個人的疑問を晴らすため
「さて先行入学初日だったけれど、みんなどうだったかな?」
中学生達の先行入学初日が終わり、その帰り際になり金田が中学生達に質問を投げる。 それに真面目も歌川も耳を傾ける。
「そう、ですね。 客観的視点なら、今の僕達とそう変わらないように見えました。 こう言ってはあれかもしれませんが、性別が入れ替わってると思えなかったです。」
「うんうん。 なかなかにいい着眼点だ。 まあ元々成績優秀者が集まっているのだから、当然と言えば当然なんだけどね。」
金田もそこは想定範囲内のようで、深い頷きを見せていた。
「勉強の方も今はまだついていけているので、そこも問題はありません。」
「そうだね。 では明日からは君達が見ていた先輩達と直接触れ合う機会を設けようと思っているんだ。」
金田の提案に真面目も歌川も金田の方を見る。 それは真面目達にとっても聞いていない事項だったからだ。
「そうですか。 こちらとしてもあまり長くない期間ですので、そのような機会を作っていただけるのはありがたいことです。」
「それでは本日はここまでとさせていただきますので、お気を付けてお帰り下さい。」
「それではまた明日お伺いいたします。」
そうして去っていく中学生達とその引率者。 その後ろ姿が見えなくなった辺りで真面目は金田に聞いてみる事にした。
「先程の話どう言うことですか? 確かに先輩にあたりますので触れ合わせることに疑問を持つわけではないですが、流石に早いのでは無いですか? 彼等はまだ性転換を迎えていないのに。」
「それは今の感情を覚えてもらうため、かな。」
金田の言い回しに真面目も首を捻る。
「時に一ノ瀬君。 今の君から見て校内にいる女子の事をどう感じているかな?」
「どう、と言われましても・・・元々男子なのでそこまで気にはならないというか、特に気には止めてないですね。」
「なるほど。 では男子の方は?」
「男子は・・・」
そう言って浮かび上がってくるのは岬の顔。 まさかとは思いつつも思いを綴る。
「異性ではありますが、特別な感情がない・・・とは言い切れませんね。」
「もしかして好きな人でもいるのぉ?」
「そう言うのじゃないと思うんです。 思うんですけど・・・気にはなっている、みたいな。」
「正しくそれを体験してもらうんだよ。」
その質問に対しての答えとしてはかなり不鮮明な事を金田は言った。
「彼等も思春期真っ只中だからね。 少なからず興味はある筈だよ? そしてそれは外見的判断だけでそう思うことが出来るのか、ということさ。」
「中学生達に対して難題すぎません?」
「その辺りはあの子達次第でしょう。」
金田の考えに真面目はそこまでする必要があるのかと何度目かの首を捻り、その日は下校となった。
翌日。 授業の合間の休み時間、中学生達は授業で使っている教室を出て、高校生達が闊歩する廊下へと赴いていた。 勿論校内案内も含めているので、中学生達も中学校との規模の違いに驚嘆していたりもした。 しかしその中でも目に入るのは、はやり高校生達との邂逅だろう。 高校生である彼等も中学生であることを知っている上で話しかけてくる。
「あれじゃあ校内も迂闊に歩けない気がするんだけど。」
そんな様子を教室の中で様子を見ていた真面目は、そんな同級生達を見て溜め息をつく。 折角高校の中を他の新入生よりも歩ける機会だと言うのにそれを妨害しているかのように足止めを食らっている。 とはいえ今回は彼等も授業だけではないため、休み時間以外でも見学が出来るようになっている。 そのため授業が始まる前のチャイムが鳴れば、名残惜しそうに教室に戻っていくのだ。
「まあ中学生でも授業風景はあんまり面白くないかもね。」
真面目がポツリと呟いたが誰も聞いてやしないのでとそのまま授業を受けるのだった。
そうして何日か経ち、真面目達も終業式を迎えての先行入学の最終日。 生徒会メンバーは皆が帰るのを見送った後に、中学生達を帰す役割を担っていた。
「さて、どうだったかな? この1週間の高校生活は?」
金田はこれから新入生になるであろう彼等に最後の質問を投げる。 真面目も歌川もそれ以上の事は何も聞かない。 止めることもしない。 彼等の感想をただただ聞くだけだ。
「僕は、やっぱり性別が入れ替わってる事に違和感を持ちました。」
最初に口にした男子中学生に耳を傾ける真面目達。
「具体的に言えるかい?」
「なんと言えばいいのか分からないのですが・・・ 質問をしてくる内容と見た目が違うせいもあるのですが、普通の質問をされているはずなのに、答えるのに戸惑ってしまいました。 特に男子の先輩・・・と言っていいのでしょうか? 一部の方は目のやり場に困ったと言うか・・・」
「それは一ノ瀬君を見ても同じことかな?」
「ええっと・・・そう・・・ですね・・・はい。」
真面目の方を見て目が泳いだかと思えばすぐに目線を反らした。 真面目もなんとなく理由は分かるので咎めたりはしない。
「高校生ともなればそう言った機会もイベントも多くはなってくる。 だがそれが今の君達の容姿でない。 そしてその気持ちは少しずつ変化していくことになるだろう。」
「つまり今の一ノ瀬先輩を見ても何も思わなくなる、ということでしょうか?」
「それについては語弊の無いように言うけれど。」
中学生達が意見を述べたところで真面目が会話に参加する。
「確かに僕は元々は男子で、こんな容姿になったけど、何も思わなくなる事はないよ。 実際に自分でもたまに自分を見て思う部分も出てくるし。 特に変わり立ての時は結構大変だったからね。」
「大変だった、というのは?」
「身体的特徴が逆転する中で気持ちは変わってないから、受け入れるのに時間がかかるのと、まあ後はそうだね・・・思春期としてはね、気になるでしょ?」
その真面目の言葉に男子も女子も目線はそれぞれの場所に向いていた。
「でも勘違いしないで欲しいのは、「男子だから」とか「女子って」って客観的に見ない方がいいってこと。 むしろ今まで異性の体については保健体育でしか習ってないと思うから、一時的でも知っておいて損はないってことが、僕からの意見かな?」
真面目の言葉に中学生達も真剣に聞いていた。 勿論それだけではないのだが、真面目は言わなかった。 それを言ってしまっても真面目にはどうすることも出来ないからだ。
自分の体に起きたことを他人にどうにかしてしまっては意味がない。 自分に向き合えるのは自分のみだと、真面目は静かなメッセージを中学生達に伝えたつもりだ。 伝わっているとは真面目も思ってはいない。
そうして中学生達の先行入学が終わり、その背中を見送ったあとで真面目達も帰る準備をする。
「僕の言おうとしていたことをほとんど言われてしまったね。」
「余計なことをしてしまいましたか?」
「いや、僕だとあそこまで纏まって話を締め括れなかったから、一ノ瀬君が話してくれて助かったよ。」
「それならいいのですが・・・」
「明日からは春休みですしぃ。 来月まではぁ、ゆっくりとしてくださいねぇ。 ふたりともですよぉ。」
「歌川からそんな風に労いの言葉が聞けるとは思っていなかったけど、学業を忘れるのも時には必要だ。 ではまた入学式に会おう。」
そうして3人はそれぞれの道へと帰っていく。
「来年からは先輩になるのかぁ。」
実感の沸かない真面目だったが、その場で止まっているのもおかしな話なので、真面目も家へと帰る事にしたのだった。




