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当日前の貰い物

お昼を終えた2人はその後チョコ売場へと赴いていた。


「チョコレートフォンデュの後にチョコ売場に来るってどうなの?」

「変に目移りして無駄な出費はしたくないの。」

「それってファンの人にも渡すため?」

「そんなには渡せないわ。 チケット代だけじゃ賄えないわ。」


そう言いながらセルナはチョコレートを真剣に品定めしている。 真面目もその後ろをみつつ、真面目も陳列された作られたチョコを横目で見ていく。


「うーん。 やっぱりあそこまでは作る気力は無いかなぁ。 というかあの辺りまで行くと母さんよりも上級者の人なんだよなぁ。」


左から右に行くにつれて上がっていくチョコレートのクオリティに驚嘆しつつも、あれほどまでの情熱はないと感じている真面目であった。

そうして真面目も買うかどうかを悩んでいると


「よし! これにするわ!」


そう言ってショーケースの中のチョコレートを指差して店員に取り出して貰う。 値段を見る限りでは特別な人物に与えるには少々高いのでは? と思うレベルではあったが、このくらいが普通なのかもしれないと真面目は考えた。


「真面目は買わないの?」

「僕?」


言われてみればと真面目は思った。 確かに作るのは手間だか手作りは手作りでそれ相応に頑張った証にはなる。 しかし逆を言えば配る人間が限られてくるのもまた事実。 親しくないクラスメイトなどに渡すかと言われると、となっている心境だ。


「ここまで高いのはいらないよね。」

「そうね。 これはもっとちゃんとした人に渡したいわよね。」


そこは分かってくれているようで、セルナも強制はしなかった。


「これ以上いてもしょうがないわね。 他の人のためにも移動しましょ。」


そう言いながらその場を後にする真面目とセルナ。 離れてみて改めて人の多さに圧倒された。


「やっぱり人混みはあんまり好きになれないな。」

「具体的にどう苦手なの?」

「何て言うのかな? 圧迫感? がすごいって言うのかな? とにかく息苦しくなるって感じ。」

「そうなんだ。」

「だから多分ライブ会場とかも間近で見るのは無理なのかもなぁ・・・」

「そう言う人の為のライブ配信なのよ。」


そう言われてみればそうかと真面目は納得し次に行く宛があるような無いような足取りでデパートの中を真面目とセルナは歩く。


「うん、お店巡りも出来たし、今日はこんなものかしら?」

「あれ? 今回は随分早いんだね。」

「元々日本の滞在時間も長くはないからね。 準備もこれと言ってちゃんと出来てる訳じゃないのよ。」

「それ抜けてた方がヤバいのでは?」

「あんまり裏側の汚い部分を見せたくないってマネージャーから。 別に今さら気になんてしないんだけどなぁ。」


これから売れる事がほとんど確定しているであろう人物に絶望を与えない為の配慮なのだろうが、セルナにとっては大分余計なお世話になってしまっているようだ。 夢と現実は結び付けてはいけないと言うが、夢だけでは現実にはならないのだ。


「でも今日はここまでってことなのか。」

「そう言うことになるわね。」


既に最初に入ってきた出入り口まで来ていた真面目とセルナは、そのままの流れで別れようとする。


「それじゃあセルナ。 ライブ頑張って。」

「あ、ちょっと待って。」


そう言ってセルナご渡したのは、なんと先程自分が買っていたチョコレートだった。


「え? これは誰かにあげるために買ったんじゃ・・・」

「その誰かが貴女なのよ真面目。 私の真の目的はこれだったんだから。」


真の目的。 それは今の状況からしても真面目にはハッキリと理解した。 そしてそれが真面目にとって自惚れであっても欲しかった事実であった。


「・・・はぁ。 こりゃ持って帰るだけでもなにか言われそうな気がするなぁ。」

「どうして?」

「だってわざわざバレンタイン前にチョコレートを貰う程本気な女子がいたって思われるじゃん。 僕それでいじられるの嫌だよ。」

「でも返されても困るかね。」


押し返そうとした真面目に先に手を置いて牽制するセルナ。 その行為にまた溜め息が出る。


「まあ誰かから貰ったことにしておいてもいいんだよね。 有名人から貰ったって言わなきゃ大丈夫でしょ。」

「私は気にしないわよ?」

「そりゃ渡しただけだもの。 貰った側は内心ドキドキなんだからね。」


それに加えて貰ったチョコもただのチョコではない。 現在絶賛活動中のアイドル的存在からのチョコレート。 ファンならば卒倒しそうな程に欲しいであろう代物を、今手元に真面目は持っているのだ。 背中から刺されても文句を言いようがないのだ。


「ふーん。 ・・・私の本気ぶりはまだ伝わってこない、か。」

「本気?」

「日本だと1人にチョコを渡せば本命になるんでしょ?」

「そんな風習は無いけど・・・まあそれに近い感じにはなるのかもね。 最近はそこまで本気にしてる人っていないだろうけどね。 友チョコとかあるし、今の現状のこともあるし。」

「じゃあもっと本気度を見せつければいいのね。」


「え?・・・え?」


真面目はセルナが言っていることが理解できないままに真面目は

セルナから熱烈なキスを貰ったのだった。


時間にしてほんの5秒ほど。 しかしお互いに取っては1分にも2分にもなるかのような時間の流れだった。


そして互いの口元が離れた時、真面目は直ぐ様自分の口を抑える。 一方のセルナは軽く指先で唇に触れるだけだった。


「言ったでしょ? 本気だって。」


そう言うセルナの顔も赤く染まっていた。


「流石にまだ誰ともしてないでしょ?」

「・・・むしろしてると思ってた?」

「思ってないわよ。 だからこそ最初は私がよかったのよ。 名誉なことよ? 人気アイドルのファーストキスを貰ったなんて。」

「・・・全くその通りだろうね。 これが君の本気だと言うのなら・・・間違いないんだろうね。」


真面目は冷静を取り戻そうとしつつも、やはり衝撃と刺激が強すぎたのか、なかなか熱が冷めない。


「お互いに決して消えない記憶を残すことが出来たわね。」

「それはどうも。」

「それじゃあ私はこれで。 もしよかったらライブ配信でも見にきてね。」

「それぐらいしか応援は出来ないけどね。 頑張って。」


そう言ってセルナと別れる真面目。 真面目もそんな背中を見送った後に家に帰るために歩く。 その速度はゆっくりと着実に速度を速め、そしてある程度の場所で、改めて自分の唇を触る。


「・・・本当に周りに誰も見ていなかったのかな。」


一抹の不安は後を断たないが、自分のファーストキスの相手は間違いなくセルナであること。 その事実はもうどれだけ何をしようとも変わることの無い現実となったのだ。 手に持っているチョコレートも、認識をしっかりと持たせてくれている。


「大胆不敵・・・こんなことを繰り返していたら大人になるまでに心臓が止まりそうだよ・・・」


真面目にとって何度起点が訪れることだろう。 これからチョコを作ることを垣間見ても、かなり複雑な心境になりつつある。 そう思いながら真面目は家に帰るのだった。

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