女として磨くために
セルナとの唐突なショッピングに付き合わされた翌日の明朝。 真面目は目を覚まし、タンスから学校のブレザーを取り出し、階段を降りていき浴室へと向かう。 そして何時も通りにシャワーを浴びて、着替え直してリビングに入る。
「おはよう真面目。 ・・・あら? 今日は振り替え休日でしょ?」
朝食の準備をしていた壱与に指摘されて真面目は、「あっ」と思い出したかのように身体を震わせた。
「しまったそうだった。 文化祭が終わったから今日は休みだったんだ。 普通に登校する感覚で起きてた。」
「いいんじゃない? 休みだからって変に身体を休ませると、次の日がツラくなるわよ。 もう少しで朝ごはん出来るから、食べてから部屋に戻りな。」
「そうさせて貰うよ。」
そう言って真面目は椅子に座り、用意してくれた朝食を食べるのだった。
「しかしどうしようかなぁ?」
朝食を食べ終えて部屋に戻った真面目であったが、流石にここから部屋着には戻したくはないと思っていた。
「とりあえず制服だけは脱いでおこっと。」
着る意味を無くした制服から解放されて、自分の身体を姿見で改めて確認する。
肌は夏休みによって少し焼けてはいるが、そうだったとしても極め細やかな肌をしており、プロポーション的にも、出るところは出て締まる所は締まっている感じだ。
「これが世の中の女性の理想像ってことなのかな?」
そこそこ背が高かった真面目にとって、八頭身と呼ばれる女性は美しいと言われていたのは、果たしていつの時代だったかと考える。 そして自分の付けている下着を見て、苦笑をする。
「こうやって付けている辺り、なんだかんだで抜け目無いのかも。」
今真面目が付けている下着は、昨日のセルナとの買い物で買った下着だ。 サイズ感もピッタリで、水色を主体としたそれは、真面目の四肢をより強調するかのように付けられていた。
「・・・まあ見せつける相手なんていないんだけどね。」
そんな風に肩を竦めていると、真面目の携帯が鳴った。
「誰からだろ? 下から?」
同じ学校なので休みなのは知っているが、真面目になに用かと携帯を確認する。
『おはよう一ノ瀬君。 こんな時間にMEINして大丈夫だったかな?』
どうやら向こうはこちらが起きているか分からないまま連絡をしてきたようだ。
「まぁ、こんな時間に「予定ある?」みたいな文章じゃないから好感は持てるんだよね。」
時計を改めて確認してみれば、時刻は7時半すぎ。 予定を組むなら今のうちだろうという真面目の考えと、相手が下なので無茶苦茶な予定は組んでこないだろうという気持ちで返信をすることを考えた。
『起きてるから問題ないよ。 それよりもどうかした?』
無難な返事を送る真面目。 これに関しては面白味がないと言われても仕方がない。 そもそもがそう言う性格ではないため、真面目にとってはこれが正解なのだ。
「ん。 返事が来た。」
『それなら良かった。 メイク用品に新しいのが出たからチェックしに行きたくてね。 でもぼく1人じゃ分からないから、感想係が欲しいなって思ってさ。 どうかな?』
そう問われた真面目は少し考える。 昨日の今日で2日連続で出掛けることに抵抗が出てくる。 しかしこの事に関して送り主である下には関係の無いことだし、何より着替えてしまった以上はどこでもいいので出掛けた方がいいという真面目の思考回路で埋め尽くされた結果。
『特に予定もないからいいよ。 何時から集まる?』
とりあえず予定は作っておくことにした。
「友人付き合いも大変だ。」
それが悪いとは思わない。 むしろ去年までの自分では明らかに今の誘いを断っていたかもしれない。 そもそもそう言った友人がいたわけでもないが。
『それじゃあ9時に商店街入り口に集まろうよ。 また後でね。』
そう書かれて時間を見てみる。 先程から時間はほとんど経っていない。 1時間以上は猶予があるものの、折角下に会うのならばもう少ししっかりとした服装の方がいいだろうと思った真面目は、洋服タンスから服を時間いっぱいまで選ぶのだった。
「流石に凝りすぎたかな?」
真面目が今着ているのは白のシャツに緑を基調とした赤のラインが一本入ったパーカー、そして赤色のフレアスカートの一種で、タックスカートと呼ばれるスカートを履いてきていた。
髪も頑張ってシュシュを使って後ろ髪を1つにまとめてみた。 うねり毛が少ない分手櫛でもある程度は整えられたので、それなりに満足している真面目。
商店街入り口での集合となっているため、日陰に退避しているが、それでもまだ日射しの暑さは健在である。 そしてもう1つ真面目は気になっていることがあった。
「・・・大人も子供も目を惹いてる。 他の人達とそんなに大差ない格好してるのに。」
入り口で待つこと数分以内に、真面目に集中していた視線は時間に比例していない程だった。 しかも今日が真面目達の学校が振替休日であるため、本来ならばそこまで人がいない時間帯であるにも関わらず、真面目の前を通る人に一度は目を向けられているのだ。
「別に街頭アンケートとかドッキリの仕掛人とかでもなんでもないのにね。」
独り言を愚痴る真面目は、呼び出した下が早く来てくれないかと願っていた。 この居たたまれない視線から早く抜け出したいのだ。
「お待たせ~。」
ようやく来たかと真面目が声のする方に顔を向けると
そこには確かに下がこちらに向かって来ているのは分かった。 問題はそのファッション。 上と下も白と黒のチェック柄で染められたブラウスとスカートを履いてきて、髪も黒のリボンでツインテールを作っている。 セミロングではあるものの作れなくはないようなので、真面目にとっては新鮮だった。
「いやぁごめんごめん。 待たせちゃったかな?」
「ああいや、これくらいなら許容範囲内なんだけど・・・」
時計を見てみると予定時刻よりは1、2分ほど遅れてはいるものの、その程度なら問題にはならない。
そしてなにより真面目が気になったのが下の顔である。 メイクだったとしても、目の下のクマが濃く、顔色が蒼白いので体調が優れないように見えたのだ。
「とりあえず大丈夫? 無理してきてない?」
「大丈夫だよ。 この顔色の事を言ってるなら、これもファッションの内の1つなんだよ。」
「え?」
「地雷系って言ってね。 ちょっと拗らせてる感じの女子に見せるようにするためのファッションなんだよ。 メンヘラとかって聞いたことはある?」
「言葉だけは?」
「そう言う子達がよくしているファッションって認識でいいよ。 ちょっと凝りすぎちゃって時間が掛かっちゃったけど。」
それだけ準備していればそうもなるだろうと真面目は思った。
「それにしても君も随分と気合いを入れたように見えるね。」
「そうかな? 自分じゃ実感無いけど。」
「女子のコーデは大変だからね。 男子以上に気を遣うし。 でもちゃんと分かっていれば、こういったお出掛けには丁度いいんだよね。 ぼくは元から興味があったからだけど、大半の人はそれも出来ないだろうし。」
下の言っていることももっともで、実際に真面目もここまで自分をコーディネートすることになるとは思っても見なかったのだから。
「それじゃ行こうか。 そろそろぼく達に向ける目線が好奇心だけじゃなくなってきてるみたいだし。」
下の言う通り、若い人からものすごい熱烈な視線を向けられているような気がした真面目は、下の後を付いていくことにしたのだった。




