人気者のお買い物
ショッピングモールの中に入れば右にも左にもお客さんが歩いている様子が伺える。 休日と言うこともあって家族連れ、学生同士(性別は逆転している)、大人のカップルなどで賑わいを見せていた。
「へぇ。 ショッピングモールって、もっと人が入っているものだと思っていたんだけど。」
「朝だからかもね。 お昼とかになればそれなりに人は入ってくるよ。 主に買い物客で。」
前に行った時の事を思い出しながら真面目はそんな風に説明をした。
「真面目はよく来るの?」
「僕はよっぽど。 食材とか欲しいものを買うなら商店街の方に行くし。」
セルナに感心されたような顔をされつつ、とりあえずインフォメーションコーナーにある地図で店内を見ることにした。
「それで最初はどこから行くの?」
「色々と見て回りたいけど・・・まずは服屋かしら。」
「服屋なら・・・ここだね。 すぐ上だからエスカレーターで行こう。」
そうして迂回した先のエスカレーターに乗り、その服屋に向かうのだった。
カジュアルが売りのその服屋にて、真面目とセルナは自分達の見ている服にお互いに複雑な顔をした。
「・・・真面目の選んだ服って、男の子用じゃないの?」
「・・・そういうセルナだって、女子としてそのセンスはどうかと思う。」
2人のファッションセンスが壊滅的だと言うことを理解しあった。
真面目はアルファベットを殴り書きしたシャツを選んでいたのだが、その背景やポップの雰囲気が明らかに男子よりなのだ。 真面目の元の性別を考えれば問題ではないのだが、今の真面目の見た目は女子であり、男勝りにも見えないので、選んだ服ではミスマッチになる。
逆にセルナは装飾やらなにやらがジャラジャラとついた服を持ってきており、なにに対して訴えているのか分からないようなセンスだった。
「私達、服を選ぶのは止めた方がいいみたいね。」
「少なくとも他人には意見を出せないってことだね。」
2人してため息をついた。 とはいえこのまま服を買わずに出ていくのも申し訳ないと感じ、とりあえず無難な服を適当に見繕って、店を後にするのだった。
「次はアクセサリーかしら。」
「同じ階層にあるから、そのまま歩いていこうか。」
そう言いながら歩いていくのだが、真面目はまだ気が気でならない状態になっていた。
「うーん。 ネックレスだと踊ったりする時に邪魔になったりするのよ。 でも折角見に来てくれる人にサービスしたいし。」
「だったらブローチとかはどう? クリップで止めるタイプだけど、邪魔にはならないだろうし。」
「あ、いいじゃない。 星形で、こういうの何て言ったっけ。 あばら模様?」
「それを言うなら斑模様。 あばらじゃ骨になっちゃうよ。」
そんなやり取りを行いながらもしっかりと購入までこぎつける2人。 そしてセルナは自分のブローチの他にもう1つ、ペンダントを購入していたようで、それについて真面目は注目していた。
「ん? 2つ買ったの?」
「そうよ。 はい。」
そう言ってセルナはペンダントの方を真面目に渡した。
「ん?」
「買い物に付き合ってくれたお礼としてね。 あげるわ。」
「それはありがたいけど・・・普通そういうのって最後にやらない?」
「最後にしようとするとすぐに帰ろうとすると思って。」
その言葉に真面目は返す言葉が無かった。 実際にそうするつもりだっただけに余計にそう感じてしまったのだった。
「次はどうしようかしら。」
「他になにか見てみたいものは無かったりする?」
「そうねぇ。」
セルナがそう辺りを見渡していると、ふと1つのものに目が止まった。 真面目もその先を一緒に見てみると、金管楽器が並んでいた。
「やっぱり音楽をやる上では気になる? 楽器を見るのは。」
「最初は私だって弾き語りみたいな感じでやってたから、あそこまで本格的な物はまだ多く触れてないの。」
今までどうやってきたのか気になってきた真面目であったが、そこは彼女の努力として聞くのは止めておこうと思った。
「気になるなら行こうよ。 今日はそのために来たんでしょ?」
どうせ止まっていても埒が明かないと感じた真面目は、どうせ行くならとセルナを誘う。 そう言われてセルナは気分を良くしたのか、向かう途中でウキウキになっていた。
「そういえば配信の時はなにか使ってたの?」
「使ってた、って表現は違うかな? 私は自作してたの。 楽器を。」
「自作?」
「自作でも限界はあるし、こう言った息を吹き掛ける物じゃなくて、ギターみたいな感じのを作ってたわ。」
そう言いながらセルナは近くにあったマウスピースを手に取る。 確かにこの形状を作るのは簡単だろうが、そこから音を出すと考えたら、単純な話ではないだろう。 出来る限りの自作楽器ならそうならざるを得ないかと真面目は思った。
