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イメチェンは容易い?

 真面目は帰り道で見たコンビニの本のコーナーにある雑誌の裏表紙を見てふと気になり始めていた。


「自分を生まれ変わらせる、かぁ・・・」


 おそらくファッション雑誌の裏表紙だったのだろう。 写真でポーズを決めて写っていたモデルを見て、真面目は自分はどうなのかと改めて考えさせられていた。


「んー・・・」


 脱衣所の鏡を見ながら真面目は唸る。 何度も見慣れてきた自分のもう1つの顔。 客観的に、男子の視点から見てみる。


「・・・可愛い系というよりは美人系に近いし、顔は整ってるんだよなぁ。」


 真面目の人を見た上での感想はそれが限界だった。 そんなに人の顔をまじまじと見たことはないし、自分の顔が好きだというナルシストでもない。 第三者視点というものの難しさを痛感させられただけであった。


 そしてふと自分の髪を触ってみる。 男だった時よりも時間もシャンプーやリンスの質も変えたお陰で長い髪でも手櫛でもしっかりとすり抜ける程に綺麗だ。


「個人的にはもう少し短くても良かったんだけど。」


 自分の好みには合わせてくれないかと残念がりつつも、そんな髪を指でいじる。 あのファッション雑誌のモデルは長い髪を後ろで編んでいただけだったが、躍動的な写真だった為か風を感じているようにも見えた。


「次の週末に頑張ってみようかな?」

「何を頑張るの?」


 たまたま通りすがった壱与が自分の息子(娘)が鏡を見ながらそんな風に唸っている姿に疑問を持ったようだ。


「ねぇ母さん。 今の僕を見てどう思う?」


 なりふり構ってられなくなったわけではないが、自分が客観的視点になるよりも本当の第三者から見て貰った方が分かりやすい気がした。 とはいえ身内なので参考になるのかは定かではないが。


「どうって・・・今までと変わらないわよ?」

「そうじゃなくて・・・何て言うか・・・んーっと・・・女子としてこれからどう着飾ればいいのかなって・・・思って・・・」


 真面目は今困惑している。 何を伝えたいのかがハッキリとせず、ただ漠然と「今よりもレベルアップする」としか考えられていないのだから。


「・・・あぁ、頑張るってそういうこと。 でもそのままでも十分過ぎるくらいの素質はあるわよ。 自信を持ちなさい。」

「いや自信がない訳じゃなくて・・・」

「でもそんなに真面目が変わりたいって言うのなら、私は協力するわよ? どんな手を使ってでもね。」


 そんな壱与の言葉と表情を見た真面目は背筋に冷たいものを感じた。 もしかしたら自分は取り返しのつかないことを言ったのではないかと思うほどに。


 だがここで抵抗したところで無意味であるし、何より引き下がったところで現実は変わらない。 そして母の性格とまではいかないが、こうなった時、大抵押して負けるのは子供の運命なのではないかと真面目は思っていた。 だからこそ、ここは甘んじて受けることにした。


「分かった。 だけど別にそんなに力は入れなくてもいいんだからね? あくまでも高校生として出来る範囲でお願い。」

「先に釘を打たれちゃったけど心配ないわよ。 妹達の力を借りることもないだろうし。」

「むしろ借りる気満々だったらどうしようかと思ったんだけど。」


 真面目は思っていた。 あのお二人の力を借りるまでには至らない。 というかそんなことをすれば絶対着せ替え人形のごとく服やメイクをされるだろう。 それこそ1日がかりで。


 そんなことまでして貰うつもりはないし、真面目はあくまでも高校生。 限度額などしれている。 だからこそ貧乏的にとまではいかなくても、創意工夫を施してやってくれる方が有り難い気もする。 そして目の前の母親は何だかんだで庶民の人たちとも交流が少なくない。 流行には敏感になっているはずだと真面目も踏んでの頼みだった。


「とにかく週末は空けておきなさい。 あんたのその自信の無さを変換してやるんだから。」

「だから自信がない訳じゃないんだって・・・」


 何を言っても無駄だろうかと思いつつも、真面目は真面目なりにどんな風に変わるかを予想していたのだった。


 そして迎えた週末。 朝早くなのにも関わらず妙にテンションの高い壱与と共に出掛けた真面目。


「そんなに嬉しいの? 自分の息子をコーディネートするのが。」

「だって自分の子供を着飾らせる事が出来るのは親の特権でしょ? あんたは元々は男の子だったし、ファッションにも興味ないから半ば諦めてたんだけど、こうして女の子になって自分磨きしたいってなったら、親としても嬉しいものよ。」


