ハジメテノトモダチ
「・・・うわぁ。」
真面目が想像していたよりも遥かに大きいその豪邸の前で、ただ感嘆の声を上げるしか出来なかった。
学校が冬休みに入るまであと1週間となった、冬休み前最後の週末。 真面目は約束の場所へとやってきていた。 家も大きければ門も大きい。 その為門の前にはSPのような格好をした人物達が立っていた。
「当然と言えば当然か。 ・・・えっとエクスキューズミー?」
真面目は英語があまり得意ではないし、そもそも向こうは英語で通じる可能性があるのか分からない。 だがこちらから言わなければ始まらないのだ。
「もしかしてお嬢の言っていた学校の友達かい? ちょっと待っててな。」
そうSPの人がインカムをいれている。 言語は日本語ではないが、中にいる誰かに連絡は入れたのだろう。 そして話し終わると再び真面目を見る。
「日本語お上手なのですね。」
「お嬢がこちらに留学するってなった時に、勉強をさせてもらってね。 簡単な日本語ならこんな感じで喋られるんだけど、日本語は本当に難しいね。」
「ははは。 まあ僕達日本人ですら、使い分けが出来ないこともありますし、意味を履き違えることもザラですから。」
「それにその格好。 半年は経つみたいだが、もう違和感はないのかい?」
「完全に無いと言えば嘘になりますね。 どうしても元々の性別であった時間の方が長かったですから。」
「日本の若者は大変ですね。」
そんな風に同情されると思っていなかった真面目は、微妙に複雑な気分になる。 そんなことを思いながら待っていると、今回の主催者であるネビュラが門の奥にある扉から現れる。
「イラッシャイマジメ。 ヨウコソワタシノヤシキニ。」
「倒置法。」
ネビュラ自体長いこと日本にいたことは無いのだろうから、こちらの片言の方が外人っぽくて分かりやすいと真面目は思った。 目の前のSPも恐らくは外人なのだろうが、日本語をそこそこ流暢に話すのでハーフなのではないかと錯覚する。
「誘われたからね。 ネビュラの家がどんな感じなのかもなんとなく知りたかったし。」
「ソレハヨカッタデス。 トコロデ・・・」
そう言ってネビュラは真面目の更に後方を見る。 そこには真面目の他に数名待ち構えていたからだ。
「ワタシ、マジメシカヨンデナイハズナノデスガ?」
「私達も気になった。 だからついてきた。 それだけ。」
代表として岬が説明した。 今回のネビュラの家への招待は確かに真面目のみだった。 だったのだが、前日に真面目とネビュラが今日の事について話しているのを偶然耳にした岬は、真面目に「自分も行く」と頼み込み、自分だけでは不自然だと思い、他のメンバーも呼んだ、というのが理由である。
ちなみにいるのは真面目に岬の他に、隆起や得流、そして叶と刃真理である。
「セッカクキテクレタオキャクサマヲ、カエスワケニモイキマセン。」
「私達も友人として招待される権利はある。 それに多い方が楽しいと思う。」
普通に会話をしているように見えるが、その間には見えない火花がバチバチと放たれているような錯覚を覚える。近付くのを憚れるようだ。
「色々と大変そうだな、お前も。」
「・・・なんでそれを僕に言うの隆起君?」
「なんでだろうな。」
隆起が分からなければ真面目に分かるわけもない。 そんなことを感じつつ、真面目達はネビュラの住む豪邸へと案内されたのだった。
中に入ればひとたび自分達がいる空間がガラリと変わる。 カーペットやシャンデリアもあるが、絵画や飾られている花瓶なども、高価な品格があるように見えた。
「ああ言ったのも母国から取り寄せたのかい?」
「ソウデス。 トイッテモ、ガカトシテハアマリユウメイデハナイヒトタチノヲ、モッテイテイマスノデ、ソコマデケイカイハシナイデクダサイ。」
「こんなところで物を壊すような人はいないよ。」