「今でこそ楽器を使って音楽を作ってくれる人がいて、歌詞まで付けてくれる人もいる。 だけど私がやりたかったのは、全部を1人で出来るようになりたかったの。」
「元々の配信の目的は自分の成長記録を見るため?」
「それがあそこまで大きくなるなんて、人生ってなにがあるか分からないわよね。 一歩の踏み出し方の違いって奴かしら?」
その表情はどこかやりきったような雰囲気を出していた。 一歩を踏み出すことの大切さを知っているように真面目は見えた。 そういう意味では見習わなければならない部分ではあると真面目は思ったのだった。
そして特になにも買うこと無く楽器店を後にした2人。 真面目が時計を見るとお昼前になっていたので、フードコートに行って席を確保しておきたいと考えていた。
「一度フードコートに行ってお昼を取ろう。 この時間帯から人が集中するから。」
ショッピングモールに来たことが少ないとセルナが言っていた為、昼の混み具合も知らないだろうと思った真面目は、そんなセルナに声をかけたが
「いいえ、もう1つだけ寄りたいところがあるから、そこだけ行きたいの。 駄目かしら?」
セルナがそう言ってきた。 真面目としては後でもいい気がしたが、セルナの考えを尊重して、ついていくことに決めた。
「別に構わないけど、なにを見たいのさ。」
「ランジェリーショップ。」
「・・・え? なんだって?」
「だから、ランジェリーショップよ。 ついてきてくれるでしょ?」
真面目にとって予想外の行き先に戸惑いつつも、言ったからには二言を言うわけにもいかず、仕方なくついていくことになった。
そしてその店の前に立ち、真面目は立ち止まる。
「どうしたのよ真面目。」
「僕はここで待ってるから、選んできなよ。」
「なに言ってるのよ。 あなたの分も買うに決まってるでしょ? ほらいくわよ。」
セルナに手を引かれて店に入る真面目であったが、真面目としては正直気が引けていた。 見た目は女子でも中身は男子。 最近は男子という感覚が薄れつつあるものの、名残はまだあるのでどうしても色々と目移りしてしまう場面もあったりする。
「うーん、私のサイズでだとこの辺りになるのかなぁ? デザインは・・・こっちよりもこっちの方がいいかしら? どう思う真面目?」
「いや、どうって言われても・・・」
真面目の目の前で2つの下着を見せられて、直視も出来ない。 というよりもしてしまえばそれこそなにかを失うのではないかと思っている真面目。 正直なことを言えば居たたまれなくなっていた。
「まあ、こう言う時は2つとも買っちゃうのが無難よね。 ちょっと試着してくるね。」
宣言する必要の無い事を言われた真面目であったが、ずっといるのも居心地が良くないので、流れるように試着室に行く。
「・・・女子になって買い物が長くなる理由がなんとなく分かったような気がする。 少なくとも隆起とはこんな感じに買い物は出来ないだろうなぁ。」
「真面目、ちょっといいかな?」
試着室からセルナが顔だけ覗かせて真面目に声をかけてきた。
「ん? なに?」
「背中のホックが届かなくって。 ホックを留めてくれないかな?」
「サイズが合ってないだけじゃないの?」
「そんなこと無いと思うんだけど・・・ね、留めるだけだから。」
そう言ってセルナは背中を向ける。 いきなり真っ白な背中を見せられて、真面目は目を見張った。 スカートは穿いていたからまだ良かったものの、生肌を見せるのは真面目の心臓に悪く感じた。 しかしそのまま晒すわけにもいかないので、慣れない手付きでホックを留めた後にカーテンを閉めた。
「・・・今の僕が女でファンじゃないから出来ること。 全部が逆だったら本当に危ないよ。」
独り言のように喋った後に再びカーテンが開けられると、既に着替え終わったセルナがいた。
「試着は終わった? それならお会計を済ませてきてよ。」
「なに言っているのよ。 次は真面目の番よ。 あなたの方がやりがいがあるんだから。」
目をキラキラとさせたセルナの姿に、真面目は「勘弁して」と言わんばかりに肩を落とすのだった。
セルナ「こうして誰かの服を見繕ってあげるのも、私の中では夢だったのよねぇ。」
真面目「願いが叶ったようでなにより。」
セルナ「それにしても真面目の胸大きいわね・・・なにを食べたらそんな風になるの?」
真面目「元男の僕にそんな疑問を投げ掛けないで。 というか必要以上に触らないでよ。」
セルナ「いいじゃない、減るものじゃないんだし。」
真面目「僕の中のなにかは確実に失われてるんだけど。」




