今話題の人物と
文化祭が終わった翌日。 真面目は普通の休みであるにも関わらず普通の時間に起きた。 文化祭後で疲労感が溜まっているので、もう少し寝ていても構わないのだが、真面目にとってはそうは行かないのだった。
「はぁ・・・全く、向こうには自覚がないのかな?」
朝から愚痴を言いつつも身体を起こして姿鏡の自分を見る。 この行為自体に意味はないのだが、やらないと気が気でならなくなっている。 ルーティングからは逃れられなくなっている真面目である。
そしてそんな姿鏡の隣に飾るようにハンガーをかけられているのは、自分が昨日まで着てきた和服である。
この和服は岬と共にネビュラに返そうとキャンプファイアが終わり、下校時間になる前に着替えてネビュラに渡そうとしたのだが
「ソレハワタシカラノサプライズプレゼントダトオモッテクダサーイ。」
と、そのまま手元に残された品物だ。 その時に真面目に向けられた好奇の目には流石に気が付くことも無かったようだ。
「こんなの後にも先にも何時使うのさ・・・」
貰い物、しかも和服であるがゆえに使いどころは明らかに限られる。 使う機会がいつか訪れることを願いつつ、真面目は部屋を出て、シャワーを浴び、着替えた後にリビングへと入った。
「あら、今日は出掛けるの? 昨日まで文化祭だったんだから、ゆっくりすればいいのに。」
「僕自身もそう思ってたんだけどね。 約束しちゃったならもう仕方ないかなって。」
「約束ぅ? もしかして女の子から? 罪な男ねあんたも。」
それは関係無いだろうと真面目は思いつつも、自分の断れない性格がいつか災いを生みそうだと勝手に思っていたりもする。 そうならないように願うばかりなのではあるが。
そうしてなんやかんやで準備が整い、家を出て待ち合わせ場所まで歩いていく事になった真面目。 日曜日ということもあってか、駅に近付くにつれて人だかりが多くなって、少しすれ違うときに半身を避けるようにしなければ前に進みづらくなっている。
「今日はなにかイベントでもあったかな? 後あり得るのは・・・まさかね。」
人だかりの理由を考えてみて、あるひとつの結論が現れたが、それはないだろうと否定。 というかそうあってしまってはこちらも困ってしまう。
そんな人混みをかき分けながら駅前に到着する。 大抵待ち合わせに使われる鳥居の像の前で待機をする。
詳しい待ち合わせ場所は決めてなかった真面目であったが、ここならば目印にはなるだろうと正面ではなく左に回り込んで待機した。
「そもそも昨日はたまたま会っただけだったけれど、予定なんか作れる・・・というか向こうのスケジュール的に大丈夫なのかな?」
これから真面目が会うのは今話題沸騰中の人物であり、真面目のようなごく普通に過ごしている一般人がプライベートでおいそれと会って出掛けるような人物ではない。 仕事の都合だって当然向こうにだってあるわけだし、特にあちこち飛び回っているとなれば、尚更時間が惜しまれる筈だ。 そんな状況下でただ一人、真面目とお出掛けするためだけに時間を割くとはどうなのだろうと考えていた。
「そりゃあ最初は自分一人で活動を始めていて、しかもここまで大きくなるなんて本人が思ってもないことの筈だし。 それだとしても有名人になったなりの行動ってものを」
そんな風に思考を巡らせていた真面目の視界が真っ暗になり、すぐ後ろから声をかけられる。
「だーれだ?」
この声と行為に対して真面目はなにも言う気は無い。 無いのだろうが、敢えて言いたいことを言わせてもらうことにした。
「1人しか会わないのにこの行為ってあんまり意味ないと思うんだよね。」
そう言いながら真面目は目元にかけられている手をどけて、行った張本人の方に顔を向ける。 その人物は少し顔をふてくされた状態で真面目を見ていた
「そんな顔をしてもダメ。 というかもっと自分の立場を弁えて君は今をときめくアイドル。 僕はごく普通の女子高生。 接点だって数回しか会ってないだけ。 OK?」
「なんだろう。 余裕綽々な感じがちょっと気分が良くなくなる。」
そう言いながらセルナは真面目を見ながらそう言っていた。
「というか本当に大丈夫な訳? 日本に来たってことは何かの撮影かライブなんじゃないの?」
「ちゃんとスケジューリングはしてきたよ。 ほら、早くしないと時間が無くなっちゃう。」
そう言われながらセルナに背中を押される真面目。
「うわっとと! 行くのはいいけど、せめてどこに行くのかくらいは教えてくれてもいいじゃないか。 スケジューリングしてきたならそこにつれていってくれればいいじゃないか。」
「それもそうね。 それならじゃたこっちよ。」
そう言ってセルナが歩いていく方向に一緒に歩く事になった真面目。 セルナは画面越しとはいえアイドル的存在になりかけている。 だからこそ本人であることを理由にファンが声をかけてくるかもしれない。 とはいえここは日本なので、いきなり距離感のバグったファンがいないとも限らないが、警戒はしておく必要があるだろうと真面目は思っていた。
というよりもこうしてセルナが歩いているにも関わらすが、ボディーガードらしき人物が見当たらないことに真面目は気が付く。 お忍びで来ているのかもしれないが、誰かしらはいてもおかしくないのでは? と思いつつ、小さくなりかけていたセルナの背中を追いかける真面目であった。
そしてセルナの後を着いていった上でやってきたのは
「ショッピングモール?」
真面目にとってなんとも拍子抜けな場所だった。
「自分が買いたいものが一緒に入っている場所なんて行ったことが無かったのよね。 意外だったでしょ?」
「意外というか・・・てっきりもっと大規模施設に行くと思ってたんだよね。 遊園地とか水族館とか。」
「水族館はともかく、遊園地は少しの間はいいの。 イベントとかで暇をもて余すと大体乗ること多いし。」
「高貴なお嬢様が庶民の生活に触れるみたいな話をしてるなぁ。」
後真面目が考えたのは田舎で暮らしていた一人娘が上京したような雰囲気だった。 実際のセルナだと考えるなら後者の方が正しいわけだが。
「それで? なにか買いたいものでもあるの? というか、マネージャーさんとかに頼めば買ってきてくれるんじゃ?」
「マネージャーにも私の好みは教えてないから、色々と雑多に買ってくるのよ。 こう言った服だって衣装に合わせたものだからあんまり自分で選んだって思えなくて。」
「複雑な乙女心ってやつかな?」
「あなただって今は女子高生でしょ?」
その突っ込みは止めて欲しかった真面目であった。
「とにもかくにも。 私は私の買いたいものを買ってみたいと思っていたの。 日本に来てようやくその夢が叶うんだから。」
「僕はその立会人的立ち位置って考えていいわけ?」
「付き合ってくれたんだからお礼はするわ。 さ、早速入りましょ。」
今まで以上にルンルンな気分で入っていくセルナ。 彼女本人の希望なので真面目はなにも言わないが、とにかく妙なトラブルが起きて、それが大事になら無いように、自分にも周りにも注意しなければと思いながら、真面目も一緒にショッピングモールの中に入るのだった。




