忙しい年末 6
火山の中枢部。 そこで4人の狩人の前に立ちはだかるのは、岩よりも固い鉱物を背負った亀。 「テツガメラ」である。
最初に切り込むのは大剣を持ったダンソウ。 テツガメラは潜る速度は圧倒的に速いが、それ以外の挙動が遅い。 その為ダンソウが大振りを構えても、逃げる様子はない。 逃げられないのではなく、逃げなくてもいいと考えているからだ。 何故なら
「ガチッ!」
テツガメラの背中にある甲羅にはこの火山の中にある様々な鉱物の集合体。 そう易々と刃が通るものでもない。
実際にはゲームであるので、そのような表現はあまり無く、大剣を振ったダンソウが弾かれるモーションを取るだけである。
しかしダンソウもゲームの中では何度も戦ったことのある相手、今更刃が通らないことを悔しがるレベルではない。
なので今のダンソウの役割は少しでもテツガメラの目線を自分に向けることにある。 他の3人は主に遠距離もしくは支援武器であるため、前線に出ることは少ない。
そしてダンソウに視線が向けられている内に、ロマリーが弾薬の装填をし直す。 今回は敵が敵なだけに、ロマリーが持ってきた弾薬もいつもとは異なっていた。
敵の装甲が堅い場合、並の弾丸ではその甲羅に弾かれてまともにダメージが通らない。
その為に今回用意してきたのは「貫通弾」。 弾自体が発射される瞬間に高速回転を行う事で、堅い装甲を削るように進んでいき、そのまま内部にまで弾が届く仕様になっている。 ただし通常弾と違い持っていける弾薬の数には限りがある。 更に言えば装填できる数も限られている。
しかしそこはガンナーとしては怠らないロマリー。 備えあれば憂いなし。 荷物自体はかさ張るが補給できるよう調合素材を持ってきていたのだ。
準備も出来たと言うことでロマリーはボウガンを構える。 狙うのは背を向けているテツガメラの尾。 甲羅を直接狙っても傷が少なければ弾の無駄である。
そう、ロマリーが狙っているのは内部からの甲羅の破壊。 外側が厚い装甲でも内側まで堅いとは限らない。 ロマリーは狙いを定めて発射し、尾から甲羅に向けての直線上を貫通弾は進んでいく。 そして甲羅から弾が飛び出す。
ロマリーは続け様に貫通弾を連射していき、ある一定方向の甲羅に傷が付けられる。 そこに向けてLがブーメランを構える。
しかしテツガメラはそう簡単に攻撃をさせるわけもなく、足下を砕いてLに向けてマグマで熱された岩盤をぶつけてLは飛ばされる。 ゲーム的表現の為その程度で済んでいるが、本物だったら大惨事もいいところである。
ゲーム時間にして約20分。 甲羅が割れたということは敵も弱っていることを示している。 案の定テツガメラは足を引き摺りながら別の場所へと移動するようだ。
4人は動かない。 疲労や激痛からではない。 待っているのだ。 テツガメラが移動するのを、待っている。
移動したのを確認してから4人も動く。 向かったと思わしき場所でテツガメラはなにをしているか。
眠っていた。 敵に襲われた時、対処できずに敵前逃亡するのは自然界でもよくあること。 しかし敵が完全に見失った訳でもなく眠るのは隙を晒すことと同義である。
4人は眠っているテツガメラの下に行き、1つのアイテムを設置する。 その間にセノーは別のアイテムを取り出す。
テツガメラは下に設置してあった落とし穴にはまり、突然の事で身動きが取れなくなっている。 そこをセノーが捕獲用の睡眠弾をテツガメラにぶつけていく。 1つ、2つと投げてテツガメラは再び眠りについた。 これにより捕獲が完了したのである。
画面には「依頼達成」の文字が映し出される。
【お疲れ】
【お疲れさん】
【お疲れ様】
【お疲れ。】
それぞれが終わりの挨拶を終えて、報酬画面へと移行して素材などを確認する。 今回の目的はLの素材集めのため、そのまま流れるように報酬を回収していく。
報酬金を貰い、画面が集会所に移り変わった辺りで、真面目の携帯が鳴る。