真面目もそうは言っているものの、うっかりでなにかを壊したりしてしまった場合に、賠償出来るとは思えない。 周りを見ることは常に気を付けなければならないと思っていた。
「つうかよぉ。 俺達を入れてくれたのは良いんだけど、なにするかまでは聞いてないぜ?」
「あ、そっか。 僕も説明するの忘れてた。」
今日皆が来ることは昨日決まったことであるし、ネビュラがいくら寛容だとしても説明も無しになにかを主催するのは失礼だろう。
「ワタシノスンデイタチイキニテオコナワレル、チイサナパーティー二ショウタイシタノデス。」
「パーティー?」
「僕もネビュラから聞いて知ったんだけどね。 寒い国だけど、とにかく寒い時期にアイスとかとにかく冷たい物を食べる機会があるんだって。」
「それ、お腹を、壊したり、しないんですか?」
「タシカニニホンデハ、キカナイブンカカモシレマセン。 ワタシモソノバショイガイデヤッテイナイコトニ、オドロイタホドデスカラ。」
「でも日本でもそう言った地域限定の風習や文化はあるから、気にしなくても良いと思うよ? それにほら、伝統を受け継ぐのも異文化交流の1つじゃない?」
皆が会話をしているなかで、岬はふと疑問に思ったことをネビュラに聞いた。
「異文化交流が目的ならなおのこと人手は多い方が良い。 なのになんで一ノ瀬君だけを招待したの?」
「ああ、その事なんだけど・・・」
「ネビュラ!」
岬の質問に真面目が答えようとした時に威勢の良い声がエントランスホールに響き渡る。 声のした方角を見ると、階段の最上段で仁王立ちをしている大柄な男性が目に止まる。 そしてその横には慎ましく微笑んでいる女性がいた。
「ダディ! マミー!」
ネビュラが嬉しそうにそう叫ぶ。 言わずもがな、というよりも皆も既に察していた。 ネビュラの両親なのだろうと。
『お友達を連れてくると聞いていたからどんな子が来るかと思っていたが、随分と大所帯で来てくれたんだな。』
『そうよダディ。 私凄いでしょ?』
向こうの母国語で話されているため真面目達には話の内容は伝わってこないが、真面目達を悪い目で見ているようではなかったのでホッとする。
そんな時にネビュラは真面目の腕を引っ張り、自分のところに引き寄せる。
『私の最初の友達! スッゴく美人でしょ?』
『ハッハッハッ。 確かに美人ではあるな。 だが母さんの方がよっぽど美人だ。 それにあまり引っ付くのは良くないぞ。 なにせ男の子だからね。 見た目は美人でも、中身はネビュラを襲う狼かもしれないだろ?』
『マジメに限ってそれは無いわよ。 ダディは心配しすぎ。』
向こうの言葉が分からないので何を言っているのかはさっぱりだが、少なくとも真面目を見てくる目だけは豹変したように見えた。
「ダイジョウブヨマジメ。 ダディモマミーモニホンデオキテルコトハシッテルワ。 ダカラアナタガホントウハオトコノコナノモシッテルノ。」
「え、それなら」
「それならすぐに離れた方が良い。 変に誤解が生まれるのはそちらとしても不本意になる。」
ネビュラが真面目に説明した後で真面目が自主的に離れようとする前に岬が先に間に割って入った。
「ユウコウテキナラソレデイイジャナイデスカ。 ソレトモワタシトマジメガナカヨクナルコトニフツゴウデモ?」
「そんなことを言ってるんじゃない。 だけど私達も友人として紹介してくれないと困る。」
「アトデチャントシヨウトオモッテイマシタヨ?」
またも一触即発状態になってしまったことにため息をつく真面目。 そんなやり取りを見ながらネビュラの両親は笑っていた。
『ハッハッハッ。 随分と慣れ親しんだようじゃないか。 なぁ母さん。』
『そうですね。 喧嘩が出来る程の友人が出来るなんて。』
「あ、ネビュラと岬の喧嘩のやり取りについては寛容なんだ。」
得流がなにかを察したように喋り、もう少し続きそうだなと真面目は諦めがついてしまったようだった。




