忙しい年末 5
その後結局時間は合わせられるということで真面目と刃真理は夕食後に改めて誘い直すことにして、お互いに別々の事をするのだった。 もちろん真面目もあまり腕を鈍らせてはいけないと、宿題をある程度片付けた後にビーハンをやり、両親が帰ってくるのを見計らってリビングへと降りていく。
「お帰り、父さん。」
先に帰ってきていたのは進。 職業柄上年末年始という概念が少ない彼ではあるものの、お店自体は早めに切り上げる為の準備は整いつつある。
「ただいま真面目。 今年もこれを買ってきたよ。」
そんな彼の近くにある袋を確認すると、有名チェーンのフライドチキンのバーレルパックだった。
「毎年恒例だよねぇ。 今年高くなかった?」
「この時期は値上がりしてでも買う人がいるのさ。 今までの売上を取り戻すかのようにね。」
「まあ結局考えてることはどんな時代でも変わらないって事だよね。 あ、ご飯普通に炊いたけどいる?」
「勿論。 おしぼりも用意しておいてくれ。」
「分かった。」
そそくさと男2人(片方は性別変換)で夕飯の支度を行い、そのタイミングで壱与も帰ってくる。 普段よりは遅い帰りではあるものの、パティシエという職業であることと、時期が時期なだけに大忙しなのだ。 その代わり年末年始はお店はお休みにしてある。
「ただいまぁ。 そこまで匂いが届いてたわよ。」
「お帰り母さん。」
「やはり香辛料の匂いはよく届くものだね。」
そう言いながらも真面目と進は壱与がシャワーを浴びてリビングに戻って来る前に食事の支度を済ませるように動いていた。
そして壱与が戻ってくる頃にはバーレルパックの箱はテーブルの真ん中にスタンバイされ、自分用に取り分けるための小皿とお椀一杯のご飯が用意されていた。
「お待たせ。 少し冷めちゃったかしら?」
「そんなことはないよ。」
「むしろ少し冷めたくらいが火傷しなくて丁度いい。」
そうして全員席に座り、手を合わせる。
「「「いただきます。」」」
食前の儀を済ませてそれぞれでチキンを取って食べる。
「疲れた身体に脂が沁みるわねぇ。」
「その言い方はどうなの母さん。 そう考えると僕はそんなに外に出てないから多くは食べられないかも。」
「まあ、残ることは無いだろうから、大丈夫だろう。 ほら、チキン以外もあるから、しっかり食べるんだよ。」
そう言いながら食事を続ける。 テレビなどもほとんどつけないため、静かな食事を過ごしていくのだった。
「ところで今年のクリスマスはどこかに出掛けたりするの?」
夕飯も終わり、食べるための準備を真面目と進がしたので、片付けは壱与が一任してやっていた。 とはいえほとんどがゴミ箱行きになるのだが、骨は一度出汁を取る為に大鍋に入れられている。 ついでに使いきれなかった野菜くずなんかも入っているので、本格的なスープになるだろう。
そして先程の質問に対して真面目はすぐに答えは出なかった。
「うーん、出掛けると言えば出掛けるんだけど・・・」
「なによその煮え切らない答えは。」
「いやぁ、目的地がハッキリしていないって言うか、出掛けること以外なんにも知らないと言うか・・・」
「どういう約束してきたのよあんた・・・」
壱与が呆れるのも無理はない。 真面目は確かに岬に「その日は空けておくように」とは言われたものの、それ以上の事を話しかけられたり互いに意見を出しあっていないので、どんな予定なのかが未知数なのだ。
「当日まで分からないのは少し怖く感じるね。 それとなく聞いてみるのはいいんじゃないかな?」
「簡単には教えてくれなさそうだけど・・・」
行動を起こさないよりは、と言った具合で真面目は自室に戻る。 ゲームの電源を付けつつ岬にNILEにて連絡を付けてみる。
『前略。 冬休みはいかがお過ごしでしょうか? 来るべき約束の日付が近付いておりますが、ご予定としてはどのようになるのでしょうか?』
「堅苦しいかもしれないけど、無難な文章だと思う。 送信。」
そうして送った後にビーハンの画面に目を通して、メンバーがいるであろう集合場所へとキャラクターを移動させる。
「あ、まだ誰も来てないんだ。」
真面目達の間でローカルメンバーでやるための部屋を作っており、その場所に入ったのはいいものの、まだ誰も来ていなかった。
「少し待っておこっと。 あ、そうだ。 お昼に言ってきたから持っていくアイテムを補充しておかないと。」
合流する前の準備を行いつつ、どんなクエストに行こうかと受付で確認していると、メッセージログに通知が入った。
「あ、来た。」
【オッスセノー。 今日はどのクエスト行く?】
【みんなが一度集まってからかな。 それ新装備?】
【おう。 見た目はゴツいが性能はなかなかの物だぜ。】
今隆起もとい『ダンソウ』が装備しているのは蒼一式の針が鎧のあちらこちらから出ているもので、見た目やダンソウの大きさも相まって刺々しさを増していた。
【そう言うそっちは回避特化か?】
【これでも実は拘束力は増してるんだよね。 スキルの中にそう書いてあったからさ。】
一方の『セノー』は腕部以外の部位は最小限の装甲しかなく、素早さや回避性能を大幅強化した武装となっていた。
【セノーは俺達のメンバーの中じゃサポートに近いからな。 そこまで前線に出ることは無いにしても、心許なくないか?】
【そこは腕の見せ所だよ。 前作からの鞭使いは伊達じゃないからね。】
これでもと言った具合にグッドサインのモーションを取るセノー。 ダンソウも実力自体は知っているので、それ以上はなにも言わなかった。
【んじゃとりあえずあの2人が来るまでなんか適当に行くか。】
【そうだね。】
そうしてダンソウがクエストを選別している間に真面目の携帯が鳴る。 どうやらNILEの通知のようだ。
「あ、朝倉さんからか。」
『こっちはボチボチ。 実は遊園地のチケットを2枚、くじ引きで当てたってことで、私に渡されたんだよね。 それで日程がクリスマスイブまでだからその時に行こうって思って。 どう?』
「ふーん。 遊園地だったんだ。」
『ありがたいけどそれって朝倉家で使ったりしないの?』
そこだけ送信してゲーム画面に戻ると、いつの間にか『L』と『ロマリー』の名前もあった。
【そっちがなんかやってる間に集まっちまったよ。 なにやってたんだ?】
【ちょっとNILEをね。 それよりも行くクエストは決まった?】
【あちきの装備で素材が足りないから手伝って貰うことにしたんだ。 クエストは掲示板に貼ってあるよ。】
【どれどれ・・・? 『我が道を遮るは岩石よりも固く』? あ、もしかして狩猟対象の爪?】
【そう! それがあればあちきの装備の最上位になるの!】
【そう言うことなら喜んでいくよ。 あ、ちょっと待ってて。】
またもや携帯からNILEの通知音が聞こえたので、そのまま開いてみる。
『お父さんとお母さんは別で出掛けるし、名瀬さんもそれについて行く。 だから問題はないでしょ?』
問題ないと言えば問題はない。 なので真面目もそれに対して返信をする。
『分かった。 それじゃあまたその日になったら改めて予定を組もう。』
そう返信を送った後に真面目はビーハンへと目線を移した。
「今夜は眠れないかな?」
仲間達の狩猟状態にもなるが、1日が長くなりそうだと思った真面目なのだった。




