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午後の遊び方

 本屋に着いてまず2人が向かったのは雑誌コーナー。 その中でも音楽動画配信にスポットを置いた雑誌を見ていた。


「自分が載ってるのかやっぱり気になる感じ?」

「別にトップランカーを目指している訳じゃないけど、こうして載っている人のを見ると、もっと私も見て貰えるように頑張らないとって思えてくるのよね。」

「その向上心があればいつかは届くよ。 少しずつ登録者は増えてるんだし。」


 ちゃんと彼女の頑張りは伝わっていることを真面目はなんとなく確認している。 勿論完全に把握しているわけではないものの、セルナと出会ってからちょくちょくは配信を見に行ったりしているのだ。 真面目も口には出さないものの、応援はしているのだった。


 そしてそんな雑誌類から奥に進み、続いて見に来たのは


「絵本コーナー?」

「そ。 私の生まれ育った地域の子供達の為にね。」


 その言葉で真面目もそうだが、セルナのちゃんとした出生先は誰も知らない。 恐らくそれは誰にも明かすことのない、セルナの中の事実。

 だが真面目は好奇心などで彼女の過去を深掘りなどはしない。 絵本を選んでいる今の彼女の姿は、決して配信では見ることの出来ない姿だったからだ。


「とりあえずこんなものかしら?」

「はい。 このかごに入れなよ。 そのままだと本が崩れちゃう。」

「ありがとう。 次は漫画コーナーに行くから丁度良かったわ。」

「そんなに大量に買って大丈夫なの?」

「私の配信やライブを見に来てくれた皆から貰ったお金だからちょっと気が引けるけど、貯めておくって言うのも私の性分じゃないの。 使えるものは使った方が道具としても嬉しい筈よ。」


 お金って道具かなと真面目は思いつつも、使う場所がなければただの紙切れという言い方をすれば納得が出来たので、なにも言わないことにした。


「随分と買い込んだものだよ。」

「日本の漫画は面白いからね。」


 真面目の率直な感想に、セルナも普通に返す。 真面目は買い込んだと言うもののセルナが選んだ漫画は数冊で、最新刊を買った感じであり、ほとんどは絵本で紙袋が一杯になっていた。


「重たかったら言ってよね。 私が買ったものなんだから、あなたが持つ必要はないのよ。」

「これでも男の子だったのでね。 見栄を張りたいのさ。」


 見た目で判断されたくなかったのか、真面目は少し無理を強いた。 とはいえ相手は有名配信者。 もしもの事があっては目も当てられない。

 そんな風に真面目が思っていると、セルナが携帯を取り出していた。


「あ、ごめん。 ちょっと待ってて。」


 そういってセルナは真面目から距離を置く。 真面目もマネージャーか誰かからの連絡だろうと判断し、その場に残ることにした。

 そして数分後。


「ごめんなさい真面目。 後1時間したら迎えが来るみたいなの。 そろそろ次の場所へのフライト時間があるからって。」

「そんなことを僕に謝らないでよ。 楽しんだのはセルナなんだから。」

「本当に優しいよね真面目は。」


 そう言ってセルナも優しく微笑んだ。


「それでどうしようかしら? 1時間とはいえ余裕はあるのよね。」

「だったら丁度良い場所があるじゃないか。」


 真面目の答えにセルナは頭に「?」を浮かべる。 そんなセルナを知ってか知らずか、真面目はそのままエスカレーターの方に歩いていったので、セルナもそれを追いかけた。


 そしてたどり着いた先は、ショッピングセンターになら必ずある、ゲームセンターだった。


「随分ときらびやかな場所ね。」

「あれ? ゲームセンターは初めて?」

「あんまり行く機会は無かったかしらね。 真面目はどう?」

「かく言う自分もそこまで詳しくはなかったり。 外に出てまでゲームをするって言うのもねって思ってさ。」


 お互いに未知の場所であることは間違いないようなので、とりあえずは入ってみることにする。 主にいるのは小・中学生位の子供達。 たまに大人も混じっているが、大抵はクレーンゲームや音楽ゲームの前にいる。


