先行入学
卒業式が終わり賑わいが少なくなった学校。 後は春休みまで何度かの登校を終えるだけとなったのだが、真面目達生徒会の仕事が終わるわけではない。 むしろ真面目にとって初めての出来事に困惑していた。
「え? 中学生の子達が来るんですか?」
複雑なことは言っていないだけに逆におうむ返しをしてしまう真面目。 それに対してすぐに金田が答える。
「ああ。 簡単に言えば先行入学だ。 この学校に入学予定の中学卒業生数名を呼んで、春休みに入る前の数日間だけ、高校生活を体験してもらうのさ。」
「そんな話僕の中学で聞いたこと無かったですよ?」
「呼ばれるのは選ばれた中学の選ばれた生徒だから、知らなくて当然なのよぉ。 そんなことを知っている人の方が少ないわよぉ。」
真面目の疑問に歌川が答える。 それなら仕方がないと真面目も納得した。
「全国でやってはいるものの、実際に行っている高校が少ないのも事実だから、ニュースにも取り上げられないんだよね。 まあ選ばれた生徒というのも、簡単に言えば成績が優秀だった子達だから、粗相を起こすことはない・・・と言いたいところなのだけど・・・」
「? 去年も行ったのですよね? なにか問題が?」
「端的に言えば彼らも思春期真っ只中だ。 しっかりしていても興味がある。 それにまだ性別転換について軽く見ている節もあり、あまり目を離せないのさ。」
なるほどと真面目は納得した。 中学生と高校生と言う名目があるとは言え年齢的に考えればさほど離れてはいない。 それに考え方を取り違えれば、互いに不快なままで終えることになる。 それは今後の成り行きとしては良くないのだろう。
「つまり僕達生徒会の仕事は・・・」
「有り体に言えば監査って所かしらぁ? こう言ったらあれだけど、自由にさせられないのはちょっと可哀想じゃない?」
「不祥事や生徒間に置ける不仲を予め無くしておかないと、新入生達も安心できないだろ?」
歌川自身も思うところはあるようだが、学校の方針も含めての結果なので文句も言えない。
「それでその先行入学の中学生の子達は何時から来るのですか?」
話の内容を理解した真面目は、とりあえず日程を聞いてみる。 とはいえある程度は予測も出来ており
「ああ、来るのは来週からだ。 それまでは特になにもない。」
春休みに入るかいなかの時期なので、それぐらいでなければ準備のしようがない。 とりあえず来ることが確定していることを納得し、生徒会としての仕事をこなしていくのだった。
そして1週間後の月曜日の朝。 生徒会メンバーはまだ誰も登校をしていない学校の校門前に立っていた。 春の陽気はまだ来ておらず肌寒く感じていた。
「こんなに朝早くに集まる必要ありましたか?」
「他の生徒に見守られながらよりは、彼らも気が楽だと思うからね。 去年もこの時間に集まったものさ。」
「まだ寒いわねぇ。 今年はどんな子達が来るかしら。」
「去年はそんな個性的な生徒が来たんですか?」
「まだ中学生だしねぇ。 そこまで悪い子達はそもそも先行入学させないけど、多少はね。」
色々と含みのある金田の言葉に首を傾げる真面目だったが、その事を突っ込んでもしょうがないと割り切り、先行入学の為に来る中学生達を待つのだった。
「・・・お。 彼等ではないか?」
こちらに向かってくる数名を見て、金田が目を細める。 そして数人の中学生と引率者である大人がたどり着いた。
「本日から先行入学でお世話になります。 彼等に是非高校生活を学んでもらいたいと思っております。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。 お見苦しい所も多々あるとは思いますが、どうぞ寛大な目で見てください。」
引率者と金田が握手を交わしている間にも、後ろで控えている中学生達は辺りを見渡している。
「ようこそぉ私達の学校へ。」
歌川がそんな中学生達に挨拶をするが、男子も女子もそんな歌川の挙動を見て、若干引き気味になってしまっていた。 青ざめた顔をしている者もいる。
「あらあら、やっぱり距離を置かれてしまいますねぇ。」
「歌川先輩。 一応今の姿を考えて接してあげてください。 男子からしてみれば少し危機感を抱かれますよ。」
「性転換したところで中身は変わらないって事を分かってもらうためよぉ。 これからこう言った子達がどんどん来るんだから、今のうちに慣れておいて貰ってもいいでしょぉ?」
「だとしても唐突過ぎるんです。 ショック療法の類いですよそれ。」
真面目の歌川に対する説教に男子も女子も安堵していた。 そしてそんな彼等に真面目も歩み寄る。
「今回は先行入学に来てくれてありがとう。 みんなも後1ヶ月近くになったら肉体が男女入れ替わってしまうけど、これも一つの教育の一環だから、大人になるためにしっかりと見ていって欲しい、かな。」
そう言って真面目は彼等にぎこちないながらも笑いかけた。
「あの、それでは早速質問をしたいのですが・・・」
そう言っておずおずと1人の女子が声をかけてきた。
「うん。 答えられることなら。」
「えっとその・・・ど、どうすればそのように、堂々と出来るのでしょうか?」
「堂々と・・・」
「あの、先輩も去年までは男子、だったのですよね? やっばり男子になるからには、男子らしく胸を張るべきだと、思うんです。」
質問をした女子は徐々にその身を小さくするように体を抱えていた。 しかし真面目はそんな彼女の肩を優しく叩く。
「無理をして「らしさ」を出す必要は無いよ。 ただ「自分」を無くさないで欲しい。 それが女子のままだろうが男子に変わろうが変わりはないからね。 それに高校生になってからって、変わったことなんてほとんど無いし。」
「そう言うものなの、ですか?」
「見ていれば分かるよ。 まあ、男子と女子が入れ替わってるからややこしいかも知れないけどね。」
「それなら僕からもよろしいでしょうか?」
今度は男子からの質問だ。 金田や歌川ではなく真面目に質問してくるのは、真面目がそれだけ接しやすい人柄だと認知したからだろうか。
「先輩は変わった時からそのような姿だったのですか?」
「あー、そうなんだよね。 最初起きた時は特徴が似てるだけの別人だから、一瞬思考が真っ白になったよ。」
あの時の事を染々と思い出す真面目。 正しく人生の転機ではあった。
そんな真面目を見ている中学生達の目線は腕組みをしている真面目の胸に集中して、男子の方は生唾を飲み、女子の方は自分の胸と比べていた。 真面目も視線の先はなんとなく分かっているので、もう気にしてない。 その辺りはこの一年で慣れたからだ。
「色々と遅くなってしまったね。 そろそろ最初の生徒が登校してくる。 登校の様子も見て貰おうと思う。」
引率者との対話が終わった金田が皆を集めてからそんなこと言った。
「そんなことをしてどうするのですか?」
真面目は高校生活を実際に体験するのは分かるが、登校している様子まで見るのには流石に疑問を持っていた。
「簡単な話さ。 高校生とは言え中学生の彼等と何ら変わらないことを間近で見てもらう為さ。 性別が変わろうが自分自身を目一杯表現していると言うことをね。」
流石に朝からそこまでハツラツな生徒は滅多にいないと定期的に朝の挨拶として生徒会で声を上げていた真面目は思っているが、生活を体験していく上で多分一番身近に感じるのだろうと思い反対はしなかった。
「折角だからみんなで挨拶もしてみようか。 朝から元気良く挨拶するのも、れっきとした生活基準になるからね。」
そうして校門の前で真面目達生徒会を含めた中学生+引率者での朝の挨拶が始まろうとしていた。




