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妙な意識

 週末も終えて新しい週間が始まると言ったこの頃。 期末テストも終わり卒業式や終業式が近付いてくるので、ほとんど学校には惰性で行くような感覚に陥っている事だろう。


「バレンタインデーねぇ・・・」


 未だに真面目は溜め息混じりに通学路を歩いている。 それは週末に貰ったセルナからのチョコレートの事で頭がいっぱいになっているからだ。


「・・・まあ誰からも貰えない何て言う事がなかったのは良いこと・・・なのかな?」


 その辺りは認識の齟齬があるだろうと思いながら真面目は学校に登校する。


「流石にまだ当日じゃないからそこまで浮わついてはないか。」

「よう真面目。 なんか疲れてるみたいだが大丈夫か?」


 肩を叩かれた真面目は、隆起に向かって振り返り、自分の顔に触ってみた。


「そんな顔してた?」

「まあな。 というか、お前が元気な感じをあんまり見たこと無いな。 ちゃんと飯食ってっか? 睡眠不足じゃないだろうな?」

「君は僕の両親かなにか?」


 そう思いつつも真面目なりに思い当たる節が無いわけではない。 無いのだがこれを言ったところで恐らく信じて貰えないだろうと思い、真面目は隆起に黙っていることにした。


「寝不足は寝不足かもね。」

「あ、もしかしてバレンタインデーに誰にあげるか考えてたか?」

「一応全員に行き渡るようにトリュフチョコレートを2つくらい入れた袋を渡そうとは思ってるよ?」

「それ手作りか?」

「市販品は流石にどうかと思ってね。」

「いいよなぁ。 料理スキルあるとそういうことが出来てよ。」

「そういう隆起君はどうなのさ?」

「市販の奴箱買いしてやったね。 あっちの方が安く済むし。」

「なんだが隆起君らしいね。」

「馬鹿にしてるのか?」

「さっきのお返し。」


 そう言って笑いあう2人は、それぞれの教室に入り、朝の授業の準備をした。


 残り少ない授業ということもあってか、授業自体もあまり先に進むこともなく、どちらかと言えば復習に近い形で行われた。 なのでクラスメイトも聞いているのかいないのかと言った具合な空気になっていた。

 そんな中でも真面目はしっかりと聞いており、とりあえず必要最低限のノートは取っていた。


 そして授業の合間の休憩に入り、一気に疲れが出た真面目は机に突っ伏した。


「うぬぅ・・・やっぱり眠くなる・・・」


 真面目も真面目であまり表には出さなかっただけで、授業自体は正直退屈なものだった。 ノートを取ってる最中でも何だかんだと頭がこっくりこっくりとしていたものだ。


「せめてお昼休みまでは持たせないと・・・でもなぁ・・・」


 そんな風に思いながら顔を上げて、ふとクラスメイトと話している岬の方に目を向ける。 そしてクリスマスの時の観覧車での出来事を思い出す。

 あの時も何時からか分からないが岬の事を少なからず意識をし始めていた。 もしかしたらクリスマス以前からそう想っていた部分も無かったわけではないだろう。 だがその感情が果たして今のこの身体で起きている正しい感情なのかが、やはりいまいち分かっていなかった。


