時間は目一杯
「ほっ!」
カキーン!
所変わって開放的な空間の屋外の階層のバッティングコーナーで隆起が豪快にヒットさせる。
「凄い。 あんなに高く飛ばせるんだね。」
「でもホームランのあの的までは行かなかったね。」
「まだまだ。 あと数センチ位なら行けるだろ。」
隆起が頑張っている姿をフェンスの向こうで岬や得流が見守っていた。 もちろん真面目も見ていた。
「おっと、もう球がなくなったか。 あれならもう少し速くても大丈夫かもな。 真面目もどうだ?」
「それじゃあ。」
そう言って真面目もバットを持って構える。 さしてボールが飛んで来たところでバットを振って、当たらずにボールは後方の安全網にぶつかった。
「なぁ真面目。」
バットの振り方に違和感を覚えた隆起が真面目に声をかける。
「なんでバットを真横に振らないんだ?」
隆起が感じた違和感とは、真面目はボールが飛んでくる位置よりも明らかに低い位置でバットを振っていた。 その為ボールがその上を掠めるため、ボールがバットに当たらないようだ。
「あーその、何て言うか・・・」
「いくら金属バットでもそんなに重たくない。 むしろ私でも振れる位軽いはず。」
「いや、別に重たいから振れない訳じゃないんだよ。 ただ・・・」
「ただ?」
「真っ直ぐ振ろうとすると、胸が右腕に当たって振りきれないんだよね。 だから多分真横に振れないんだと思う。」
そう言って真面目は真横にバットを振ってみるが、確かに真面目の豊満な胸が振りかぶろうとしている右腕を遮ってしまっていた。
「胸がでかいって言うのも悩みものだな。 なんか普通に肩凝るって言うし。」
「私には無縁の話だったから、悩みはよく分からない。」
「あたいもあそこまで大きくは育ってないから、運動はしやすかったかなぁ。」
真面目の胸を凝視する3人の視線に、終わったばかりのバッティングのスイッチを押す。 そして再びボールに対して向き合い、今度は少しバットの下の部分を持って振ってみる。
バットには当たったものの、ボールの速度が真面目の振る力よりも強かったからか、真面目のバットが弾かれるように後ろに回った。
「でもこれなら胸に邪魔されずに振れるかも。」
コツが分かってきたのか真面目の振るバットにボールが当たるようになる。 もちろん隆起のように翔ばすことは出来ないものの、確実にヒット数を稼いでいた。
「あれを女子になった今の視点でどう見る? 木山。」
「・・・ある意味では嫉妬の塊かもな。 目線が行くのも頷けるって言うか。」
「私も男子視点として目が離せない。 人の欲というのは時に恐ろしいね。」
こんな会話をしている3人のことなど分からずに。
「そっちに行ったよ、一ノ瀬君。」
「オッケー。 ほいっと。」
バッティングが終わった後はバトミントンコートで一ノ瀬・浅倉ペアと木山・今野ペアに分かれて遊んでいた。
「その甘い浮きはいただき!」
高く舞い上がったシャトルを今野がジャンピングスマッシュで真面目達のコートに落とす。
「軽快な音がしたねぇ。」
「あたいだって運動は得意だからね。 折角だから楽しませて貰うよ。」
そう言ってバトミントンを楽しんでいると、他のお客も別のコートに入って楽しんでいた。 見た目的には真面目達と同じくらいの年齢だろう。
「若者人気なだけはあるね。」
「そうだろう。 凄いだろう。」
「なんで隆起君が誇らしげなのさ。」
そのままの流れでバトミントンを繰り返していると、真面目は視線を感じた。 周りを見ると隣のコートで遊んでいたグループや外から覗いているグループが真面目を凝視していた。 その視線は主に真面目の胸に吸い寄せられるように。
「・・・どこへ行っても誰と一緒でも同じなのか・・・」
ポツリと呟いた真面目の言葉に、他の3人も大体察しが付いたようで、バトミントンコートを去ることにしたのだった。
「やっぱりなんかデメリットな気がするんだよねぇ。」
