みんなで初詣
真面目が一眠りついた後の午前8時。 寒さが厳しい中で真面目は現在浅倉家の岬の部屋に案内されていた。
「そういや今朝神社の周りスゲー人だかりだったぜ。 みんな初詣なんだろうなって格好の人もチラホラいてさ。」
「この辺りでも、有名な神社、だそうですよ。」
「全然気が付かなかったなぁ。 そんなに有名なんだね。」
「そういうボク達もそこに赴くんだけどね。」
そして召集が掛けられたのは真面目だけでなく、年明けと同時にNILEへと送ったメンバーが揃っていた。
隆起や得流、叶に下と皆それぞれ家族内での理由があるであったにも関わらず来てくれていたのだ。
そして呼び出した張本人である岬と、レール付きの衣装ケースを引いてきた名瀬が現れる。
「みんなお待たせ。」
「うん。 ところで浅倉さん。 その服達は・・・」
「これから皆さん初詣に行かれると言うことで、奥様や旦那様のお下がりになりますが、振り袖をご用意させてもらいました。」
「振り袖! あたい初めて着るんだよね! あ、でも女子の姿で着てみたかったなぁ・・・」
そこは時代なので仕方無いと、得流を宥めつつ、改めて振り袖の状態を見てみる。
「うわぁ凄いや。 この布の肌触りとかこの凝った装飾とか、普通の振り袖でもなかなか見ないものばかり使ってる。 素材の良いものなのがよく分かるよ。」
「ご慧眼ありがとうございます。 小さいながらも我々も名を知られるような企業とのお付き合いもありますゆえ、ドレスコードなどは最低限行っているのです。」
下が持ってきた服を吟味している中で、名瀬が説明をしていると、隆起が真面目に声をかける。
「浅倉って本当に何者なんだろうな?」
「さぁ・・・? 少なくとも一般市民では無いことは確かだろうけど・・・」
真面目達も異性の友人と言う扱いを貫き通すため、彼女についての詳細は聞く気は無かった。 友好関係が壊れるとは思えないが、プライバシーの問題であるならば、やはり話は別であろう、と。
「2人も早く決めようよ。」
真面目と隆起が話していると、得流から声がかかる。 真面目と隆起はこの際細かい話は無しにして、初詣の為に色々と準備に勤しもうと思ったのだった。
「凄い人だかり、です。」
「お昼も近いし、初詣だからみんな集まる。 朝からいる人もいると思う。」
「そうだよねぇ。 あたい達が遅れたわけでも無いもんねぇ。」
神社に行くための階段には行く人も帰る人もごった返しになっているのを見て叶に岬、得流は思い思いに感想を述べた。 そしてその後方を向けば、かなりの時間をかけた上で振り袖姿に身を包ませた真面目達の姿があった。
「ほら3人とも。 早く来ないと終わらないよ?」
得流に急かされるも、3人の動きはかなりぎこちなく、一歩一歩がかなりゆっくりと前進していた。
「そう言われてもよぅ・・・この下駄歩きにくいんだよ。 バランス取るために足を高くあげられないし、無理に動こうとすると布が擦れるしよぉ。」
「ははは。 確かに大変だよね。 振り袖なんて特に浴衣とも違うから、動きが結構制限されるし。」
「んー。 初詣を行くのならって思ったけど、やっぱり振り袖にすること無かったんじゃないかな・・・?」
隆起は動きにくいことに文句を言い、下はそれに同情し、真面目は改めて考え直している。
ちなみに服装の特徴しては、隆起は紫菖蒲が彩られた振り袖で、袖部分にもしっかりと飾られていた。
下は白を基調とし、雪の結晶を柄として主張しすぎない程度に入っていた。
真面目は大きな椿の花の刺繍が入った振り袖で、胸元と腰周りに刺繍が施されているので、人目を引いているのは間違いなかった。
「でも周りの人も結構振り袖で来てるみたいだよ。 ほらあそことか。」
