変化の合った1年を乗り越えて
クリスマスイブでの岬とのお出掛けを終えてからの真面目の年末は何だかんだと忙しい日々を過ごしていた。
真面目もバイトは出来る歳になっているので、今年のクリスマスは壱与の洋菓子店に手伝いに入った。
とはいえ作ったり配達等は無理なため、お客さんにケーキを提供したり、レジ打ちが主であったが、それでもお店の売上や運営には貢献していたので、日給が貰えたりもした。 勿論真面目達家族が食べる用のホールケーキも用意されていた。 どうやら真面目が来たことによる感謝の想いでで、従業員が合間を縫って作っていたらしい。
押し返すのも悪いと思い、壱与は先に帰る真面目にケーキを渡して、自分はお店の片付け等をしていき、ケーキを家族で楽しんでクリスマスを終えた。
そこから年末に向けて宿題を終わらせたり(定期的にある程度は進めていたので年末に入る前に終わった)、本や動画を観たり、ゲームをしたりと、性別が変わる前と何ら変わらない生活を送っていた。
勿論自堕落にならないように夜遅くに寝ても朝の時間はしっかりと守っていた。
そして年内最後の週末ともなれば、一ノ瀬一家の大掃除がある。 ほとんど大掃除がいらないほどにどの部屋も整っているので、行うのは冷暖房のフィルターやキッチン周りである。 壱与がキッチン掃除をしている間に真面目と進はソファなどを一度別の場所に移動させて、床を軽く掃いた後で一気に雑巾掛けをする。 そして天日干ししていたものを中にしまいこみ、各々の部屋を掃除して終わりである。
年越し用と年明け用の食材を買ってきて、色々と仕込みを済ませている日々を過ごしているうちに、気が付けば12月31日のお昼頃になっていた。
『今年も残すところ後半日となりました。 皆さんはどのような一年になりましたでしょうか? かくいう私も・・・』
テレビをつければ年末特番が各チャンネルで放映されている。 真面目は特にこれといった番組に固執していないので、適当に観た後にテレビを消す。 するとキッチンから出汁の匂いがしてきたのでそちらを見ると、既に年末年始に出す料理に奮闘している壱与の姿があった。
「母さん、流石に真っ昼間から年越しそばの準備はどうかと思うよ?」
「こういうのは早い方がいいのよ。 それに出汁は他の料理にも使うから多めに作っておいて損は無し。」
鼻歌交じりに包丁で食材を切っている様子を見るに、苦労することに苦はないのだろうと真面目は思う。 そもそもクリスマスという激務を乗り越えた壱与にとって2、3日分の食事の作り置きなど今更なのである。 真面目が小学校低学年頃から続いているので、ある意味では見慣れていた。
「手伝うことがあれば言ってよ? 出来る限りは協力するから。」
「大丈夫よ。 なんのために大掃除を終えた後に買い物をしに行ったと思ってるのよ。」
それもそうかと真面目は思いながらお昼を過ごした。
時刻は夜の11時頃。 今年も残すところ後1時間ほどまでに迫っていた。 この時間帯になれば紅白歌合戦や年明けカウントダウンの生放送など、テレビは大にぎわいだ。
「真面目。 姿形が変わった今年はどうだった?」
進からそんな言葉を受ける真面目。 今年の一年を振り返る意味でも真面目は天を仰ぐ。
「とにかく女性がツラいって言う気持ちは十二分に分かったかな。 服装然り、周りからの目線然り、生理然り。 男の身体のままだったら、何て言うか、その苦しみと付き合うこと無く過ごすんだなって思ったら、この現象もちょっとは役に立ってるのかもね。」
「自分の感想を聞きたかったのに、誰目線なのよあんたは。」
真面目の回答に壱与が呆れるように返す。 自分の感想を言った上だったのだが、そこまでは伝わらなかったらしい。
「とは言え、まだ1年が終わっただけだからね。 大学生くらいまではそのままの姿だから、まだまだ知らないことを学んでいく事も出来る。 来年はどんな1年にしたい?」
「どんな1年かぁ・・・」
真面目は再び考える。 次はどんな1年にするべきか。 どんな自分になるか。
「・・・とりあえずは無病息災?」
「相変わらず欲がないわね。」
「仕方無いじゃん。 パッと思い付かなかったんだから。」
「ははは。 まだ先は長いんだ。 ゆっくり考えるのもいいさ。」
「そうは言われてもなぁ。」
そう言いつつも何だかんだとやってみたいことなんかを頭に浮かべてはいるものの、なかなかこれだ、というものが見つからないものである。
そうこうしているうちに今年も残すところ後15分のところに迫っていた。
「そろそろお蕎麦を食べましょうか。 ネギとちくわでいいわよね。」
そう言って壱与が蕎麦を軽く茹でた後、それぞれの器に入れて、汁を注ぎ、市販のネギとちくわを添えて盆に乗せて真面目達の前に置く。
「ありがとう壱与さん。」
「ありがとう母さん。」
箸を持ち、軽く感謝の儀を唱えた後に、まずは出汁の効いた汁を飲む。 そして蕎麦を啜りながら、テレビのカウントダウン開始の合図を待つ。
蕎麦を食べ終わる頃に1分前のカウントダウンが始まった。
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・ハッピーニューイヤー!」
完全に年を越したことを確認して、真面目達はそれぞれが頭を下げていく。
「今年もよろしくお願いいたします。」
「今年もよろしく。」
「よろしくお願いいたします。」
恒例の挨拶をしたところでNILEの通知を見ると、既に用意されていたかの如く、皆からのあけおめメッセージが飛び交っていた。
「なんか・・・凄く騒がしく感じるなぁ・・・」
「んー? いいんじゃない? そうやって次の年になってもちゃんと友人でいてくれる子達がいてくれて。 大人になると友人と言うか、プライベートで気兼ね無く接してくれる人なんて少なくなるものよ? あ、あの子達からもメッセージ届いたわ。」
壱与が言う「あの子達」とは自分の妹達のことである。 連絡があるのは良いのではないかと思ったりしている真面目であった。
「真面目。 折角だから初詣にでも行ってきたらどうだい?」
「初詣・・・でもこの辺りって日の出が見える場所あったっけ?」
「初日の出を見るのが全てじゃないよ。 それに近くても遠くても神社でのお参りは行っておいた方が、新年の切り替えには十分だろ?」
進の言葉に間違いはない。 真面目とて神を信仰こそしていないものの信じていないわけではない。 年初めの運試しのおみくじだって毛嫌いはしていない。
「んー、初日の出のためにこのまま頑張って起きているか、それとも初詣の為に一度寝るか・・・」
そこは高校生の肉体であるため無理矢理起きていることは可能だろうが、あまり身体に負担は掛けたくない真面目であった。
そんな時にNILEからこんな連絡が届いた。 送り主は岬であった。
『みんな、初詣に行く前に私の家に来てくれないかな?』
そんな一言が送られてきた。 真面目は時間帯を改めて聞いた後に、一度就寝しようと自室へと戻った。
「僕は寝るからまた朝になったら起きるよ。」
「そう。 おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
そんな真面目達の新年は始まったのだった。




