食事でも楽しく
ランジェリーショップで買い物を終えた2人はその足でフードコートに向かうと、そこにははち切れないくらいの人集りが出来ており、席が空くのを今か今かと待っている人達でいっぱいだった。
「うわぁすごい人。 これ全部お昼のお客さん? さっきまでこんなにいるのに気が付かなかったわ。」
「まあ、みんな考えることは結局同じなんだよ。 人間だって生理現象には敵わないってことだよ。」
「どうしたのよ真面目。 そんなに元気を無くして。」
「主に君のせいなんだけど?」
先程の買い物で気力と体力を持っていかれた真面目は、早く席に座りたいのを堪えて、セルナと共にフードコートを見て回る。 当然のことながら席は空いていない。
「ねぇ、あそこ空いてるんじゃないかしら?」
「駄目だよ。 荷物が置いてある。」
「それならあっちは?」
「椅子にジャンパーが掛かってる。 あそこも駄目。」
そんな風に見ているとセルナが少し不機嫌そうな顔を見せた。
「一応僕はランジェリーショップに寄る前に言ったんだからね? こうなることは目に見えて分かっていたんだから。」
「そうじゃなくてさ。」
どうやら席に座れないことに不服を申し立てているのではないようだ。
「あそこまで荷物を無防備に出来るなんて、警戒心が薄いのかしら? それとも取られないって絶対的な自信があるの?」
「だからここは日本なんだよ。」
セルナが言いたいことが真面目には分かった。 分かった上で真面目が言った言葉がその一言だった。
「そりゃ海外に行けば手荷物は常に持っているものだし、取られたら絶対に返ってこない。 でも日本はそんなことをする人は少ない。 だから世界一安全な国なんだよ。」
その説明を受けたセルナはため息をついた。 ただし悪い感じのため息ではない。 忘れ物が見つかった時のような、安堵のため息だった。
「ごめんなさい。 そういう国だということを忘れて、自分の思い込みだけで怒ってしまったわ。」
「まあ外人の人に聞けば絶対驚かれる状況No.1だからね。 ・・・あ、あそこが空いたから行こう。」
そうして席を確保した真面目達。 ようやく一息つけると腰を重々しくして席に座った。
「とりあえず僕は後でいいから、先に選んできなよ。」
「それならそうさせて貰おうかしら? 日本食だから楽しみはいっぱいあるわよ!」
セルナが席を立ち上がり、フードコートの人混みの中に紛れ込んでいった。
「あの中に有名人がいますって言われたところで、わりと信用されないかもね。」
それだけセルナが変装に対して徹底しているとも言えるだろう。 日本での知名度が今のところどれだけかは真面目は分からない。 分からないがいくら日本人でも有名人が近くにいるとなれば、興奮することは間違いない。 余計なトラブルは避けて貰いたいものだ。
席についてからおおよそ20分、ようやくセルナが戻ってきたと思えば、既に料理の乗ったお盆を持っていた。
「お帰り。 随分と時間が掛かったようだったけど・・・」
「どれにしようか迷っちゃって。 日本のテンプラは美味しいし。」
お盆に乗っていたのはうどんの入ったどんぶりに添え物として季節のかき揚げとおにぎりが乗っていた。
「それじゃ、僕も頼んでこようかな。 先に食べてて構わないよ。 のびると美味しくないし。」
「・・・のびる?」
「身長とかが大きくなる伸びるの方じゃなくて、麺が汁を吸って美味しくなくなることを「のびる」っていうんだ。 そういううどんもあるけどね。」
そういい残して真面目はハンバーガーチェーンの店に並ぶ。 理由としては他の店よりも列が少なかったからである。 セルナを1人にさせるのは危険な橋渡りになっているので、早急に戻る必要があったからだ。
適当にハンバーガーのセットを頼んで、店の横に移動する。 そして自分の番号が呼ばれたので、そのままお盆を持ってセルナのところに戻る。
「お待たせセルナ・・・なにをやっているかは敢えて聞かない方がいい?」
真面目が目にした光景は外人らしいと言えば外人らしい光景だった。 うどんを食べようとしているセルナだったが、上手く食べることが出来ずに悪戦苦闘している様子が伺えた。 そんな対面に真面目は座る。
「やっぱりうどんは食べづらいわね。 なんていうか麺を一気に吸えないわ。」
「あ、何度か試した事はあったんだ。」
「日本食の1つだしね。 そばも食べたけどあれはあれで美味しかったわ。 パスタとは違う独特の風味で、刻んであった海草も風味が増して美味しかったし。」
「海苔の事だね。 というかレンゲで小さく作って食べればいいんじゃないの?」
「ここは日本流でいきたいの。」
それで食べるのに時間がかかったら元も子も無いのになぁとハンバーガーの包みを向いて、真面目は口に運んだ。
「んー! サクサクしてて美味しい! 油で揚げているのに野菜の味とさっぱりとした感じが本当に素晴らしいわ!」
一度うどんを諦めたのか、かき揚げに箸を伸ばして感動しているセルナを見て、真面目は少しだけ口角を緩めた。
「あら、私がテンプラを食べている姿がそんなに面白い?」
「面白いっていうか・・・まあ、典型的な外国人観光客だなって思って。」
「それって褒めてる?」
「慣れるとその感動も忘れるんだよ。 まあ麺を啜ることが出来るのって、ある意味では日本人の特技だよね。」
真面目が思い返しているのは、なにかの番組の特番でやっていた「外国人アンケート」のようなものだった。 日本人の行動は、外国人にとっては驚かれるものだとかどうだとか。
「そうそう! あとはこの箸も小さい頃から訓練するんでしょ?」
「訓練って言い方は良くないけど、まあ教えられるは教えられるよね。」
「私もこれを使うのにかなり苦労したわ。 普通の料理を掴むだけでも難しいのに、豆なんて掴める気がしないわ。」
はあ、とため息を付くセルナ。 真面目から見てもちゃんと使えているので、相当練習してきたことを伺えた。 元々興味があったとは言え、ここまでの上達っぷりは真面目でも感心していた。
「まあゆっくり食べなよ。 今日はこの後もそんなに急いでないんでしょ? 僕は待ってるだけだし。」
「いくらなんでも食べるのが早すぎない? 私よりも後に頼んだのよね? 手軽さが売りとは言え、もうちょっと配慮出来なかったの?」
「そういう意味では僕は同調って言葉が似合わないかもね。」
真面目のお盆には既に食べ終わった残骸のみがあり、飲み物を飲んでいた真面目にセルナは呆れながらも、なんとかうどんを食べ続けるのだった。
「ごめんなさいね。 スープまで飲むのを待ってくれて。」
「麺がのびる前に食べ終えられて良かったじゃない。 まあ啜るのはやって覚えるしかないかな。 日本人は無意識で出来るし。」
色々あったものの何だかんだで食べ終えた2人は、空き始めているフードコートを後にして、再びショッピングコーナーに入った。
「それで次に行きたいところは?」
「本屋に行きたいわ。」
「OK。 ちょっと距離はあるけど、運動がてらって事で。」
そうして行き先の決まった2人は本屋に向かって歩いていくのだった。




