元日の楽しみ方
「ほら、どうよこのお面。」
「ひょっとこの仮面だ。 お祭りとかだと絶対に見かけるよね。」
「やっぱり嬉しい気持ちを表現するのにはそう言ったおどけた? 砕けた?表情がいいんだろうね。」
「多分、どっちも違うと、思うよ? 得流ちゃん。」
境内にあるお面を売っている店にてそんなやり取りをしている。 お昼過ぎともなれば境内に残る人も大分ましになる。 とはいえまだまだ客足は途絶えてはいない。
「つうかこの後どうするよ? 流石に二度詣りは行かないぜ?」
「あ、それじゃあショッピングモール行こうよ。 中のお店で福袋やってるんだよねぇ。」
下はそう言いながら楽しそうな表情を見せる。
「福袋かぁ。 あれって金額に見合った商品とか入ってたりするのかな?」
「一ノ瀬君。 そういうのも含めての福袋。 野暮ったいことは言ってはいけない。」
真面目の疑問に岬が突っ込みを入れて、真面目は頬を掻く。 真面目の中でこう言った点も治さなきゃいけないなと反省をする。 そして皆が移動をし始めたので、真面目も遅れを取らないように後ろから付いていくのだった。
ショッピングモールにつくと、神社にいた時とは違う意味で様々な人でごった返しになっていた。
「凄い人、ですね。」
「だねぇ。 でもあたい達みたいに振り袖で来てる人もチラホラいるよ。」
「良かった。 僕達だけ振り袖の格好だったら浮いてしょうがなかっただろうからね。 別に着替え直してからでも良かった気がするんだけど。」
人々の様子を確認していた叶達はそんな自分達以外の振り袖姿の人物達を見てホッとしていた。
「それでお目当ての物は?」
「フフフ。 よくぞ聞いてくれました。」
真面目がそう聞くと下がどこか誇らしげにしており、真面目は「しまった」と思いつつ、隆起に目配せをして他の皆を一旦別の場所に移動させることを指示して、真面目は下の話を聞くことにした。
「ボクが愛用している化粧品類は、実は君のお母さんの親戚の人が作っていたって事は前に知ったことだよね。」
「有名だとは聞いていたけどね。」
「そしてこう言った大型ショッピングモールなら当然取り扱っているんだ。」
「一角のスペースにある感じはする。」
「でもやっぱり庶民、というよりも一般高校生が手を伸ばすにはお値段は張るものなんだ。」
「化粧品って基本大人向けな部分もあるからね。 高校生でも届きやすい値段の場所もあるけど。」
「でもそんな化粧品達がボクの手持ちの値段でより多く買える時がある。 それが」
「それが」
「年末年始商材、福袋ってわけ!」
色々と語った上で最後に力説をしている下を見て、珍しくテンションが上がっているな程度に「おおー」と軽く拍手をした。
「でも福袋って基本的に中に入っている物ってランダムの筈だから、狙って欲しいものが取れるとは限らないんじゃない?」
「最近は中身の分かる福袋もあるから、そうでもないんだよ。」
「・・・福袋の楽しみって・・・?」
時代の波なのだろうか、分からない物には手を伸ばさないという今の若者の表れなのだろうか。 疑問に疑問が重なる真面目を置き去りにして下が歩いていってしまったので、見失わない様に付いていくのだった。
辿り着いたのは化粧品専門店。 店頭では福袋商材が置かれており、どの袋に何が入っているかが詳細に書かれていた。
「ほら、こうやって福袋の詳しい中身も見れるんだ。 化粧品も多種多様だからね。」
「開ける時の高揚感と中身を見たときの躍動感が無い・・・」
「欲しいものとは違う商材が入っていても手持ち無沙汰になったりしてもったいないじゃない。」
「それはそうかもだけど・・・」
そう言ったものをひっくるめての福袋では? と真面目は口にしようと思ったが、多分何を言っても意味ないのだろうと思い、真面目は口を紡ぐことにした。
