彼は性別が変わったようです
ここから本編に入っていきます。
前の話を見ていない人はそこから入ると、理由が分かると思います。
日差しがカーテンの向こうから指してくる。 その日差しを目に受けて一ノ瀬 真面目は目を覚ます。
彼は身体を起こす。 すると前のめりに重たい感覚があった。 下を見ると自分の着ている服に明らかな膨らみがあるのが分かった。 枕かと思ったがそれは後ろにあるし、なにより抱き枕など用意してない部屋の寝具なので、枕が中に入ることはあり得ない。
真面目は身体の異様な重さに違和感を感じつつも身体を起こしてリビングに向かおうとする。
そしてドアに付けられた鏡(真面目の母が身だしなみを気に出来るようにと設置したもの)を前にして、真面目は立ち止まった。
何故ならその鏡に映っていたのは目までかかるかかからないか位まで伸びた髪にタレ目の自分の顔ではなく
癖の強い毛先が跳ねた黒髪ロングにタレ目で、鼻は少し高く口の小さな少女だったからだ。
真面目は改めて自分の身体を見る。 この時通常の人間ならばパニックになったりヒステリックになるのが定番だろう。 あるいは本当に自分の身体なのかとまさぐる者もいるだろう。 それは思春期ゆえ仕方無いことだ。 しかし真面目は
「・・・ああ。 もう自分がそうなる歳だったんだ。」
至極冷静であった。 というのも真面目を始めとした同世代はそうなることを、中学3年の3学期から教われる。 理由としてはとにかく暴走しないこと、親御さんにも理解して貰うことを理解して貰うためだ。
思春期真っ只中に入るなかでこのような事態に陥った事で、性犯罪が横行するのをするのを防ぐ狙いもある。
そしてそうなると自分の容姿が気になり始める真面目は、下に降りて洗面台へと向かう。 大きい鏡は自分の部屋にはないのでここか母親の部屋にしかないからだ。
まずは改めて自分を見る。 前髪を掻き分けると顔立ちは滅茶苦茶綺麗で、真面目にとって、「美人」だの「かわいい」だのの基準は分からないが、自分の顔を見て、恐らくは「美人」寄りなんだなと真面目は思った。
そして目線を下に合わせる。 男では絶対にあり得ない程に膨らみを持った胸。 真面目がパジャマとして着ていた服がはち切れん程になり、その圧倒的存在感は、真下を見ても綺麗な谷間が見える程だ。 逆を言えば足元が本当に見えない。
「・・・日本人の胸のデカさ・・・なのかな?」
母親の胸の大きさよりも大きい自分の胸に驚愕をしている。 そして真面目も元は思春期男子。 自分の胸を下から持って、その重さを改めて確認してから、手を離す。
胸の脂肪が一気に落ちた感覚としては真面目が感じたのは「たゆん」や「たぷん」という擬音が浮かんできていた。
そしてもう一つの確認をするために、上の服を脱ぐ。 勿論留めるものなど無いので、上に上げられた胸は重力によって下に落ちる。 そして真面目はゴクリと喉を鳴らした。
あれだけ大きい胸に、綺麗な桜色の先端が両胸に見えた。 知識はあれど母親のもの以外を見たことがない真面目にとっても初めての体験だった。 自分の胸だと理解をしようとしても、ドキドキだけは止まらない。
「・・・次は・・・下・・・だよね・・・」
冷静を保ちつつもドキドキが止まらない真面目は、目で確認をする前に、自分の手で触る。
下腹部の後ろ部分。 本来なら触り慣れている筈の部分も、どこか違和感を感じた。 具体的に言えば元の自分のものよりも柔らかい事。 服の上からでは分からないので、意を決して自分の下着の中に突っ込む。 肌触りが段違いにすべすべだった。
「・・・自分で触ってて変な気分になる・・・!」
元は男で身体が女になったのだからすぐには慣れないし、なにより自分の身体で欲情をしてしまうのは、かなり問題だと真面目は感じていた。
