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誰に見てもらえば

「うーん。 やっぱり一ノ瀬君みたいな子が着ると物凄く映えるよ。 ぼくじゃ絶対にそこまでの魅力は出し切れないもの。」


 今真面目が着ているのは、下が持ってきたフランス人形のごとく長いスカートにフリルが存分にあしらわれたワンピースだ。 スカートであるからかスカートの中身は空洞が多く、布面積とは裏腹に歩くのが怖くなっている真面目であった。


「こんなのよく見つけてきたね。」

「元々はマネキンに着せられてたんだけど、ぼくがお願いして外してもらったんだよね。」

「何してるのさ・・・」


 下の行動に落胆する真面目。 着てみて改めて思ったのは、アクティブには動けないということだろう。 動かない人形になら着せてもいいが、動く人間に対してこの服はあまりにも動きが悪くなる。


 そんなワンピースとついでにずっと着けていた下着を替えて、元の服に戻す。 着戻してみて安心感があった。


「どう? 自分の着ている服とは方向性の違う服を着てみた感想は?」


 同じ様に真面目の着替えを待っていた壱与から質問がとばされる。


「なんか、自分じゃないみたいだったよ。 いや、本当に。」

「それで、どっちか買うのかい?」


 下の質問に真面目は悩んだ。 自分が選んできた服と壱与の選んできた服。 どちらも魅力的であるため、どちらかと言われると普通に悩んでしまうのだ。


「別にいいわよ。 私がお金出すんだから。」

「え? いや、そう言ってもさぁ・・・」

「今は気にしないの。 ちょっと買ってくるから待ってなさい。 お友達もちょっと待っててね。」


 そう言って2着の服(プラス下着)を持ってそのままレジに向かっていく壱与。 そんな光景に真面目は肩を竦めた。


「こう言う時だけは速いんだから。」

「君のお母さんって結構お洒落は好きだったりするのかな?」

「嫌いじゃないと思うけどあんまり着飾ってる所は見たこと無いかな。 でも母さんの妹の人達がお洒落好きなんだよなぁ。 お墓参りのついでに顔を見せに行ったら着せ替え人形にされたんだよね。」

「へぇ・・・」


 そう聞いた下があることに気が付いた。


「・・・もしかして夏休みの間に行った場所って、桁棟ブランドとなにか関係してる?」

「まぁ、関係してるというか・・・母さんの妹さん達が運営してるからねぇ。 絡んでて当たり前というかなんというか・・・」

「・・・ぼく、とんでもない人物と友達になったってこと?」

「別に気にすることでもないけど・・・というか僕達家族は干渉をしてないからね。 あくまでも母さんの妹さん達のブランドってだけで。」


 今の話を改めて聞けば、確かに下にとってはとんでもない大物の知り合いになったということになるのだろう。 真面目には身近過ぎて分からないだけで。


「お待たせぇ。 いやぁ流石に2つは重いわね。」

「僕が持つよ。 僕の服なんでしょ?」

「あら、助かるわ。 流石は元男の子ね。」

「何を言ってるんだか。」


 呆れながらも壱与が持っている紙袋を持つ真面目。 重いと言っていたが服が数着入ってる程度の重さなので、そんなに重くはなかった。


「服は買ったから、次はアクセサリーね。」

「母さん? 学校での過剰な装飾品は校則違反なんだけど?」

「ヘアピンとかブローチくらいなら許してくれるんでしょ? 大丈夫よ。 そんなに派手なのは選ばないから。」

「ホントにぃ?」


 疑問視を見せる真面目であったが、今日は壱与に付き合う体で動いているので、無礼講までとはいかなくても、プライベートくらいはいいかとも思っていた。


「下はどうする?」

「折角だしついていくよ。 ぼくも一ノ瀬君がどんな風に生まれ変わるのか見てみたい。」

「生まれ変わるって・・・ まあビフォーアフター的な話にはなる・・・のかな?」


 だんだんよく分からなくなってきた真面目を余所に、壱与の後を一緒についていく下なのであった。


「ネックレスは流石に無理だけど、バッジとかなら問題ないんだよね。 元々自己表現の自由な校風ではあるけれど。」

「真面目、こう言うのはどう?」

「それ耳につけるやつじゃないの? 流石にそれは受け入れられないって。」


 受け入れられないというのは「校則的に違反である」という意味である。 とはいえ真面目も耳にアクセサリーを着けるのは流石にどうかと思う節はあるのだ。


「今時の子ならこれくらい普通よ。 それに別にピアスとかみたいに穴を空ける訳じゃないんだから、痛みは無いわよ。」

「そう言うことを言ってるんじゃ無いんだけど。」


 息子に何をさせるつもりなのだろうかと思う真面目。 とりあえず真面目はワッペンやバッジのコーナーに向かう。 よくキャラクターの描かれているバッジを鞄などに付けているのを身だしなみ検査などの時に度々見かけるが、こういったお洒落に特化したものはあまり見かけない。


「こういったところのお店のバッジは花系が多いなぁ。 花言葉とかを気にしないのなら・・・」


 そう言って1つのバッジを手に取ってレジに向かっていき、そのバッジを購入する。 そして店を出たところで壱与と下と合流した。


「終わった?」

「うん。 これにしようと思ってさ。」

「どれどれ? あら、水仙花。 いいじゃないの。」


 鮮やかな黄色に目を取られてそれを取った真面目は、これにしてよかったとホッとしたのだった。


 その後下は自分の予定を思い出して真面目達と別れ、お昼時になったのでお昼を取ることにした真面目達。 フードコートは混んでいるのでテイクアウトして近くのベンチで食べることにした。


「それにしてもその服を買ったのはいいんだけどさぁ。」


 テイクアウトしたBLTサンドを食べながら紙袋に入っている今回の戦利品(服)を改めて見る真面目。


「結局出掛けるのだってそんなに遠くに行くわけでもないから、なんというかタンスの肥やしにならないかなって思ったんだよね。」

「そうならないように常日頃から着ていくことを意識しなさいな。 そうすれば虫食いにはならないわよ。」

「そうはいってもねぇ・・・」


 真面目の言い分としては「これだけ買っても誰かに見せる訳じゃない」という話だ。 確かに人目は引くかもしれないが、真面目にとってはそんなことはどうでもよかったりするのだ。 真面目は自意識が高いわけでもナルシストな訳でもないので。


「まあ、そう言ったのは特別な日とかに着るのが一番良いのよ。 あとはお友達とのお出掛けとかね。」

「これで行く意味あるかなぁ?」

「分からないわよぉ? あんたを見る目が変わるかもしれないじゃない。 普段とは違う姿を、お洒落をした異性の姿って、それはもう別次元なんじゃないかって思われるくらいに変わるんだから。」

「・・・それご都合主義のなんちゃらフィルターがかかってるとかじゃなくて?」


 そんな簡単に人は変わらないだろうと真面目は思っているので、壱与の言葉はほとんど刺さらなかった。


「さてと、食材を買って帰るわよ。」

「はいはい。 今日は何にするか決めてあるの?」

「そうねぇ。 そろそろ寒くなってきたから、お鍋でも食べましょうか。」

「おー。 ということは水炊き?」

「本格的なのはまだ先で良いからそれでいいわね。 とりあえず葉物野菜と手羽元だけはなんとしても確保するわよ。」


 そう言って真面目と壱与は食品コーナーに向かい、本日の夕飯と2週間ほどの食材を買って、店を出るのだった。

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