室内スポーツコーナーの一角にある仮設のフードコートでお昼を食べている4人だったが、真面目がふとそんなことを呟いた。
「デメリットってなにが?」
「何て言うか、この胸がちょっとさ。」
「その胸にデメリットなんてある?」
「ありまくりだよ。 というかそうだって今分かった。」
元女子である2人からの質問に真面目はため息を付きながらハンバーガーを食べる。 安くて食べやすい形状だったので、迷うこと無く選ぶことが出来た。
「まずは動くとどうしても揺れるんだよね。 下着で動きを止めてるのにも関わらず、だよ。」
「なるほど。 確かに破壊力はある。」
「うん。 そしてそれに見いられるかのように、周りの視線が胸に行くんだよね。」
「そりゃそんなに大きいのを見たらなぁ・・・」
真面目の真剣な悩みは、同情という気持ちのみで終わってしまう。 性転換で肉体的に変化が大きいとは言え、流石にそこまでの悩みに対しては本人にもどうにも出来ないからである。
「でも気にしててもしょうがないんじゃない? なっちゃったんだからどうしようもないんだし。」
「そうは言うけど今野さん。 時には割り切れない時もあるんだよ。」
「それじゃあさ。 午後はこのフロアで遊ばない? ここならそこまで動かないだろうし。」
仮設フードコートのあるエリアを得流はさす。 そこには卓球やビリヤード、銃を使ったアーケードゲームがあった。
「ここならそんなに動くことは無いでしょ?」
「それに見られてても気にならないしな。」
「運動する場所で銃って言うのもどうなんだろうね?」
「そこは気にしたら負け。 楽しめればそれでいいんだと思う。」
そうと決まったなら真面目達は昼食を食べ終えて少し休んだ後に、アーケードシューティングに挑むのだった。
「そこに敵!」
「オッケー!」
「狙ってくるよ!」
「うわっ! 危ないなぁ。」
今は真面目と岬の2人で協力しながらステージを攻略している。 序盤はなかなか良かったのだが、中盤に差し掛かり敵の攻撃が激しくなったり、配置が巧妙だったりと苦戦を強いられ、真面目に攻撃が当たり、「GameOver」の文字が表記された。
「あー、流石にあれは反応できないわな。」
「でも惜しいところまで行ったじゃん。 よし、次のあたい達が仇を取ってくる! 行こう木山!」
「っしゃあ!」
入れ替わるように真面目と岬から隆起と得流のペアが始める。
「ふー。」
「お疲れ様。 手強かったね。」
「そうだね。 ゲームとは言え本当に油断できないよ。 それにここにこういったゲームがある理由がなんとなく分かった気がする。」
その言葉に岬は首をかしげる。
「ほら、このゲームもそうだけど、大体ここに置いてあるものって共通点があるなって思ってさ。」
「共通点?」
「多分動体視力を鍛えるのが目的なんだと思うんだ。 ほら、ボールが飛んでくるのを見たり、敵がどこにいるのかを観察したりするのとかさ。」
「そう言うことなら反射力も試されるかも。 敵の攻撃を避けたりとかするのに必要だったから。」
「あー、言われてみればそうかも。」
「うわっ! またここで当たった! 真面目、交代してくれよぉ。 俺じゃあここから先に進めねぇよぉ。」
「ほんと意気揚々と行く割には結構玉砕されてくるよね。 活発娘は後先考えない、かな?」
下らないことを考えつつ真面目は涙目になっている隆起と交代するのだった。
「いやぁ、ようやく倒せたと思ったらもうこんな時間だよ。」
結局真面目達4人で交代しながらやってようやくクリアした頃には、日が沈みかけている時間帯になっていた。
「これ以上はもう大丈夫だよね。」
「ああ。 お陰ですげぇ楽しめたぜ。」
「それはよかったよ。」
そして同じ最寄り駅で全員降りた後に、ロータリーで解散することになった。
「そいじゃ、また明日な。」
「また学校でねー!」
「お疲れ様。」
「また明日。」
そうして1日が終わりを向かえ、また平日へと戻っていくのだった。