「元々は子供が遊ぶ場所って認識で良いのかしら?」

「こう言った場所はそうかもしれないけど、大きいゲームセンターなら多分大人の方が多いだろうね。」


 行ったこともない場所の想像を膨らませつつ、最初に立ち止まったのは音楽ゲームでもボタンの複数ある筐体に立った。


「こう言うのは動画で観たことがあるわ。 画面の譜面の他にボタンが見えているんだけど、それを叩いてる人の手がまるでいくつもあるように見えるのよ。 あれも技術の賜物?」

「技術って言うか、あれは完全に練習によるものでしょ。 一般人にあれだけ手を動かす技術は持ってないよ。 普通の人はね。」


 目の前の彼女が勘違いを起こす前に真面目は釘を刺しておく。 動画としては面白いだろうが、そこまでになってくるまでにはなって欲しくないと思ってしまう。


「真面目。 これ、一台で対戦が出来るみたい。 一緒にやらない?」

「まあそれくらいなら。」


 時間潰しに来ているので、真面目もそこまで否定する理由はない。 なのでお金を2人分入れて、チュートリアルを終えた後に選曲画面が現れる。


「曲は真面目が選んで。 私だとどんな曲があるか分からなくって。」

「別に自分のやりたいものをやれば良いのに・・・」


 とは言えリクエストをされたので真面目もどれが良いかと悩んで、結局は有名な曲を選択した。 そして2人で対戦をして(僅差でセルナが勝った)、クレーンゲームで2人して散財しながらも手に入れたぬいぐるみを譲り合ったりと、なにかとしている内に時間は過ぎていき、そして


「セルナさん。 お迎えに来ました。」


 目的時間よりも早めにゲームセンターを出た真面目とセルナの前に現れたのは、カジュアルフォームなスーツの女性だった。


「あれ? まだ少し時間があると思ったんだけど。」

「予定時刻よりも早くに来たことには訳があります。 セルナさんではなく、そちらの方にお話がありますので。」

「僕?」


 真面目に焦点を当てられて困惑するが、自分に用があることになんとなくだが理由が分かっていたので、特に疑問を持つこと無くその人の後をついていく。


「一ノ瀬 真面目様、でよろしいですね?」

「様付けはなんだか慣れないですが・・・まあそうですね。」


 そう返事をすると、その女性は真面目に向かって頭を下げてきた。


「本日はセルナさんのリフレッシュにお付き合い誠にありがとうございました。 ここのところ多忙だったゆえ、セルナさんの気分が少々優れなかったのです。」

「それで仕事を抜け出して文化祭に来てたのか。」


 あの場に何故セルナがいたのか理解は出来た。 ただ真面目達の通う学校の文化祭に来たのは偶然も偶然だったのだろう。 そしてその過程で真面目とのショッピングにこじつけたとするならば、相当な行動力である。


「セルナさんがいなかったことにより次のスケジューリングがかなり遅れた事は確かですが、それ以上にセルナさんに休息日を与えていなかった我々の落ち度とも言えたので、本日の事はセルナさんから直接聞いた上で敢えて見張りを付けずにセルナさんを送り出したのです。」

「だから怪しい人が見えなかったのか。」


 てっきりコッソリと付いてきているものだと推測していた真面目は、その話を聞いて肩の力が落ちるのだった。


「今後はこうして会う機会も少なくなるとは思っておりますが、もしもまたこのような機会がありましたら、セルナさんのわがままに付き合ってあげてください。 彼女にとっても真面目様との交流が一番の楽しみらしいですから。」

「そう言われるとなんか複雑ですね。」


 嬉しい事を言われている筈なのだが、素直に喜べないのは、ひとえにセルナが有名人だからなのかもしれない。 これが岬や得流だったならここまで悩むことも無かっただろう。


「でも分かりました。 また近くにでも来たら会わせてやって下さい。 予定が合えば、の話ですが。」

「お気遣い感謝いたします。 それでは時間ですので。」


 そう言って真面目と離れて、セルナの元に向かい、そのまま戻るのかと真面目が思っていたら、セルナが最後に大きく手を振って別れをしていたので、真面目も小さく手を振って、家に帰ることにしたのだった。


 その後の話で、結局セルナが日本のショッピングモールにいたことがSNSで拡散はされたものの、本人の知らないところでの話題で、真面目と一緒にいたことには特に触れられていなかったので、その通知を見た時に真面目はホッとしたのだとか。

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