『みんなありがとう! お陰で造ることが出来たよ!』
『ふぃー。 あいつを相手取るのは流石に骨が折れるぜ。 素体がそもそも強いから部位破壊も楽じゃねぇ。』
『まあまあ。 目的は達成したんだし、今度は少し楽な依頼でも行こうよ。』
「そうだね。 僕ももう少し活躍できる場所が欲しい。」
セノー、真面目の主力武器は鞭であるためテツガメラにダメージはおろか攻撃がまともに通ることはない。 拘束をしようにも大きさが大きさなだけに、ただ縛るだけでも力負けしてしまうのだ。
『その分こっちがやりやすく動いてくれてたから気にしてねぇよ。』
『そうそう。 あの場面での罠の設置とか本当にありがたかったよ。』
『鞭を使っていただけあって、味方の支援もこなしていたよね。 あの辺りは使い手じゃないと出来ないと思うんだ。』
その代わりと言って皆が真面目を褒め称える。 実際に罠を設置する場所も考えられていたし、時には自分の鞭を使って敵から引き離したり、攻撃の起点にしたりと、割りと役には立っていたのだ。
『んじゃ、次はどうする?』
「続けるのはいいけど、みんな時間大丈夫? 明日予定があるならそろそろ打ち切らないと。」
時刻を確認すれば、日付が変わる手前まで来ていた。 後は寝るだけの状態にしてはいるし、冬休みなので学校の事も気にせずに夜更かしできることも分かるが、そこは学生であるのであまり生活リズムを崩すと元に戻すのは容易ではない。
『あたいはちょっと難しいかも。 昼からだけど家族でお出掛けするし。』
『そうか。 じゃあこの辺でお開きか?』
『その方がいいかもね。 それじゃあまた別の機会に。』
『おう。 冬休みはまだ終わらないからな。』
「それじゃあみんなお休み。」
そう言って通話を切った後に画面も集会所から出て自室でセーブをしてからゲームの電源を落とす。
「ふぅ。 さて僕も寝ようかな。」
そうして真面目も改めて眠りにつくことにした。
真面目は目を覚ます。 いつもの部屋、いつもの空気。 いつも通りに自分の部屋を出ようとする真面目。
しかしそのまま部屋は開けられること無く、前にあった姿鏡を見ることになる。
「・・・元の姿に戻ってる?」
そう、今の真面目の姿はここ1年で見慣れた女子高生の身体ではなく、本来の「一ノ瀬 真面目」という男子高校生の姿に戻っていたのだ。
改めて自分の身体を見直してみる。 背は高めなもののやや貧弱さを物語る四肢。 髪はうねりがあるが前髪まで垂らされた黒髪。 この姿こそが一ノ瀬 真面目の本来の姿である。
「・・・どうしてこの姿からあんな美少女になれるのかねぇ。」
自分でも衝撃を隠せないほどの美少女になっていた自分。 この見た目からでは本当に想像できなかった。
「んー、とはいえ元に戻ってもやることがなぁ・・・」
ピンポーン
真面目が考えていると下からインターホンが鳴らされたのが聞こえてきた。 届け物か何かと思いつつ、下に降りていく。 両親はとっくに出ていってしまっているであろう時間だったので、真面目が部屋から出て玄関へと向かう。 そして扉を開ける。
「はーい。 どちら様です・・・か・・・?」
扉を開けた先に誰かが立っているのは分かるが、太陽の光に当てられているせいか、顔が影になって全貌が見えない。
「おはよう一ノ瀬君。 私との約束は覚えてる?」
「約束・・・というか、誰?」
眩しくて本当に見えない真面目に対して、その人物は不機嫌そうにこう言った。
「忘れるなんて酷いと思う。 私だよ。 浅倉 岬。」
「・・・え?」
そう言ってどんどんその光が強くなっていき・・・同じ天井を改めて見上げていた。
身体を起こし、自分の身体を見れば、目の前に飛び込んできたのは豊満に発達した胸部だった。
「夢・・・ってことね。」
安堵と困惑が錯綜しつつも、納得すれば何て事はなかった。
「それにしてもいつか浅倉さんの素顔を見ることになるのかな?」
遠いようで近い未来のことを考えながら真面目は今日をどう過ごすか考えるのだった。