 そんな思いを乗せながら授業に挑んだ事もあってか、ノートは取っているものの内容は全くと言っていい程頭の中に残っていなかった。


 そして2回目の授業の合間の休憩で真面目は流石にと思い目を瞑り、少し眠ろうと思った。


 もちろん完全に眠ってしまうといつ起きるか分からないので、指だけは動かして目を瞑るだけのようにしていた。


 チャイムが鳴り目を開ければ、既に次の授業が始まろうとしていた。 机には既に準備してあったためそのままの流れで授業に入る事が出来た。

 午前中の合間の休憩も3回目に入り、次はなんだったかと机を漁っている真面目の前に、岬が現れる。


「一ノ瀬君お疲れ気味?」


 何気ない一言であったが、心配するような表情を岬はしていた。


「んー、まあ疲れていると言えばそうかもね。」

「なにかあった?」


 そう言われて真面目はセルナとの1日が脳裏をよぎり、すぐに頭を振るが簡単には頭から離れず抱え込んでしまった。


「どうしたの?」

「いや、大丈夫。 なんでもない。」

「なんでもないように見えないから聞いてるんだけど。」


 岬にはそう言ったことに鋭いことを忘れていた真面目は、どう誤魔化そうか考えていた。


 正直にセルナとのやり取りを話してしまえば、色んな意味で面倒事になるのは明白だった。 どうするか考えていると岬の顔が近くまで寄ってきていて、それに反応して椅子ごと後退りした。


「本当に大丈夫?」

「い、一応浅倉さんが思ってる程体調は悪くないよ。 だからそろそろ席に戻らないと。」


 そのタイミングでチャイムが鳴ったので、岬は自分の席に戻る。 その背中を見送りながら真面目の心臓はドキドキしていた。


「・・・異性に好かれるってことがここまで身体に影響を与えるとは思わなかったよ。」


 そう言いながら真面目は今日という日を過ごしていったのだった。


 そして放課後、やることも済ませて家に帰り、両親のどちらもまだ帰ってきて無いことを確認して、夕飯の準備に取りかかるために冷蔵庫を開ければ、セルナとのやり取りを終えた次の日に拵えたトリュフチョコレートを確認する。


 明日はいよいよバレンタインデー。 とはいえこのチョコレートもクラスメイトや一部の親しい友人に渡すためだけに作られたものだ。 これと言った理由など無い。 今から作るにしても時間を要するので、これくらいが丁度いいのだ。


「市販品買うよりは安上がりで済んだかな。」


 大量の板チョコの消費は代償とも言えるがアソートを配るよりはいいかとも思えている真面目である。


 そうして夕飯の準備をしていると、壱与が帰ってきたことを確認する。


「お帰り母さん。 夕飯はもう少しで出来るから。」

「あらそう? 随分と早いのね最近。」

「3学期だからじゃない? 卒業生もいるわけだし。」

「やることもあんまり無いってことね。 それとも次に向けての準備かしら?」


 そう言いながら壱与が飲み物を取りに冷蔵庫を開けると、真面目が作ったトリュフチョコレートが並んでいるのが見えたようで、壱与は真面目に問い掛ける。


「こんなに同じのを作ってどうするのよ。」

「どうするって・・・配るに決まってるじゃん。 クラスメイトや隆起君達に。」

「ふーん。 ・・・じゃああの後ろにあるのはなにかしら? 明らかに誰かにあげるもののように包装されてるけど?」


 なにを言っているのかと冷蔵庫を見ると、それはセルナから貰ったチョコレートの事だった。


「ああ、あれは誰かにあげるのじゃないよ。 むしろ貰ったものだし。」

「貰った? 誰から?」

「夏休みに知り合いになった人。」

「ふーん。 その人にお礼言わないとね。」

「難しいと思うよ? その人忙しいし。 次に何時会えるかも分かんないし。」


 そのチョコを貰った人物の正体がセルナであることを隠しつつ貰ったことを話す真面目。 それを見て壱与はそれ以上は聞かない事にした。


「それにしても貰える相手がいて良かったんじゃない?」

「なんか言い方に刺がある気がするんだけど?」

「そうかしら? どうせどこもかしこもチョコまみれ。 貰えるか貰えないかなんて些細な事よ。」


 壱与の機嫌がいまいち良くないところを見ると、どうやら相当チョコ菓子が売れたようで、それに反して忙しかったこともあるのだろう、心がすり減っている感じがした。


「でも真面目も渡す相手は間違えないようにね。 それで勘違いする事もあるんだから。」

「・・・忠告として受け止めておくよ。」


 無いとも言い切れない真面目はとりあえず夕飯を作り、明日のバレンタインデーの為に包装し直した上で眠りについたのだった。

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