中学生から見て
『おはようございます!』
正門から入ってくる生徒達に向けて一斉に挨拶をする生徒会と中学生達。 通っていく生徒の視線が中学生達の方に向き、中学生の姿に疑問を抱きつつも、そのまま校舎の中に入っていく。
勿論声をかけに来る生徒も少なくはない。
「おはようございます。 なんで中学生がいるんです?」
「彼等は先行入学に選ばれた生徒だからだよ。 あんまり良くないところを見せると、中学生達が幻滅してしまうかもな。」
「お、おう、そうだな。 気を付けるよ。」
金田の言葉で少し萎縮する女子生徒。 その表情と言動に中学生達も違和感を感じたようだ。
「女子の笑顔が怖いの初めて見た。」
「あはは。 お互い元は男子だから新鮮に感じるかもね。」
「でもなんと言うのか・・・性別が入れ替わってると言われても、全く分からないです。」
「たま~に年齢を聞かれることもあるわよねぇ。 見た目年齢までは変わらないから。」
やり取りを見ている中学生達に真面目達も思うところを語る。 そうしているうちに時間は徐々に過ぎていき、ピークになれば走ってくる生徒も少なくはない。 中学生達も好奇な目には晒されるも、それどころではない方が勝り、そそくさと過ぎていった。
そうして終わった朝の挨拶活動。 中学生達は圧倒されつつもなんとか乗り切れた事に緊張していた肩の力が抜けていった。
「どうだったかな。 高校生の登校風景は。」
そんな彼等に金田が声をかける。 中学生達は首を捻りつつも、言葉を出していく。
「そうですね。 高校生になって性別も変わってと聞いてはいたのですが、こう言ってしまっては失礼かも知れませんが、今の僕達となんら変わりはなかったです。」
「まあ歳が1つ位上なだけだしねぇ。 なってみると案外「こんなものなのか」って思うことって多いのよ。」
中学生達が感じた率直な感想に歌川も同調する。
「では次は軽く授業を受けてみましょうか。 今後のための予習をすると思っていただければと。」
「直接高校生の授業を見ることは?」
「出来なくは無いですが、何分春休みも近いので、あまり参考になるような授業は行わないので。」
引率者の大人も経験させようと提案を出したが、流石にちゃんとした授業ではないので、見せてもあまり予習にはならないだろうという考えから取り止めになった。
そして特別教室に入っていく中学生達を見送り、真面目達も自分達の教室へと戻っていったのだった。
「なあ一ノ瀬。 朝一緒にいたあの子達って中学生じゃなかったか?」
朝の挨拶をしていたと言うことで、真面目も当然クラスメイトに聞かれる。
「うん。 先行入学の子達だってさ。 まだ性転換について分からないことだらけらしいから、それを知ってもらうために来てるんだってさ。」
「じゃあ同じ様に授業を受けるの?」
「それは無いよ。 今は別の教室で予習みたいな事をしてるんじゃないかな?」
真面目も真面目で何回も聞かれているお陰で定型文のように説明をして行く。 とはいえ真面目自身も気にならないわけではない。 春休みまでの数日間ではあるものの、中学生と言う後輩が自分達の近くにいることを色々と気にしているのだから。
「一ノ瀬。 なんかお前を呼んでる子がいるぞ。」
教室の外で真面目が呼ばれたので寄ってみると、そこには今朝会った中学生の女子が立っていた。
「すみません。 立て込み中でしたか?」
「いや、なかなか抜け出せなくて助かったよ。 それでどうかしたのかな? 他の人達と一緒じゃないの?」
そう真面目が聞いたのだが、何故かその女子はなかなか言い出すことが出来ずにいたのだが、意を決したように真面目に向き合った。
「あの、先輩の事を知りたくて・・・お昼ごはん、ご一緒してもよろしいでしょうか!?」
その女子の発言に真面目を含めてクラスメイトにはどよめきが走った。 当然と言えば当然であろう。 彼女は中学生であり、真面目は見た目は女子ではあるが中身は男子。 話をするにも色々と周りの目を気にしなければならないのだ。
そんなどよめきが広がる中、真面目はその女子に優しく微笑みかける。
「いいよ。 僕の話で良ければ。 場所は・・・天気がいいからあの大きな木の下にしようか。」
「は、はい! それでは失礼します!」
そう言って去っていく女子中学生を見送れば、次に真面目に襲ってくるのは先程とは別の質問だった。
「一ノ瀬! いつの間にそんなに仲良くなったんだ!?」
「いや、まだ別に朝の挨拶を一緒にしただけで・・・」
「敢えて1人で来たんだからなにかあるってことだろ!?」
「話を聞きたいって言ってただけだから、それ以上はなにもないでしょ。」
「あの朝の挨拶までで侍らせたの!?」
「今の誰? 混乱に乗じて変なこと言わないで?」
教室内はプチパニック状態にはなったものの、お昼前の授業が始まるということでそこで事態は終息した。 とはいえ先程のやり取りの衝撃は止まないようで、真面目も話を聞いてもらうだけなのだが、色々と気になるのはあるだろう。
そしてお昼休みになりお弁当箱を持って教室を出る真面目。 あれだけ気になっていた筈のクラスメイトに止められなかったのは約束に遅らせる訳にはいかなかったからだろうと真面目は思っていた。
実際には会話の内容が知りたいがゆえに敢えて真面目を行かせたという経緯がある。 その証拠に真面目が出ていった教室からコッソリとついていく影が数名見受けられた。 その中に岬も混じっている。
そして真面目は先程約束した大きな木の下にやってくる。 今のところ誰もやって来ていない。 少しすると真面目に声をかけてきた女子中学生、そして他にも同じ様に先行入学で来ている中学生達が集まってきた。 これには真面目も驚いたが、すぐに事態を把握する。
「あ、もしかして彼女が代表で僕のところに相談しに来たって感じかな?」
「驚かせてしまいすみませんでした。」
「いいよいいよ。 誤解も解けそうだし。」
誤解?と中学生達が首を捻ると、真面目は目線を後ろの方へと向ける。 するといくつかの人影が動いていくのが見えた。 恐らく期待外れだったか興味を削がれたかのどちらかだろう。
そんな風に安堵はしているものの、真面目はそれでも動かない人影を見つける。 そしてその人影に声をかけた。
「浅倉さん。 もう気にするようなことはないはずでしょ? そこに隠れてないで出てきてよ。」
そう言った後に岬が出てくる。 観念したかのように溜め息混じりにしている辺り、真面目は分かっていたのだろうと踏ん切りをつけたのかもしれない。
「私は疑って無かったよ? ただ皆が騒いでるところに入っただけ。 ほら、その証拠にお弁当も持ってきてる。」
「普通にお昼を過ごそうとする人はこそこそとついていったりしないでしょ。 それこそ浅倉さんならなおのこと。 ああ、気にしないで。 ただちょっと気になってただけみたいだから。」
突然登場した人物に逆に驚かされた中学生達に説明をして、真面目と岬、そして中学生達はそのままお昼に入っていく。
「それで聞きたいことってなにかな?」
「あの、その前に聞いてもいいでしょうか?」
「なにかな?」
「あの、お二人はお付き合いされているのでしょうか?」
「してないよ。」
「してない。」
率直な質問に率直に返す真面目と岬。 そのやり取りな中学生達は疑問を持つが、そう言ったところは自分達と変わらないのだと改めて認知して、真面目に色んな事を聞きながらお昼を過ごしたのだった。




