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忙しい年末 7

「あ、そういえば洋服新しいのを買わないといけないかな?」


 暦で行けば今日はクリスマス二日前。 岬との遊園地はいよいよ明日になるので、その事も考えなければならなかった。


「んー。 自分の服の状態はっと・・・」


 クローゼットの中身を確認してみる。 これと言って拘りを持たない真面目のため、というのも不思議な話だが、壱与が定期的に服を買ってくる様になり、いい意味でも悪い意味でも洋服選びで迷うようになった。


「遊園地に行くからちょっと動きやすい服装の方がいいかな? あぁでも今年のクリスマスイブは寒くなるって言ってたような気がする。」


 そんな風に思いながら真面目なりに選んでみたのは少し厚めのシャツにジャンパー。 そしてジーパンである。


「カジュアルかと問われると・・・そうじゃないような気がするんだよねぇ・・・ それにお洒落ともちょっと違うし。」


 一度脱ぎ捨て次に着たのはロングフレアスカート。 上は普通のシャツにして穿いてみる。 少し左右に揺れるだけでフワリとスカートが靡く。


「乗り物によっては危ないかも・・・」


 スカートは風が吹くと捲れ上がってしまうため、細心の注意が必要なのだが、そんなことを気にしていたら遊園地を楽しむなど二の次になりそうだった。


 次に確認したのはサロペット。 動きやすいが可愛らしさが少し足りないような気がする。


 次にコルセットスカートと呼ばれる、胸元辺りにスカートの裾が来ている服だ。 胸が大きくてもかなり綺麗に着こなせるがお腹周りが少し苦しい。


「・・・んー。 決まらない・・・」


 服を決めることが出来ないでいる優柔不断な自分に嘆きつつ、女子のコーデは本当に大変で時間がかかると言う事を身に染みて分かった真面目である。


「でもこれだけ服があるのにまた追加で買うのもなぁ・・・」


 今朝の夢の話ではないが、元に戻った時にこの服達は果たしてどうなってしまうのだろうかと考えてしまう。 捨てることはまず無いだろうが着て貰えなかったと考えると勿体無いようにも感じる。


「とにかく明日着ていく服を選ばないと。 相手が朝倉さんとは言え流石に出掛けるんだから不粋な服は選べないよ。」


 うんうんと悩みながら衣服を持ち上げていると、1つ変わったスカートが入っているのが分かった。


「これって・・・あ、ズボンとスカートが一体化してるやつだ。 何て言ったっけ? スカンツ?」


 折角なので穿いてみることにしてみた。 下の方は相変わらず心許ない気がするが、それでも完全に無いわけではない安心感がある。 具体的には慣れた感覚と言った方が正しいだろう。


「おー。 これいいかも。 これなら上は・・・」


 そう言ってスカンツに合わせたコーデを考えに考えて、ようやく納得のいく服装に仕上げることが出来た。


「あとは髪型とかアクセサリーかな?」


 そう言えばと思い自分の小物入れ(これもいつの間にか壱与が買ってきていた)に入れていたネックレスを取る。


「まあこれくらいなら目立たないし。」


 そう言って真面目は小物入れに戻す。 色々と出し入れしたせいか部屋が少しだけ汚くなったのを見て、掃除機を持ってきて少し早い部屋の大掃除をするのだった。


「ふぃー。 こんなものかな?」


 やりきった感じになった真面目は、携帯の時計を見てみる。 時刻はお昼近くを回っていた。 お腹をさすれば朝からなにも食べていなかったことを思い出して、自室を出る。


「流石に今日はあるからね。 出掛けなくても大丈夫。」


 ルンルンな気分で下へと降りていく真面目。 そしてキッチンへと入っていき、コンロの上にある蓋のされた寸胴の前に立つ。 蓋を開けてお玉を取り出し、別の容器に2杯ほど移し変えてラップをしてレンジに入れる。 骨自体は既に捨てられているが中の野菜や食べきれなかった数個のチキンが入っているため十分なスープになる。