だけどそうだと分かってしまえば後は脱いでも構わない。 そして浴室の扉を開ける。 すぐ前には全身が見れる鏡がある。
問題なのは前部分。 男ならば誰しもは一度は見てみたいと願う女性の秘部中の秘部。 何度目か分からない唾を飲み込んでから、閉じていた目を開ける。
肌は絹のような白さをしていて、触った感覚でも滑らかだった。 胸の大きさも全体を見て本当に大きいと目で感じ取れた。
そして自分の下腹部に目をやる。 本来ならあるであろう男のソレは無くなっており、代わりに女性の秘部がありありと見えた。
真面目もこれにはドキドキを隠せない。 しかしそうやっているわけにもいかないので、自分の使っている身体を洗う用のタオルに石鹸をゴシゴシとして身体を洗う。 身体を洗うためのものとはいえかなりザラザラとしたものを使用しているので、逆に怖くなってきた真面目である。
「スポンジとかで洗った方がいいんだよね。 きっと。」
色々と考えさせつつも肌が少しだけヒリヒリし始めたらしく、自分の手で身体を洗う事にした。 身体を触る度に変な感覚になってきた真面目は、髪と共に軽くシャワーを流して、浴槽を出て体を拭き、とりあえず先程の服を着ることにした。 胸に違和感が拭えないが仕方無くリビングへと行く。 今の時間ならばリビングに母がいると分かっている真面目は、顔を出すことにした。
「おはよう真面目。」
入ってきたのが誰か分かっているのか、真面目の母である壱与は挨拶をする。 真面目は一瞬どうしたものかと考えたが、それで返さないのもおかしいと思ったので、まずは挨拶を返す。
「・・・おはよう母さん。」
真面目は喋って気が付いたが、元の声よりも声が高い。 だがまだ女子にしては低い方。 なんだったら母親と同じくらいの声の高さだと感じた。 不思議に思った壱与が扉の方を見ると、そこには困惑の顔をしている真面目(女)がそこに立っていた。
「母さん、まずは・・・」
「・・・あらあらあら。」
壱与は真面目に近付いて肩を叩いた。
「随分と綺麗になっちゃってぇ。 あら、でもそのタレ目は変わってないみたいね。」
真面目は困惑し続けているものの、母の言動に1つの安堵すら覚えていた。 なんともいえない安心感の中で、真面目もいつも通りに戻りつつあった。
「貴方も見てくださいな。 うちの息子がこんなにも美人さんになったんですよ。」
そう言われて新聞を読んでいた真面目の父、進は新聞から目を離して、真面目を見る。 その後に目を見開いて驚いて、目頭に手を当てて俯いた。
「・・・とうとうこの日が来ることを分かってはいたけれど、実際に目の当たりにすると、現実逃避をしたくなるな。 いや、自分の息子、この場合は娘か? そんなことを言うのも失礼だけどな。」
父親である進も戸惑いつつも、現実を受け入れようと必死なのが真面目にも伝わってくる。 勿論自分の身に何が起きているのかをすぐには理解できないのは百も承知の事だった。
「とにかく朝御飯にしましょう。 まだ入学式には時間があるし、準備のために外に出ましょうか。」
唯一冷静、というか状況を理解している壱与だけ、早めに済ませようとしているのが分かったので、現状はそれしか出来ないので、真面目も進も普通に朝御飯を取ることにした。
真面目にとっては女体化して初めての食事となるが、今のところは変化はみられない。 ただいつもと違うのは胸の膨らみがあるため地味に口まで持っていくのに距離が出来る。 服に落ちないように手を添えなければいけないのが、少しの変化とも言えるだろう。
「真面目も随分と上品に食べるようになったわね。」
「服を汚すわけにもいかないからさ。」
とにもかくにも朝御飯を食べ終えて、一ノ瀬一家は朝のニュースを見始めるのだった。