そんな風に遠くから見ていると、後ろから肩を叩かれる。 真面目が振り替えればそこには先程見送った隆起達がそこに立っていた。
「すまんな。 人柱みたいにして。」
「いやぁいいよ。 流れ的に長くなるだろうなって思ったのは事実だし。 それにさ・・・」
真面目は下の方を見る。 見るといつの間にか岬達も一緒になって福袋を見ていた。
「新年だから浮かれるのも、しょうがない事じゃない? 他人に迷惑がかからない程度なら、僕は問題ないし。」
「真面目・・・」
隆起はそんな真面目を見て苦笑する。
「なんか近所に集まった子供を見るおじさんみたいだな。」
「誰がおじさんだって?」
「いや、今はどっちかって言うと若かりし頃の自分を思い出してる妙齢の女性って感じか。」
「随分躊躇い無く言うようになってるじゃん。」
「俺とお前の仲だろ?」
それだけで済ませたくないのだが、細かいことは気にしたら負けだと、真面目は福袋を見て楽しんでいるメンバーを後ろから眺めているのだった。
「そうだ。 家でおせち料理が用意されてるんだけど・・・」
「はいはい! 食べに行きます!」
「得流。私まだ何も言ってない。」
「いや、あるんだけどって行った時点で来るかどうかを聞こうとして無かった?」
真面目の突っ込みに岬は膨れっ面になる。 真面目は理不尽だと思いつつも、現実を言っただけなので非はない。
「どのみちこの振り袖着物を返さないといけないから、浅倉さんの家には戻るし。」
「それでも最後まで言いたかった。 こう言った台詞ってなかなか言えないし。」
「どこに対して機嫌悪くしているのさ・・・」
それでも「NO」と断るメンバーはいなかったので、岬の家に振り袖を返すと同時におせち料理を食べに行くことになったのだった。
「皆様お帰りなさいませ。 お料理の準備は出来ております。」
「あれ? もう準備されてたのですか?」
「はい。 岬様が皆で初詣に行っている間にとお願いされましたので。」
そう言って皆が岬の方を見ると、岬は明後日の方向を向いているのだった。
「何だかんだで皆で食べたかったんじゃない。」
「フフ。 岬ちゃんも、素直じゃないね。」
「まあある程度は予測できたけどね。」
そうして再び上がらせてもらい、真面目達は着ている振り袖を脱ぐために別室に案内された。
「いかがでしたか? 振り袖を着てみた気分は?」
「なんていうか、今までよりも上品な立ち振舞いにならなければなって思いましたね。 あとは汚したらいけないなと。」
「奥様のお古ですし、弁償などは気にしないで頂いてもよろしいですよ。 紛失さえしていなければ、ですが。」
そう言われて真面目は落とし物は無いかと改めて確認する。 一応問題はなかった筈だと胸を撫で下ろす。
そして1人では着付けが出来ないので、脱ぐのを任せていると、不意に視線を感じた。 自分と脱がして貰っている人以外で誰かがいる。 そう思い周りを見渡して、閉じられている筈の襖が僅かに開いているのを確認して、そこに1つの目があったのを見つけると、完全に脱がされる前にその場所に向かって、相手が逃げる前に近付き戸を開く。 そして覗いていた人物、岬の前に立つ。
「・・・流石に覗きは感心しないんだけど・・・」
「仕方がない。 女子の同級生の着替えシーンを覗きたがるのは男子としての性だと思う。」
「今は、でしょ? 元々は女子じゃん。」
「でも男子だった身としては否定は出来ないと思う。」
どう言えば良いか悩んだが、結局岬が離れることとなり、真面目は着替えを終える。 そして夕飯も予てというとこでおせち料理を頂いた後で解散することとなった。
「それじゃあみんな。 また学校で。」
「始業式までお預けだな。」
「またねぇ。」
「今年もよろしくお願いいたします。」
「貴重な体験をありがとう。」
皆が思い思いに帰路に立ち、真面目もその場を後にして、長い長い年始が終わりを向かえようとしていた。