「本当だ。 あれ俺達と同年代か?」
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれないね。 というよりもなんだか視線が凄い気がするんだけど。」
「みんな気にしてないかもしれないけど、顔や肢体がそれだけ人を惹き付ける。」
「マジで? 服装のせいじゃないのか?」
「あはは。 本当に気が付いて無いんだ。」
隆起が疑問に思うのも恐らくは無理もないのかもしれない。 元々の姿がそこまで良かったとも思っていないだけに、自分の容姿というものは第三者から言われなければ全く分からなかっただろう。
「さ、お参りに行こうよ。 昼前には境内を回りたいんだから。」
そうして鳥居をくぐって神社の中に入れば、入り口付近よりも多くの人があちらこちらを歩いており、右を見ても左を見ても隙間無く埋まっていた。
「普段はこんな小さそうな神社、見向きもされないんだろうにな。」
「催事の時には盛り上がる。 地元の催事とはそういうもの。」
「今日が新年だから浮かれてるだけなんじゃ?」
「そういう考え方も出来るよねぇ。」
そんな会話を挟みつつ真面目達は参拝列へと並ぶ。 人混みではあるものの、並んでいる所に横入りしようとする輩はまずいないので、押し潰されそうになることに目を瞑ればはぐれることも無いだろう。
そしてお賽銭箱が目前となったところで、みんなが財布を取り出し、小銭を握る。
「みんないくら出した?」
「5円玉だぜ。 ご縁があるってことでな。」
「僕は更に10円玉も出したよ。 2で割り切れないから「縁が切れない」って意味合いを込めて。」
「こう言うのってお金の大きさって関係あるんだっけ?」
「気持ちの問題だから、あんまり意味はないって、聞くけれど。」
「信じる人にはちゃんとやってくるでしょ。」
皆が思い思いに語っていると、いよいよ自分達の番になる。 お金を賽銭箱に入れて1人ずつ鐘を鳴らし、二拍手一礼をしてそれぞれ今年の想いを込めながら手を合わせる。
賽銭箱から離れて改めてどうするかを考える。
「とりあえずおみくじやっていかない?」
「そうだな。 今年の運命はどうなるやらってな。」
「おみくじとは言え過信のし過ぎは良くないんだけどね。」
とはいえやらないという選択肢は無いためそのままの流れでおみくじ屋に出向く。
おみくじ屋に行くとそこもかなり並んではいるものの、おみくじ用の木の筒から出た数字を棚から探す感じだったので、回転率は早かった。
「いらっしゃいませ。」
アルバイトの巫女さんにお金を渡し、それぞれ木の筒を振り、その数字の場所の棚を開けて中身を取る。
全員が揃ったところで中身を確認する。 真面目と岬が中吉、隆起が小吉、得流が吉、下と叶は大吉となっていた。
「うぇーマジか。 今年ついてなさそうだぜ。」
「小吉って吉よりも上だっけ? 下だっけ?」
「良さで言えば吉の方がいいらしいけど、気持ちの持ち用なんだと思うよ? ほら、木山君のそれにだって書いてあるでしょ?」
「ほんとだ。 まあ吉は吉だからってことで前向きに生きろって事だろうな。 そっちはどうだ?」
「まあまあな内容。 挑戦に関しては「気を待て」って書いてある。 「やるなら今!」って感じの内容じゃないみたい。」
「のんびりやってればいいってことじゃない?」
「それはそれでどうなんだろ?」
そう頭を悩ませつつ、縁結びのところでおみくじを結んだところで、改めて境内を見渡した。
「さ、やることも済ませたし、あとは楽しみましょうよ!」
「初詣の楽しみだからな! 見て回ろうぜ!」
そう得流と隆起がはしゃぎはじめたので、それに乗っかることにする。 新年から大にぎわいになりそうだと真面目は思ったのだった。