「今夜はこれでラーメンにするっていってけど、分量を減らす意味でも食べておかないとね。」


 レンジの中から香ってくる旨みに心踊らせながら冷蔵庫の上の食パンを手にとってレンジの前で待ち、温め終わったのを確認して、火傷しないようにミトンで容器を持ってそのままテーブルへと持っていく。 その後にお茶とコップを用意して食べる準備が整った。


「いただきます。」


 手を合わせた後に一匙分スープを掬って、熱を冷ましながら口に含んでいく。 骨から出たガラの味と野菜の旨みが口の中に広がる。 これだけでも十分なスープである。


「寒い日にもってこいだよね。」


 そんな感想を述べながら真面目の昼食は過ぎていった。


「ふぁ~あ。 お昼を食べたら眠たくなってきた・・・」


 スープを綺麗に平らげた後、部屋に戻れば朝にはなかった太陽の暖かさが部屋の中にあり、そんな絶妙な温度の中に満腹中枢が満たされた脳で入ればどうなるか明らかだった。


「昼寝でもしようかな? あ、でも宿題も済ませないといけないんだよなぁ。」


 高校生であるので冬休みとはいえ課題は用意されている。 とは言え夏休みほど多くもなく、既に半分以上済ませているので、焦る必要すら無い。


「でもこの陽気に当てられるとなぁ・・・ふぁぁ・・・やっぱり寝ちゃおう。 世間がどうこうとか関係無いし。」


 そうして布団に潜るように入り、気が付けば寝息を立てていたのだった。

 真面目が目が覚めると、携帯に1つの通知が入っていることが分かった。 内容を確認するべく携帯を触る。


「ええっと、誰からだろう。 ・・・あ、浅倉さんだ。」

『ハロー真面目君。 明日の準備は出来てる?』


 簡素なメッセージに真面目は今朝の事を思い出す。 明日の事を考えながらコーデを選んでいた自分は、さながら遠足を楽しみにする子供のようだったなと思う真面目。 そんなことに思い更けながら、岬に文面を返す。


『とりあえずは大丈夫。 他に何か必要なものとかある?』


 用意をしてくれたのはあちら側だが、こちらも用意できるものなら用意はしておきたいと思っていた。


「浅倉さんの事だから返信には少し時間がかかるんだよね。 まあそれまではのんびり過ごしていよっと。」


 そう言って真面目は棚から漫画を取り出す。 最近はまともに読んでいなかったせいか若干ほこりが被っているが、汚れてはいないのであまり気にしない。 時刻も夕方に近くなってきており、太陽も大分傾いてきて、空の色がオレンジと紫のコントラストが美しい景色になっていた。


「いよいよ明日かぁ・・・」


 明日はクリスマスイブ。 今までは無縁ではなかったものの、やはりそれほど大きなイベントとは思っていなかった。 というよりも壱与のクリスマスが終わった後の「やりきった感」を見ていると、こんな母の状態で物をねだるのは憚れると幼いながらに感じていたため、労いのためにクリスマスプレゼントなどをねだったことはないのだ。


 なので良い意味でも悪い意味でも、真面目にとっては特別な日になることは間違いなかった。


 そして岬から連絡を確認する。


『大丈夫。 でも大きい荷物を入れるための入れ物はいるかも。』


 そんなものがあったかと真面目は思考しつつ、「分かった」の一言だけ打ち返して、その日の夜を過ごす。


 夕飯を食べ終えた後、残っている宿題をやったり、ビーハンをソロで潜ったりと色々としているうちに寝る時間になっていた。 明日は早そうなのでそれも予て早く寝る予定にしていた。


「昼寝したからちょっと眠たくないけど、明日の事を考えると、今のうちに寝た方がいいんだよね。 っと、その前に。」


 完全に寝る前に岬に文面を打っておくことにした。


『明日楽しみにしてる。 おやすみ。』


 その文だけを送って真面目は眠りにつくのだった。

就寝前の岬

「・・・うん。 私も楽しみ。」

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