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答えは自分の中にしかない

 1月も終わりを迎えようとしているこの日、3学期最初にして最後の学年末テストがあり、その強化期間に入る。 赤点を取らずに出席数が足りていれば進級は確実に出来るが、それでも校内に纏う空気は異様とまでは言わずとも張り詰めたような状態になっている。


 それは真面目達も同じなのだが、張り詰めるような雰囲気ではない。 今集まっているのは真面目、岬、隆起、得流、叶、下の6人。 刃真理も誘ったのだが「1人の方が捗る」と言われ、和奏は別の友人と勉強会をするので参加していない。


 このメンバーの成績に関して言えば危ないのは隆起と得流ではあるが、赤点は最低限回避できるので、ここに集まっているメンバーが留年何て言う事には陥らない。


 ただそれでも少しでも成績は上げておきたいのは事実で、周りも少なからず勉強はしてくることだろう。 なのでこうして集まっていると言うわけである。


「ええっと、ここの文がこうなるから、答えはこの文で・・・感情を述べてるのはここまでだと・・・」

「水素は2つの「H」の分子からなり、そこに酸素分子が加わることで水になる。 その水から酸素を取り出すには・・・」


 皆が別々の勉強をしているが問題はない。 今やっているのが得意科目であればなおのことだ。


 そして一時間半程過ぎたところで休憩に入る。


「はぁ~。 頭いてぇ・・・」

「まあまあ。 勉強ってそう言うものじゃない?」


 机に突っ伏した隆起を下が宥める。 今は図書室の一角を利用しているので大きな声を出すことは出来ないが、静かな場所なので勉強は捗るように見えている。


「皆さん。 そろそろ最終下校時刻なので、下校の準備をお願いします。」


 図書室を管理している先生からそう言われたので真面目達は広げていた教科書やノートを鞄にしまいこんで、図書室を後にした。


「まだ勉強する?」


 学校から出た後に岬がそう聞いてきた。


「いや、流石に帰ってからやるわ。 なんも言われやしないだろうが、後々面倒になりそうだし。」

「私も、帰ります。」

「そっか。 それじゃあここで解散だね。」


 そうしてそれぞれ皆を見送り、残ったのは真面目と岬のみとなった。


「ほら、私達は途中まで一緒だから。」

「・・・別に疑問に思ってないよ。」


 歩き始めてから会話は無く、少しずつ気まずさが生まれ始めた2人だったが、やがて岬が口を開く。


「バレンタインももうすぐだね。」


 そんな話題が出るとは思っていなかった真面目は、大袈裟に咳払いをしてしまう。


「そ、そうだね。 僕には縁の無い話だよ。」

「さっきの咳払いはなに?」

「バレンタインの話をするからビックリして・・・」

「不思議なことでもないと思う。 みんな気にしてる様子はあるし。」


 岬も学校内に感じる雰囲気は分かっていたようで、その辺りわ思いながら真面目に話題として振ったとも言える。


「それで、誰かにあげるの?」

「なんであげること前提なのさ?」

「女子としては好感度を上げるため、男子からは貰える嬉しさを感じたいため。」

「男子に対しての気持ちの感情雑じゃない?」

「男子がソワソワするのはそう言うことだと思う。」


 凄い偏った感情だと感じたが、学校内の雰囲気を考えると、割りとそうでもないと言えるのが悲しい現実だと受け入れる真面目。


「それで、実際のところはどうなの?」

「・・・なんか期待に満ち溢れてない?」

「そんなことはないと思うけど?」

「そう言うところは母さんみたいだ。」


 近くにいる似た人物をあげる真面目。 勿論似て非なる人物ではあるのは百も承知ではあるものの、やはりどこか親近感があった。


「まあそんな母さんも今はそれどころじゃないんだけどね。」

「洋菓子だもんね。 チョコの匂いが凄いことになりそう。」

「冬の時期は大体ヒーヒー言ってる。 クリスマスのあとにバレンタインだもの。 稼ぎ時とは言えかなり忙しいみたい。」


 そんな会話を繰り広げている内に真面目と岬も別々の道になる場所についた。


「それじゃあまた明日。」

「バレンタインは楽しみにしてるからね。」

「まだ半月は先の話なんだけど?」


 そんな話は受けながらされた真面目は、岬の背中を見送りながら自分の帰る道へと歩く。


「本当にどうしようかなぁ・・・」


 真面目も気にするわけではなかったが、それでも親しい友人にはあげるべきなのだろうかと考える。 義理チョコや友チョコ程度ならアソートのようなもので済ませてしまえばいいのだろうが、岬などはそれでは失礼な気もすると真面目は考えていた。


「チョコ菓子は作ったこと無いからなぁ・・・」


 母である壱与から特にお菓子作りなどは習わなかったのだが、男子がお菓子作りと言うのも少々違和感があったので、興味はあれど話しかけることはなかったのだが、今の状況では作っていても何ら不思議ではないと思ったのだった。


「・・・そんなに凝ったのじゃなければ作れるかな?」


 最初から壱与に力を借りるのでは意味はない。 真面目は週末だけでも作れるようにしておこうと考えて、なにかヒントはないかと近くのコンビニに足を運んだのだった。


 ―――――――――――


「・・・なにを言っているんだろ。 私。」


 真面目から離れた後、岬は寒空の下でふと先程までのやり取りを思い出す。 バレンタインの贈り物を期待しているのは想像はしやすいが、だからと言ってあそこまで詰め寄るように質問をすることはなかったのではないかと、自分の行動を見返して戸惑っていた。


 誰から貰えようが岬は嬉しくなるし、貰えないなら貰えないで縁の無い事など知っている。


 故にあれだけ真面目にどうするのかを聞いたのは欲が出てしまっていたのかもしれない。 今は女子高生の姿をしているが、それだけ彼から貰いたかったと思ってしまったのだろう。


「私も一ノ瀬君の事を笑えない。 気持ちがおかしくなりそう。」


 彼の事を気にかけるようになったのは何時からだろう。 クリスマスの時か、文化祭の時か、はたまたもっと前からなのか。 岬にとってももう分からなくなっていた。


 もしこれが思春期特有の現象だとするならば、本当に元には戻らないのだろう。 一度かかってしまったこの病を治す術はない。


「・・・期待しないで待っていた方がいい。 それが私のため。」


 そう言い聞かせて、岬は日も暮れかけた道を、完全に夜になる前に家に着けるように早足で進むのだった。

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