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卒業式準備~前夜

 その日真面目達生徒会の3人は放課後に体育館に集まっていた。 舞台袖へと入っていき、舞台裏のとある看板を取り出す。


「ちょっと重たいけど大丈夫そうかい?」

「3人いれば大丈夫かと。 一応男子である歌川先輩もいるので。」

「外見は男だけど、中身はか弱い女の子なんだからね。 力が強いのはそっちでしょ?」

「筋力は男子の時よりも明らかに落ちてるよ。 とにかく持ち上げるよ。 せーの!」


 そう言って3人は大きな看板を持ち上げて舞台袖から登場する。 その看板にはでかでかと「卒業式」の文字が書かれている。


 そう。 3人は今卒業式に向けての準備を行おうとしているのだ。 最高学年である3年生へと贈る、在校生からの祝辞。 それらを彩るための舞台を整えるためだ。


「これ上にはどうやって持ち上げるんですか?」

「それは先生がやっておくので、君達は造形の花を作っておくといい。」


 そう言われた金田、歌川、真面目は舞台から降りて、大量に用意されている折り紙の前に座り、造花の作り方の載ったページで花を作ることにした。


「それにしても卒業式ですか。 僕は3年生の方々とはほとんど関わってこなかったので、正直感動できるか分からないです。」

「確かにそうかもね。 でも一気に全校生徒の1/3が減ると考えると、寂しくなると思わない?」

「そう考えると・・・確かに賑わいは減ってしまいますね。」

「でも3年生の人達も、次の後輩に引き継ぐことで精一杯で、1年生の子達を見れてなかったのかもしれないよねぇ。」


 三者三様に今回の卒業式についての感想が飛び交う。 勿論それだけではないのが卒業式だが、色んな気持ちを引き換えればそういった感想しか出ないのは、ある意味仕方ないのではないかとも思えてくる。


「やっぱり卒業生代表は銘会長ですか?」

「当然と言えば当然だろうね。 花村先輩になるかもとは言われていたけれど、やっぱり人気を考えれば、というのが結論らしいよ。」

「人気かどうかで決められた花村先輩も可哀想よねぇ。」

「本当に可哀想に思っているのか?」


 会話をしつつも3人は着実に造花を作っていく。 あまり大きいものでもないので慣れてしまえば2~3分程で完成する。


「とはいえそのような期間もほんの数週間。 去年の君達のように新入生も入ってくる。 悲観ばかりではないだろうさ。」

「新入生・・・また今年も性転換で不安に思う生徒がいるってことですよね。」

「毎年の事じゃないかしら? それをしっかりと見ていくのが学校であり、教師の役目で、生徒会はそれを支える。 そう言う仕組みなのよぉ。」

「・・・君からそんなまともな言葉が出てくるとは思わなかったな・・・」

「ひっど~い。 1年生徒会を一緒にやってきてその言い草は無いんじゃなぁい?」

「普段が普段だから驚いてるんだよ。 っとと。 もうこんな時間だ。 今日はこの辺りで区切りにして、また続きは明日やろう。 恐らく明日からは助っ人も来てくれるだろうさ。」


 そうして体育館を後にした生徒会メンバーは、そのままそれぞれの帰路に歩いていく。


「この体になって初めての卒業式か。」


 自分が卒業するわけではないが、何かにつけて性転換してからは新しくなるばかり。 それに去年のような戸惑いももう微塵も残っていない。


 性転換の期間は成人、つまり二十歳になるまでの5年間のみで、そのうちの1年が過ぎただけ。 まだまだ苦難は乗り越えなければならないだろう。


 性転換してからというもの、この1年だけで色んな事をしてきたもので、性転換をしていなかったら出来なかった経験がいくらでも存在する。 それに中学生時代の真面目からしてみれば、これだけ今の高校生時代という青春を謳歌していることを想像もしていなかったことだろう。


「不思議なこともあるとは、よく言ったものだよね。」


 誰もいないことを確認した上でその言葉を発する真面目。 それは自分の事でもあり、周りの事でもある。 真面目の中でかなり変化した1年とも言えただろう。 そんなことを振り返りながら真面目は家に帰るのだった。


 そして授業も部活もまともに無い高校は、遂に卒業式前日にまで近付いていた。


 午前の授業を終えた後、午後にやることは卒業式のリハーサルだ。 順序よく式が確実に行われるための前準備というところだろう。


「本番の前日にやることじゃない。 こういう行事の時は何時も思う。」

「まあ入学式の時には無かったからね。 でもこうしないと不測の自体の時に対応出来ないと思うんだ。」

「そもそも卒業式のリハーサルって何? って感覚。」


 岬の言い分に真面目も正直なことを言えば頷きたい気持ちはあるのだが、それを肯定してしまえば今までやってきた事が無意味になる気がして、深く頷くことは出来なかった。


 そして一度体育館に集められた全校生徒及び全教員。 椅子は既に用意されているものの、あくまでも全校生徒と教員分しかないため、リハーサルが終われば追加で来場者用の椅子も用意する。 その時は全校生徒でやるのでそこまで時間もかからない。


 そして全校生徒が入ったのを確認した教員達は、一度体育館にあるドアを全て閉める。


 そうして始まった卒業式のリハーサルだが、ある程度の流れを説明し、卒業生の教壇への上がり方、校長先生や教員、卒業生代表、在校生代表の発表順序、校歌斉唱、卒業生の退場の見送り方を終えてしまえば、リハーサルは終了する。 とは言え入り方や喋ることなどを含めればそれだけでも1時間程は取られる。


 そして終わった後も動かした椅子を元に戻したり、来場者用の椅子を用意するなど、何だかんだと時間は流れていった。


 リハーサルも終わり、教室へと戻されて、それで本日は終了となる。 いよいよ明日は卒業式だ。


「実感が湧かない。」


 帰り道。 真面目と岬が一緒に帰っていると、不意に岬からそんなことが呟かれた。


「それは先輩達が卒業するから?」

「それもある。 けどリハーサルをしてちゃんと卒業式が出来るかの実感が湧かない。」

「ああ、そう言うこと。」


 真面目は今の一言でなんとなく分かった。 想定外のことが起きることを示唆しているのだろう。


「ま、そうはならないでしょ。 なんてったって性転換していること以外は普通の学校だよ? そんなファンタジーなことは起きないって。」

「夢もロマンも無いことを言ってる。 けど今は一ノ瀬君の言い分が正しい。」


 岬は軽く溜め息をついて、真面目との別れ道へとやってきた。


「それじゃあまた明日。」

「僕達は卒業式が終わっても2週間くらいは登校することになるけどね。 また明日。」


 そのやり取りを終えて真面目も帰る。


「また明日、か。」


 いつまで出来るだろうかと真面目は考えて、首を横に振る。 余計な考えは無くし、明日の卒業式に集中すれば言い。 そう思いながら街頭のついた道を歩くのだった。

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