 真面目としてはあまり理解できない事でもあったのだが、壱与の言う通りならそういうことなのだろうと、勝手な解釈で納得した。


 壱与と真面目が訪れたのは大きめの洋服屋。 しかも女性のコーデ関連に特化した場所だった。


「こういった場所に来るのは初めてね。」

「母さんは来る機会無かったの?」

「私もコーデよりは機能面派だったからねぇ。 あんまり気にしたこと無かったのよ。」


 もしかして自分磨きに興味がなかったのは遺伝なのかと真面目は思った。 現実父親である進もお洒落はしない。 スーツが基本のような人で、プライベートも最低限出ても恥ずかしくない程度だった。


「まずはどこから行きましょうか。 もうすぐ冬も近いからモコモコファッションなんてどうかしら?」

「どうだろう? 僕としては上から羽織ったり、下に仕込んだりする程度で言いと思うんだけどなぁ。」

「駄目よそんなのじゃ。 もっと綺麗に見せなきゃ。 折角のプロポーションも台無しになっちゃうでしょ?」

「モコモコの方がプロポーション分かりにくくならない?」


 色々と会話を繰り広げつつ、真面目と壱与はそれぞれ異なった衣装を持ってくる。 壱与はフリルが多くあしらってあるゴスロリ系。 一方の真面目はちょっとロックな感じのパンク系だった。


「あんた、もうちょっと可愛げのあるものを選んできなさいよ。」

「なんか目についたんだよね。 これも可能性の1つってことにしてよ。」


 そんな感じで真面目は更衣室に入って、両方の服の試着を始めようとした時に、更衣室の後ろのカーテンの隙間からなにかが入れられた。


 なにかと拾い上げてみると、グレーのカップ数の大きいブラとそれに付属しているショーツだった。 しかもショーツの方は今真面目が履いているものよりも明らかに布面積が少なくなっていた。


 更衣室のカーテンから顔だけだして真面目は壱与に質問した。


「・・・これも着けてみろって?」

「アダルトチックなのは外観じゃなくて中身からだからね。 あんたくらいの子なら意外としてるものよ?」


 本当かよと思いつつも、持ってきてくれたものだし、なによりも真面目自身も今の下着よりも大人な感じを出していることに興味が無かったわけではないので、仕方なく、仕方なくと自分に言い聞かせながら、今している下着を脱ぎ、その下着を着けた上で自分の持ってきたパンク系の服を着てみる。


 パーカーで寒さを緩和しつつも上のシャツの存在感をアピールしている。 下はダメージジーンズっぽくなっており、そちらも真面目の足に合わせてかっちりとしていた。


 そしてカーテンを開けて壱与に確認を取る。


「どう?」

「おー。 意外と似合うものね。 でもおへそなんて出して寒くない?」

「でもこのパーカーに似合いそうな柄のシャツのサイズがあんまり無かったんだよね。 これでも大きい方なんだけどなぁ。」


 それに少しくらいくらいならお腹を出しても問題ないと真面目は思う。 太っているわけではないため、見られても問題はないだろう、と。


 そしてカーテンを閉めて今度は壱与の持ってきたゴスロリ系の服を試着してみる。


「フリルが多いし、なんかこういうのって着にくいんだよね・・・」


 それがどう言った意味の感想なのかは真面目にしか分からない。 そして何だかんだで着替え終わって目の前の自分を見てみる。


「ゴスロリ系ってこんな感じなんだ。 でもなにか足りないように見えるんだけど・・・?」


 着ている丈も先程よりは合っているし、スカートも完全に足下まで隠れてしまっているが歩けない訳ではない。 強いて言えば今は壱与の持ってきた下着を着けているせいで、いつもよりも心許ない感覚に襲われている程度だろう。


「母さん。 着てみたけどこれって本当に合ってる・・・」


 改めて壱与の感想を聞こうとした真面目だったが、更衣室の前に立っていたのが壱与ではなく下に変わっていたのに気が付いた。


「やっぱり何を着てみても似合うね一ノ瀬君。 それになにか足りないと思うならちょっと待ってて。 今それに似合うものを探してくるから。」

「あ」


 下に色々と聞こうと思っていたが、それよりも速く行動してしまった下を見て、帰ってくるまで待つかと更衣室から一旦出たのだった。

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