終業式
冬休みまでの1週間と言うものがあっという間に過ぎていき、全校生徒及び教員は体育館へと集まっていた。 本日は州点高校の終業式。 次にこうして全校生徒が集まるのは年明けになることだろう。
『それではこれより、州点高校2学期終業式を始めます。 校長先生のご挨拶。』
校長が壇上に上がり、全校生徒を見渡す。
「皆さん。 2学期には文化祭がありました。 1学期の時よりも仲が深まった人はいますか? もちろんそれだけでなく、運動部、文芸部共に様々な事があったと思います。 そして1年生の皆さんは身体が変わった1年終えて、また新しい1年が始まります。 心身ともに慣れてきた部分も多いかと思われますが、だからこそ身体は親身に扱ってください。」
校長先生の言葉が一区切りついたところで、再び言葉を紡いでいく。
「さて年末年始を迎えるに辺り、皆さんはどのように過ごされますでしょうか? 卒業を間近にした上級生は受験や就活も終わり、気楽に過ごすものもいます。 在校生の皆様もそれは同じこと。 ですがそんな浮かれ気分だからこそ、最後の最後まで油断をしないことも大事です。 耳にタコが出来るかのごとく言っているかもしれないですが、昨今は異性交流のあり方について特に厳しくなっております。 犯罪者にならないにしても、節度は常々守っていただきたいと、私を含めた教員全てが思っていることであります。 私からは以上です。」
そして校長先生の話を終えて壇上を降りていった。
「校長先生ありがとうございました。 続きまして生徒会長 高柳 銘によります、生徒会長降任の挨拶をお願いいたします。」
紹介と共に壇上に上がった銘。 緊張はしていないように見えるが、深呼吸を行って改めて全校生徒の前に向く。
「諸君ごきげんよう。 生徒会長であった高柳 銘だ。 皆のお陰で私が1年間生徒会長として過ごしていくことが出来たことを心より感謝する。 私達にとって年明けの3ヵ月というのは過ぎる時間が早いと感じるものもゆっくりだと感じるものもいる。 それらは全く不思議なことではない。」
一呼吸を終えてから銘は言葉を続ける。
「時の流れは同じであっても、感じ方は人それぞれ。 特に忙しさから解放されれば時間の流れなど麻痺するだろう。 だが努々忘れて欲しくないのは、同じ時の流れで、我々は出会えたということだ。 私はこの学校の生徒会長になれたことを誇らしく思う。 皆もその気持ちを忘れず持って、我が校の生徒として誇りを紡いで貰いたい。 生徒会長 高柳 銘。」
銘が自分の名前で言葉を紡ぐと、拍手が沸き上がった。 そしてその拍手を聞きながら銘は壇上を降りたのだった。
「校歌斉唱。」
校歌を歌い終えて、その流れで解散となり、それぞれのクラスから順に教室へと帰っていく。
そして学校側からの注意を言い渡されて、州点高校の2学期は終了したのだった。
「いよいよ冬休みだな。」
「なんだろう。 どこでもそんなフレーズを聞く気がする。」
隆起の言葉に真面目は突っ込む。 今日は真面目と隆起の2人のみ。 他の女子(男子)達は用事やらで先に帰ってしまっていた。
「真面目は冬休みどうするんだ?」
「普通に過ごすだけ・・・って言いたかったんだけどねぇ・・・」
「・・・なんだ? その含みのある言い方は。」
「・・・聞きたい?」
真面目は今からの事を思うと胃がキリキリしているようで、少々不憫にも思える。 そんな様子を見た隆起は
「・・・止めておく。 だがまあ・・・相談になら乗るぞ? 役には立たないと思うがな。 俺頭悪いし。」
「その言葉、困った時の対処法に便利だよね。」
隆起は「どっちの事だ?」と思いながら首を捻り、真面目は「ふぅ」と息を吐いた。
「ま、とりあえずは帰ってからにしねぇか? お前も「ビーハン」のDLクエスト、やってるだろ?」
「やってはいるけど・・・周回するにはちょっと骨がいるかなって思ってるんだよね。 あいつ逃げ足速いし、エリア移動で滅茶苦茶時間かかるから、諸々を考えると効率はちょっと悪い。」
「お前的にはイベント報酬で造れる武器とか防具はどうなんだ?」
「必要ないかなって言うのが本音。 時間がなくって今の急造武装で補ってるから、それの最終強化でもしようかなって思ってる。」
「そうか。」
隆起はそこで話を区切った後に改めて真面目に話しかける。
「じゃあよ。 今夜は俺とイベントクエストに行かね? 報酬も貰えるし一石二鳥だろ?」
「話の流れ的にやらないのかと思ったんだけど。」
「それはそれ、これはこれだろ? 余裕が出来たらお前の行きたいクエストにも付き合うからよ。」
隆起の「ニカッ」とした笑顔に、柔らかい表情になる真面目。 1人でもこう言った友人がいるのが何気に嬉しいのだろうと真面目は思ったのだった。
【ダンソウ。 拘束は出来たよ。】
【オッケー。 そらよっと!】
その日の夜、隆起の言うように2人はビーハンのイベントクエストをやっていた。 とはいえこれで4週目になり、その4週目も今の一撃で終わったところだ。 時間にしてみれば集会所に戻ってから再びクエストに行く時間を含めても1時間程度に収まっている。
そして報酬を確認して2人は集会所に戻る。
【どうする? もう2週くらいするか?】
【そうだねぇ。】
真面目もこのペースなら集めるのは容易だと考えたその時、真面目の携帯が鳴る。 連続して鳴っていないようなので、メールか何かが飛んできたのだろう。
【ちょっと待ってて。】
そうゲーム内にメッセージを残して携帯を確認する。 送り主はセルナだった。
「あ、日本に到着したんだ。」
どこにいるのか分からない弾丸トラベラーのように動き回っているのだが、こうして連絡を入れてきたということは、日本に着いたことを示唆していた。
『やあマジメ。 日本に着いたから連絡を入れたわ。 それと明日の事は忘れてないわよね。』
明日はセルナと出掛ける予定を付けられていることを真面目は忘れてはないなかった。 というよりも一大スターとのお出掛けなのだ。 忘れられる訳もない。
『忘れてないよ。 待ち合わせ場所はどうする?』
定型文のようにメールを返して、真面目は再びビーハンに戻る。 携帯を合間合間に見ていき、セルナからの返信が来ていないかを確認する。
「あ、返信来てる。」
『日本で行きたいところがいっぱいあるけれど、クリスマスライブの都合で移動を含めると明日しか一緒にいられないのよね。 もちろんマジメが行ける範囲を想定してるわ。 というわけでこの場所に9時に現地集合ね。』
そう書かれたメッセージの下にURLの貼られたメッセージがあったので、確認をする。
「・・・えっ、ここって・・・」
真面目は集合場所を確認した後、クエストの報酬を貰って集会所に戻ってきて、隆起から質問が飛んでくる。
【どうする? まだやれそうか?】
隆起からのメッセージとURLの場所を交互に見て、真面目はメッセージを送る。
【今日はここまでにしよう。 明日の用事でちょっと遠くに行く事になるから。】
【そっか。 それじゃまた別の日にだな。 俺はもう少しだけ周回するぜ。 おやすみ。】
【おやすみ。】
そうメッセージを送った後に真面目はゲームの電源を切り、そのまま布団に潜り眠りについた。 明日の行き先である水族館口駅のために。




