで、水中では呼吸が出来ない生物であるために、肺を鍛えなければいけないというのは納得の行く話だ。


「そして我々は夏の、いや、初夏の全国大会予選に向けての訓練を行っている、と言うわけだ!」

「お、おぉー・・・」


 駿河の熱意に圧倒される真面目を、目黒がやんわりと包み込む。


「そうは言っても夏が終われば部活も終わりではない。 プールが使えるのは基本的には夏だが、近くの温水プールに許可を貰えば泳ぐことは出来るし、大会に向けてとは言えそこまでバリバリに練習をするわけではないから、まぁもし入ることになってもゆったりしていってくれ。」


 熱血思考ではあるものの、目標は高く作り上げている部長と、周りの状況を冷静に見ている副部長。 この2人がバランス良く支えているから、この部活はなりなっているのだと真面目は思った。


「さて、折角来てくれたんだ。 我々がどんな練習をしているか、是非とも見ていってくれるかな。」

「え? あ、そうですね。 折角の見学ですから。」


 そう言われたのでここまで来て見ないと言うのも味気が悪い。 見学なだけで体験入部ではないので、そのまま見届けさせてくれるのだろう。


「よし! それじゃあ外に出て今日はこれをするぞ!」

 そう言って駿河が手に取ったのは縄跳びだった。 良く見ると1人1つ手に取っていた。

「さ、行くぞ!」


 そして駿河を含めた部員達は部室を出ていった。 真面目と目黒を残して。


「あれ? 目黒さんは行かないのですか?」

「いや、私も後から合流するよ。 でもこの部室を掃除してからかな。」


 そう言って後ろを振り返ると、確かに見るに堪えない程ではないにしても、人が出入りするのには見映えが悪い。


「こっちは私がやっておくから、君も見に行っておいでよ。 そのための見学だろ?」


 真面目は申し訳ない気持ちになりながらも、部室に関しては部員の仕事だと思うので、そのまま外に出ていった部員達の後を追った。


「よし! それではまずは足踏み50回! 用意、始め!」


 グラウンドの一画で足踏みを繰り返す水泳部員。 やっていることは地味でも、こういったコツコツとした鍛練が身体を造るには普通なのだ。

 部員全員が足踏みが終わると、次は腕立て伏せをしている。 筋トレの基礎中の基礎である。 それも終われば縄跳びを全員持つ。


「まずは普通飛び100回! 始め!」


 部員全員が縄跳びを始める。 そこでふと真面目は思った。 確かに漫画とかでも水泳部員が縄跳びをしている光景があったりするが、実際にどういった具合に力が付くのかまではハッキリとは分からない。


「みんな出来たか!? それでは縄跳びをしながら校舎一周だ! 掛け声を忘れるなよ!」


 そう言って移動してしまいそうになっていたので、真面目も一緒に走ることにした。

「1、2、1、2! 州点ー!」

「「水泳部!」」


 そんな掛け声と共に校舎の周りを走り飛びする。 校舎自体は結構小さいが、その周囲を回るとなると、そこそこの距離になる。 確かにこれならスタミナを鍛えつつ、他の部分も同時に鍛えることが出来るだろう。


「よし! 全員いるな! 次は・・・」

「一度休憩を挟む事だよ部長。」


 そう言って現れたのは掃除をしていた筈の目黒だった。 その手にはクーラーボックスがあった。


「おう、そうだったな。 休憩が終わったら同じことを繰り返して今日は解散だ!」


 駿河が喋っている間に目黒が一人一人に行き渡るように飲み物を渡していた。 そしてそれは真面目にも渡されたのだ。


「君も一本どうぞ。」

「いいんですか? 見学しに来ただけなのに。」

「私が来る前に走っちゃったからね。 別に買収しようって訳じゃないし、貰っておきなよ。」


 そう言われては弱い真面目は先輩の好意だと思って飲み物を手に取った。


「どうだい? 他の部活と同じくらい暑苦しいだろ?」


 冗談めいたような喋りで目黒は真面目に問いかけるが、真面目は存外そんなことは思っていない。


「暑苦しいかはともかく、熱意があるのはいいことではないですか? ほら、そうでないと勝てるものも勝てないですし。」

「それは確かにそうだな。 心配せずとも新入生に最初からあそこまでやれとは言わないさ。 落ち着きがない分、私が見張ってないといけないがな。」


 目黒は肩を竦めてはいるものの、部活に対しては真意に受け止めているようで、今の現状を無下にはしていないようだ。


「休憩は済んだか!? さぁ、ラストスパートをかけるぞ!」


 そう言って再びトレーニングを始めた。 その時に真面目に目黒が寄ってくる。


「今日のところは帰ってもいいよ。 見学はここまでだ。」

「あ、そ、そうなんですか?あのままいったらなんだか続けそうだしね。 また来てくれると嬉しいな。」


 そう言って目黒も同じ様にトレーニングを始めた。 変に残るのも迷惑だろうなと思い、そのまま帰ることにした。


 帰り道に真面目は考える。 このまま部活を水泳部に決めてよいものかと。


「まだ色々と見ておく必要があるよね。」


 明日は別の部活に行ってみようと考える真面目であった。

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